2018年3月7日水曜日

患者(クライエント)への「質問力」その8【関心のベクトルを合わせる】

患者(クライエント)への「質問力」その8【関心のベクトルを合わせる】

通常医療では、専門分野に分かれているので、患者が求めているニーズや関心の寄せどころも分かりやすい。しかしながら、慢性症状になると関心の寄せどころも様々になる。事故などによる急性症状の場合は、身体的な構造や機能的な異常に関心を寄せることが最優先される。通常医療では慢性症状を抱えた患者の場合でも、まずは身体の構造的、並びに機能的な問題がないかどうかの検査が行われる。もしも、身体的な異常が見つからない場合は、メンタル面との関係性が疑われ、心療内科の受診を勧められることが多い。もしも、患者自身もメンタル面との関係が身体の症状に影響を及ぼしているという理解があれば、治療者と患者との関心の寄せどころが共通するので、関心のベクトルを合わせることで治療もスムーズに進みやすくなる。

その一方で、本質的な問題にメンタル面が関係しているにも関わらず、患者や治療者がメンタル面に関心を寄せずに、本質的な問題解決に至らずに症状が長引くことがある。メンタル面が関係しているか否かの判断は、目で確認できるものではないので治療者の経験や洞察力が求められる。経験のある治療者がメンタル面の関与を確信したとしても、患者自身が自らの心の影響に関心を寄せなければ、両者の関心のベクトルがずれてしまい治療は進展しなくなるだろう。症状の改善を遅らせる例としてよくあるのは、画像診断などで構造異常が見つかり、本来はその構造異常が症状の原因ではないのに、その構造異常ばかりに関心を寄せて、本質的な原因となるメンタル面に関心を寄せない場合である。

本質を見極めることに長けている治療者であれば、例え構造的な異常が見つかったとしても、その異常は症状に関係していない可能性があることを患者に丁寧に説明して、メンタル面との関係性にも関心を寄せるように促すだろう。また、慢性症状の原因がメンタル面に関係しているということに対して否定的な治療者であれば、メンタル面との関係性にはほとんど関心を寄せずに、身体的な構造異常や機能異常にばかり関心を寄せて本質的な原因から目を反らしてしまうだろう。人間は機械仕掛けのロボットにように構造的な問題だけ、あるいはメンタル的な問題だけというように両者を白黒分けることはできない。心と身体は有機的につながって様々な環境に適応しながら、自然治癒力を保ち続けている。

本質的な原因がどこに関係しているかの探索は治療者としての重要課題である。臨床経験のある治療者が症状の原因はメンタル面との関係性にあると直感的に感じたとしても、患者自身がメンタル面に関心を寄せなければ症状改善には結びつかない。身体の症状は身体の問題であり、心の問題にしたくない患者も少なくはない。その場合、術者が無理にメンタル系の施術を勧めても治療効果は期待できない。メンタル系への治療は、患者と術者との関心のベクトルが一致して初めて得られるもので、治療者の技量や経験だけでは結果が得られるものでない。


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