2019年5月23日木曜日

「素直さ」は成長の源

先日、PCRT基礎2のセミナーを終えて色々な気づきがありました。受講生はいつものように臨床経験が豊富な方から少ない方まで幅が広く、できるだけ多くの受講生に分かりやすく理解してもらうために、基礎知識から専門知識まで広く網羅した内容になります。そのような幅の広さから、ある先生にとっては膨大な知識になり、ある先生にとっては丁度良い内容になったのかもしれません。このような形式のセミナーであるため繰り返し受講していただくよう勧めています。そして、繰り返して受講されている先生は着実に内容を理解して臨床現場で使えるようになっているようです。

私は長きに渡って、このような幅広い受講者を「蟻の目」の視点で直接ご指導させていただいたり、先生方の上達ぶりを年単位で客観的に「鷹の目」の視点で観察させていただいたりする立場にあります。そのような立場で観察していると、上達が早い人と、遅い人の違いが見えてきます。さて、その違いは何でしょうか?一言で言うと、それは「素直さ」にあると思います。経営の神様といわれる松下幸之助氏が「一流の人たちの共通項は素直な心を大事にする」というような内容を述べていたのを思い出します。

かれこれ20年ほど近い経験を振り返ると、やはり素直な人は成長が早いように感じます。「素直な人」とは、単に「イエスマン」や「騙されやすい人」とは異なります。「素直な人」は、しっかりした自分の考えを持ちつつも相手の立場になって、相手の心をしっかりと受け止めようとします。デモや実技の際においても、しっかりと見て真似ようとしますので、吸収が早くスムーズにできるようになってきます。つまり、「素直に学んで素直に真似ている」のです。模倣から始まって、最終的には自分のモノにしていくわけですが、言い換えると、真似が下手な人は上達するのに時間がかかりますし、その背後にある心の制限が邪魔をしているのかもしれません。

素直でない人は、見て習うというよりも理屈(頭)で習おうとするので、自分が信じている理屈が先行しすぎて、批判的に見てしまいます。結果的に柔軟性が欠けてしまうので技術をスムーズに習得することができなくなります。また、アドバイスをすると、あれこれと言い訳をして理屈を言う傾向があります。PCRTセミナーは常に進化し続けていますので、手法や手順が変化することがあります。素直な人は、過去の手法や手順は尊重しながらも、進化した手法や手順を素直に学ぼうとして自らも進化しようと努力します。一方、素直でない人は、過去に身につけた手法に囚われて、進化した手法を身に付けることに抵抗し自らの成長にブレーキを掛けてしまいます。

「ハイハイ」と素直に受け止めているようで、実は心から素直に受け入れていないという人もいます。それは、その人の実技を見ていると読み取れます。何か頑なに信じているモノがあると、それが足かせになって、新たな技術が入ってこなくなるようです。我々治療者の仕事には常に「柔軟性」や「応用力」が求められます。毎日の臨床で同じ患者さんは来院しませんし、一人の同じ患者さんでも次の来院日には変化がありますので、その変化に対しての「応用力」が求められます。

過去に身につけた技術技能は捨てるモノではありません。身体に身に着いた技術は身体が覚えているので捨てたくても捨てられないモノです。新しい技術技能を身に着けることで、身につけた技術を捨てるのではないかと錯覚しがちですが、むしろ新しい技術を身に着けることで、過去の技術が柔軟に修正され磨きがかかってきます。そして、新しい技術を積み重ねることで臨床においても柔軟性が養われるはずです。理屈よりもまずは結果を素直に受け入れることが肝心であり、その結果を引き出す技術を素直に受け入れることで成長が促されるのだと思います。年齢とともに素直さがなくなってくるとも言われていますが、何歳になっても「素直さ」は仕事に限らず人生を豊かにしてくれる大切な心の姿勢だと思います。「素直さ」は成長の源になるようです。


2019年5月17日金曜日

「がんが自然に治る生き方」ケリー・ターナー著を読んで


現代医学では「ガン」のはっきりした原因は分かっていませんが、対症療法として外科手術、抗ガン剤や放射線療法などが推奨されて、根本的に治すというよりも少しでも症状を軽減、あるいは延命のための処置が施されます。

現代医学だけを信じている人たちにとってはそれ以外の選択肢は考えられないでしょうが、代替療法でガンを治したという人は確かに存在しています。そのことに関連する本は、私の知る限りでは2〜30年以前から医師や代替医療の治療者によって著述されています。

今回ご紹介させていただくガン関連の本で興味深いところは、医師や治療者という立場ではなく、研究者という立場で客観的な調査をした観点からガンが自然に寛解した患者を対象にリサーチしているところです。

研究者であるターナー氏は、「治った」人についての1000件以上の医学論文を精査した後、劇的な寛解を遂げた20人にインタビューし、「あなたはなぜ自分が治癒したと思うか」を直接聞いたといいます。また、世界中を旅して回り、代替医療の治療者50人にインタビューをしました。

