2018年1月29日月曜日

患者(クライエント)への「質問力」その5【質問力を高める「寄り添う力」】

患者(クライエント)への「質問力」その5【質問力を高める「寄り添う力」】

質問力とは、単に質問の幅が広いとか、奥深い質問をしているという一方向の技量だけでなく、クライエントの無意識の答えを読み解く能力も問われる。マニュアル的に質問のフレーズだけを暗記して、一方的に投げかけても、相手の様々な反応をどのように読み取るかの読解力、判断力がなければ意味がないだろう。また、質問で相手も気づいていない心の奥から湧き出た本心を引き出すためには、相手との信頼関係を保つ「寄り添う力」も必要になるだろう。相手が醸し出す波長に上手に合わせることで、相手は心地よく心を開いて本当の答えを導き出すことができる。

武道などにおいても、「彼を知り己を知れば百戦殆からず」という諺のように、相手の実力や現状をしっかりと把握し、自分自身のことをよくわきまえて戦えば、何度戦っても、勝つことができるというようにいわれている。それは武道のみならず、経営などにおいても問題を解決するときは、その内容を吟味し、自分自身の力量をしっかりと認識したうえで対処すれば、うまくいくものだといわれている。医療の現場でいえば、相手の心や身体の現状をしっかりと把握し、自分自身の心の状態や知識や経験による力量をしっかりとわきまえて対処すれば理想的な結果が得られるということになるだろう。

患者が求めているニーズに応えるためには、まずは自分自身をしっかり把握し、頭と心、心と身体が調和していることが大切である。そして、患者のニーズに応えるだけの能力や経験を持ち備えておかなくてはならない。特に心の側面に触れる医療従事者は、様々な角度から患者に質問を投げかけながら、言語では言い表すことのできない心の内面を読み取る力、洞察力が求められる。実際の患者が発する言葉にならない無意識のメッセージは幅が広く、深いものがある。そのような心の隠れた信号を読み解くためには、相手の心に「寄り添う力」が必要とされるだろう。

ただし、相手の言葉や身体に合わせるだけでは、単に相手のラインに沿っているだけなので何の変化も生じなくなる。相手の変化をサポートするためには、まずは相手に寄り添って、時折変化球的な質問をして、未知(盲点)の領域、可能性への領域へ踏み出すサポートが求められる。つまり、寄り添いながらも「ずらす技」が必要になる。例えば、相手を力でねじ伏せるというよりも、むしろ、合気道などのように攻撃してくる相手の身体の波長にうまく合わせてから、相手の力を一旦自分の身体に吸収し、二人の身体が一体となったところでずらして技を決める。患者への質問力でいえば、患者に添って対話をしながら、相手の心を一旦受け止めて、質問の角度を少しずつズラして「盲点領域」への質問を投げかける。


しかし、「盲点領域」への質問を投げかける前に、患者との深いレベルの信頼関係は必修条件であり、深い信頼関係がなければ、患者への「盲点領域」の質問を投げかけても、相手は答えようとしないだろう。そのような深い信頼関係のことをカウンセリングの用語では「ラポール」という。質問力を高めるためには患者とのラポールは必要不可欠であり、そのためにも寄り添う力が必要とされる。

2018年1月27日土曜日

急性腰痛症(#アクティベータメソッド症例)

急性腰痛症(#アクティベータメソッド症例)

四十代男性。3日前くらいから腰に違和感があり立ち上がるときに痛みがあったとのこと。研修中に歩いていたら腰にビキッという違和感を感じ、その後、真っ直ぐに立てなくなったらしい。たまたま隣に座っていた人が、長崎で開業されているAM(アクティベータメソッド)を使っている先生のところに電話をかけくださり、その先生を通じて当院を紹介された。来院時、旅行用キャリーバックを横向きにして取っ手を下げたまま、キャリーを使わず、バックに手をつきながら床に這いつくばるようにして来院された。

通常の検査ができないため、椅子に腰掛けたままで検査を行う。腰椎椎間板由来の症状であったが、下肢への痛みなどはないとのこと。前屈状態からどの方向へも動かすことが厳しい状態なので、フィンガーテストでエネルギーブロックを検査し、座位のままでアクティベータ器を使った。治療台そばのパーテーションに掴まりながら、前かがみで立ち上がることができた。立位にある治療台を背にして、仰向け状態になってもらおうとしたところ、激痛がある状態で到底仰向けにはなれない。