劇的な寛解について記した医学論文を1000本以上分析して、博士論文の研究を終えてからもさらにインタビューを続け、その対象者は100人を超えました。ターナー氏は質的分析の手法で症例を詳細に分析し、劇的な寛解において重要な役割を果たしたと推測される要素が75項目浮かび上がりました。さらに調べると、上位9項目は、ほぼ全てのインタビューに登場していることに気づいたといいます。

その9項目とは以下の通りです。

1.     抜本的に食事を変える
2.     治療法は自分で決める
3.     直感に従う
4.     ハーブとサプリメントの力を借りる
5.     抑圧された感情を解き放つ
6.     より前向きに生きる
7.     周囲の人の支えを受け入れる
8.     自分の魂と深くつながる
9.     「どうしても生きたい理由」を持つ

この9つの項目には順位はなく、ターナー氏が話を聞いた劇的寛解の経験者のほぼ全員が、程度の差はあれ9項目ほぼ全てを実践していたといいます。私は「ガン患者」を専門に施術を行っている治療者ではありませんが、多くの慢性症状を抱えた患者さんの施術をさせていただき、慢性症状が改善される人たちの多くが上記の9項目に一致しているように思います。そして、これらの9項目すべては、食習慣をかえる覚悟をすることも含めて「心」が関係しています。

私の臨床経験を振り返ると、自分の感覚を重視して治療法を選択するよりも頭で治療法を選択する人達、すなわち自分の直感を信じるというよりも、知識やデータ重視、つまり科学重視になったり、権威者重視になったりする人たちはこの項目には当てはまらないと思います。おそらくご自分の「内なる心」と向き合ったり、心から生活習慣を変革したりするといったことはせずに、科学重視の現代医学の医師にお任せすることになると思います。

「どうしても生きたい理由」を持つというのは、ガンが完治した後、どのように生きたいかという心のそこから湧き上がってくる明確な理由がある人たちです。ややもすると、ガンと闘うことが人生の目的かのようになってしまったり、ガンであるが故に心地よい人間関係ができたりすると、ガンが完治した後の心の空白を無意識的に避けるようにして、負のサイクルから抜け出すことが難しくなることもあるようです。

「抑圧された感情を解き放つ」、「より前向きに生きる」ということは自然治癒力を引き出す上で大切なことですが、この項目も、本当に心の底から意識的にも潜在意識的にもそのような前向きな心になっていればその力が発揮されるのですが、頭(理性)ではそのように考えていても潜在意識(感性)で抑圧している方もいます。その場合は本来の自然治癒力は発揮できないようです。

厄介なのは、頭で考えている自分と心の奥底にある魂とが離れすぎ自己矛盾が生じることです。頭で前向きに考えようとすればするほど、心と身体が離れて自然治癒力が抑圧される状態になるようです。

ターナー氏が掲げた9項目を参考にして、ガンに限らず慢性症状を改善するために大切な項目として私は以下の4項目を挙げます。

1.     本気で治したいという「主体性」を持つこと
2.     無意識的な誤作動に関連する感情、信念、価値観を認知すること
3.     意識と潜在意識(心と身体)のつながりを意識すること
4.     健全な生活習慣(食習慣を含む)に変える覚悟を持つこと

ガンと診断されると多くの人たちは、現代医学に頼るものです。この本の趣旨は、現代医学を否定するものではありません。ターナー氏は現代医学以外の方法で完治したガン患者に関心を持って、幅広く、客観的に調査し、代替医療でも完治した人がいるという事実を多くの人々に知ってもらい、「自然治癒力」という本質的な意味を伝えたかったのだと思います。

手術、抗ガン剤、放射線の「三大医療」でガンを完治した人も多く存在しています。大切なことは、現代医学が全ての医療ではないということと、本当に治す力は自分の内なる治癒力にあるということを確信することだと思います。

本書の中で、ガン回復者と代替治療者が共通して持っている考えで、「病気とは、私たちの人間の身体・心・魂のどこかのレベルで詰まっているものである」と述べられています。そして、健康とは、この3つのレベルが滞りなく、自由な状態にあって初めて得られるものであると、彼らは考えているといいます。

この考え方は私の長年の臨床経験でも一致する考え方です。私は詰まっているものをエネルギーブロック(EBと読んで、そのEBを指標に検査と調整を行います。よって健康状態とはそのEBがない状態をいかに維持できるかによると考えています。

そして、私はそのEBが様々な関係性による記憶によってもたらされていると考え、そのような病気を引き起こすようなEBの記憶を「誤作動記憶」と呼んでいます。そして、過去から未来に渡る様々な関係性による「誤作動記憶」の調整を行うことが、慢性症状に対する本質的な治療だと考えています。

本書の中に以下のプラトンの言葉が引用されています。

「医療が犯した最大の過ちは、身体を診る医者と心を見る医者を分けてしまったことだ。身体と心は、分けられないのに」

私は20年ほど前から「心と身体の関係性」を診て調整を行う施術法を研究しています。様々な慢性症状や原因が分からずに急に症状が出てきた場合なども含めて、多くの原因不明の症状や病気の原因は「心と身体の関係性」が多大な影響を及ぼしていると考えています。治療者の多くは、身体に問題が生じると、身体の構造的な部位だけに注目してその部位の機能的、構造的異常症状の原因だと決めつけたり、あるいは飲食の問題だけが病気の問題だと考えたりする傾向があります。

その部位の施術を行うと症状は改善されますが、「なぜその部位に機能異常や構造異常が生じたのか」という本質を追求することは少ないようです。例えば腰痛の症状で筋肉の問題、関節の問題があると判明しても、その原因は使いすぎ、姿勢が悪いなどという機械構造論的な因果関係を結びつける傾向があり、心と身体の関係性による因果関係にまでは及びません。

「心が関係している」というと様々な誤解を受けやすいようです。一般的に心が関係していると聞くと、心が弱いとか、ネガティブ思考だとか精神面のいい悪いにフォーカスされがちですが、ネガティブな心だけが身体に影響を及ぼしているわけではありません。ポジティブな心でさえも身体に影響を及ぼします。大切なのは機械仕掛けのロボットのように心と身体を切り離して症状や病気の因果関係を考えないことだと思います。


外傷や感染症などの症状は別にして、自然発生的に生じている症状は何らかの心のサインだと考えても失うものはありません。むしろ、本書で掲げている「自分の魂と深くつながる」チャンスでもあり、病気を予防する秘訣になると思います。

2019年5月3日金曜日

治療院での「めまい」のアプローチ

めまい、ふらつき、フワフワ感、天井が回るなどの症状を抱えた患者さんが私たちの治療院に来院されます。「めまい」の原因は様々で、病院での治療が必要な「めまい」もありますので、病理的な疑いのある患者さんは病院への受診をお勧めしたほうが良いでしょう。特に腫瘍や感染症が伴う場合は病院での治療が必要です。耳が原因の場合は耳鼻科、脳が原因の場合は脳外科や神経内科などで検査が必要です。

「めまい」の治療のために来院される患者さんの多くが、腰痛や肩こりで受診された経験があり、信頼関係が築けている患者さんです。また、すでに病院での検査を受けて、改善が見られずにご紹介で来院される患者さんもいます。私たちが診る患者さんは、基本的には病理的な構造的異常を伴う「めまい」ではなく、機能的な異常による「めまい」症状です。

患者さんが訴える「めまい」の症状にも様々な種類があります。長年、「めまい」の患者さんを施術させていただいた経験で、自然療法で効果が出せる機能異常による主な「めまい」の発生源は「前庭器官」、「小脳」、「頸動脈洞」だと考えています。最も多く遭遇してきたのは「前庭器官」で、次いで多いのは「小脳」。そして、3つ目が起立性調節障害に関係する「頸動脈洞」です。「めまい」といっても、患者さんによって様々な表現の仕方があります。この3つの発生源は問診からもある程度推測することができます。前庭器官に機能異常がある場合は自分が回るというよりは天井や周りが回るという表現をされます。小脳性の機能障害の場合はまっすぐに歩けず平衡感覚がおかしいというような表現をされます。そして、頸動脈洞の機能障害は立ち上がった時にふらつくと訴えます。これらの3つの発生源が複合した症状もありますので、それを明確にするためには目安検査が必要になります。

それぞれの機能障害をプロトコルに基づいて施術を行うと、施術前に示された目安検査の陽性反応が陰性化され、ほとんどの患者さんがその場で症状の改善を体験されます。めまいを引き起こす発生源は異なっていても、基本的には身体を調節するコントロール系に異常をきたしているわけです。コントロール系統の調整だけでも症状の改善が促されますが、症状がぶり返す場合には、さらにそのコントロール系を乱す原因を調整する必要があります。私の臨床経験によるとその多くが無意識的な誤作動記憶で、いわゆる心と身体の関係性による誤作動です。ほぼ9割以上の「めまい」の患者さんがその誤作動記憶の調整で改善されるので、その因果関係には確信を得ています。構造異常の診断が得意な西洋医学の文献でも「めまい」の原因の約3分の1は心因性という報告もあります。

「めまい」だけの症状ではなく、パニック障害や不安障害などでも「めまい」を伴うことがしばしば見られます。私たちの臨床現場では心因性といっても本人も自覚していないような無意識的な内容が原因となっていることがほとんどです。「めまい」の施術直後には9割以上の方が症状の消失、あるいは軽減を体感されますが、次の来院時にはぶり返している方も少なくはありません。その場合は、原因となる誤作動記憶を掘り下げて消去法のように原因パターンを消していくことで症状が改善されていきます。これも私の経験ですが、機能的な「めまい」の症状は、筋骨格系の症状と同様に比較的改善されやすい症状であると言えるでしょう。

次回のPCRT基礎2では「めまい」の発生源を特定する目安検査とハード面調整法だけでも効果があるという手法をご紹介させていただきます。よろしくお願いいたします。