治療台を立て直し、うつ伏せの状態になってもらう。そこからAMを行い関節系、筋肉系の調整を行う。その後、立位状態に治療台を起こすと、患者さんは通常の立位姿勢を保つことができ、「わ〜、すごい!」と喜んでいただいた。恐る恐るではあったが普通に歩くことができるまで回復。旅行用キャリーバックを縦向きにして、取っ手を上げた状態でキャリーを滑らせて持ち帰ることができた。

次の日の朝も来院。前日の治療後、「適度に歩いた方がいいかもしれない」と提案させていただいた通り、来院前に20分ほど歩かれたとのこと。さらに回復されていた様子。AMの調整を行い、腰部の関節可動域もさらに広がった。遠方からの来院だったので、ご自宅近くのAM認定の先生を紹介させていただいた。次の日、患者さんから電話があり、さらに良くなって喜ばれていたとのことだった。

MRIなどの画像検査をしてみないとはっきりしたことは言えないが、おそらく腰椎椎間板にストレスが加わり、線維輪が断裂している状態。その程度によって椎間板内の髄核が脱出して椎間板ヘルニアの状態になっているのか定かではないが、いずれにせよ関節系と筋肉系のバランス調整は必要になる。通常医療では骨盤牽引やサポータで固定するなどの方法もあるだろうが、自らの身体でサポートできる状態に調整することが、何よりも大切だろう。


線維輪の断裂の修復には時間が必要になるが、関節系と筋肉系のバランス調整を繰り返しながら、腰椎椎間板に無理なストレスが加わらないように身体を学習させていくことが症状改善への助けになるだろう。

2018年1月23日火曜日

患者(クライエント)への「質問力」その4【無意識は嘘をつけない】 

患者(クライエント)への「質問力」その4【無意識は嘘をつけない】 

「頭」で考えていることは「意識」、身体」で感じることは「無意識」という前提で考えてみる。現実には「意識」と「無意識」は、有機的に交差しており白か黒のように分けることはできない。分けて考えるとすれば、「意識」は嘘をつくことができるが、「無意識」は嘘をつくことができないということがいえる。最近では身体の「しぐさ」や顔の「微表情」を読み取って本音を見抜くといった書籍も増えてきている。「微表情分析」という顔の一瞬の表情を読み取って、深層心理で示される「怒り」や「恐れ」、「嫌悪感」などの感情を分析する方法がある。嘘を読み解く犯罪捜査官などがこの分析法のトレーニングを受けて、様々な犯罪の検挙に役立てている。0.2秒ほどで現れる一瞬の微表情は、深層心理からくる無意識の仕草であり、「本音」を表している。つまり、無意識は嘘をつかないというよりも、嘘をつけないということになるだろう。

幼児期であれば、ほとんどの子供は「本音」で感情をあらわにするが、成人になるにつれて「理性」の脳が発達して、「建前」で表現することを学習する。例えば「正直にいって・・・」というフィレーズを使う人がいる。深読みすると、「いつも正直(本音)ではなく、建前ばかりいっているのですか?・・・」という疑問が生じる。成人になればほとんどの人は「本音」と「建前」を使い分けて社会生活を営んでいる。すなわち、私たちは多くの「嘘」に触れながら毎日の生活を送っていることになる。もう少し正確に言えば、言葉で「嘘」をつくというよりも、感情を抑えたり、創り笑いなどの「嘘」の表現をしたりして心の本音を表に表さないで生活していることが多い。

時折、なぜか分からないが、悲しくなるという人もいる。「意識」の頭で考えても理由は説明できないが、なぜか「無意識」の身体は泣いているというように自分の本当の感情がどこから生じているのか分からないことさえもある。「私は泣いていません」という「意識」的な言葉よりも、人は「無意識」の涙や表情を信じるだろう。このような意識と無意識の関係性は、本人自身も気づかない。別に嘘をついているわけではない。意識と無意識が不一致であり自己矛盾が生じているのである。このようなことは多かれ、少なかれ誰にでもある自然の現象だと捉えた方がいいだろう。


私たちの日常生活において、人とのコミュニケーションで人間関係が構築され、社会生活が営まれている。そのコミュニケーションとは単に意識的な言葉のやり取りだけでなく、言葉では言い表せない印象や雰囲気で感じ取り、様々に解釈している。むしろ言葉の内容よりも、声の調子や顔の表情などによる無意識的なボディーランゲージによって判断していることが多いだろう。これは、「メラビアンの法則」としても知られていることだが、人とのコミュニケーションは言語による意識的な対話よりもむしろ非言語的な無意識的な対話で成立していると言われており、意識的に行う言語で嘘をついても、無意識的な非言語での対話は嘘をつけないといえるだろう。