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2019年11月26日火曜日

ジストニア治療のための新たな発見

先日、ジストニア(痙性斜頸)の患者さんが3人来院され大きな発見がありました。3人とも治療前と治療後に確実に効果が示されたので、この新たな発見に確信を持ちさらなる可能性を感じているところです。この発見は以前から筋骨格系の患者さんの症状の改善から分かっていたことではありましたが、ジストニアの患者さんにおいて、機能神経学的な視点や筋肉系を重要視していたあまり、ある意味盲点になっていたように感じました。

PCRTのプロトコルに従って幅広く、客観的に検査すれば引出されるEB(生体エネルギーブロック)なのですが、恐らく、「ジストニア=神経学的機能異常」というような偏った見方がどこかにあり、無意識的に視野が狭くなっていたのかもしれません。もちろん、PCRTは心身相関、経絡、機能神経学も含めて、幅広く原因となる誤作動記憶を検査していきますが、「神経系が身体の働きの全てをコントロールしている」という偏った思想が根底にあるがゆえに、見逃していた可能性もあります。

脳・神経系が損傷してしまうと確かに身体の機能が失われるので「神経系が身体の働きの全てをコントロールしている」よって、「神経系の働きを整えれば、身体の症状が改善され健康が維持される」というのはある意味正しいかと思いますが、病気や症状の原因を探求する際、この理屈で全ての症状を改善しようというのは、かなり偏った思想になるかと思います。私自身もカイロプラクティック大学を卒業したての頃は、「神経系の働きを調整すれば様々な症状が改善される」という信念で施術を行なっていた時期がありました。しかし、臨床現場で「原因と結果」を追求すればするほどこの考え方には偏りがあることが分かりました。

かれこれ20年以上前に気づいたことですが、「神経系の働き」の異常は、様々な他のシステム(系)に関係しているということです。例を挙げると、東洋医学の施術の基準となる経絡も身体全体におけるシステムの一つです。「経絡の働き」が乱れれば、「神経系の働き」も乱れ、その逆も然りです。神経系も生体エネルギーの一つですが、「生体エネルギー論」の視点から見ると、様々な生体エネルギーに関係するシステムが調和しあって生命力や治癒力が維持されているのです。よって、神経系のシステムだけを強調し過ぎるあまり、他のシステムが盲点となって、改善するはずの症状も改善し難くなるということが私の臨床体験から導き出された気づきです。

今回の発見には、その日にたまたま3人の痙性斜頸の患者さんが来院されたという偶然が重なったという影響があったかもしれません。まず、一人目の患者さんは大学生の女性です。来院当初は首が右に傾いて、正面に向くことが出来ない状態でした。しばらく通院していただき、現在ではかなり改善しているのですが、今回の目安検査では首の左回旋と前屈時に多少の傾きが生じていました。いつものようにどの領域にEBがあるか検査をしてみると、前回示されていた神経学的な領域や筋肉系の領域には反応が示されませんでした。「もしかすると」という直感で、新たな領域を加えると陽性反応が示されました。この領域をEBとしてPCRTのプロトコルに従って調整を行うと、その後、明らかにその動きの異常が改善しました。

二人目の痙性斜頸の患者さんは、来院当初はかなり頸部の傾きが強く、仕事も出来ない状態。現在では仕事には支障はないものの、まだ正常とは言えない状態。その日の目安検査では特に前屈の動きができない状態。そこから通常のPCRTプロトコルと前回と同様の領域を加えて調整を行ったところ、一人目に続いて前屈の異常運動が明らかに改善されました。三人目の痙性斜頸の患者さんも初回の来院時は頸部の傾きはもちろん、異常姿勢や不随意運動も強い状態でした。その日の来院時には初診時に比べると改善はしているものの、頸部が右に傾いている状態で、仰臥位においても首が右に傾いて左には容易には向けない状態でした。この患者さんも通常のPCRTプロトコルに加えて、同様の領域を追加してみると、陽性反応が確認され、調整後には首が真っ直ぐに向けるようにまで改善しました。

今回の発見は、その領域だけで全てのジストニアに効果があるということではありません。あくまでも通常のPCRTプロトコルに追加されたEB領域ということで、盲点になりやすい領域であるということです。PCRTの調整法は常に臨床現場からの偶然の発見から発展しているように思います。今回の発見もその一つで、この発見はジストニアの治療に限らず、他の症状においても有効に活用ができると思います。この新しい発見には確信を得てはいるものの、セミナーで紹介するには繰り返し検証が必要だと考えています。他にもジストニアの患者さんが通院されているので、さらなる追試を繰り返し検証を重ねた後、来年度のPCRT上級セミナーでこの発見の内容をご紹介させていただく予定です。PCRT上級セミナーに参加資格のある方はご期待ください。

2019年10月14日月曜日

「友達が多い方がいい」という信念の影響―痙性斜頸の施術過程での一コマ

本日、痙性斜頸の施術の過程で深い気づきがあったので、書き留めておきたいと思います。現在、大学1年生の女性が痙性斜頸で通院中です。本人も随分よくなってきているとの自覚があり、施術は順調に進んでいます。施術の過程でとても良い気づきがあり、そのことが症状改善につながっているということがよく分かります。その気づきの過程を一部シェアさせていただきます。

誤作記憶の検査では、以下の反応が示されました。
「喜び」→良い成績→さらに深く→「存在感」の反応。成績が良いことで人に評価され存在感を維持できているという認識。
「慈悲心」→友人関係で自分→人格的に切るに切れなくてだらだら続いてお付き合いする自分→ネガティブな思考を持つお友達に振り回されるので、もっとポジティブな思考をもつお友達とお付き合いして自分を高めたいと願う。それが一年ほど前からの悩みで現在でもその悩みは続いているとのこと。

そこで、悩みパターンに関係する「誤作動記憶」を検査。すると信仰心のキーワードで反応→友人関係→質問から「友達は多い方がいい」という信念があり、それは、先に示された「存在感」にも関係していました。

つまり、「友達は多い方がいい」という信念は、心の奥で大切にしている「存在感」につながっており、「友達が多ければ、自分の存在感は高い」という心の構造の一つになっていました。その信念が「心のブレーキ」になり、それがあるが故に切りたくても切れない友人関係のジレンマにつながっていたということが明確になったということです。

そして、その施術後の改善も明らかに示されており、下に向く動作でも首が傾く動作はほとんど再現されず、スタッフによると受付から帰る際の動作でも、ジストニア特有の手を添える「感覚トリック」の動作も見られずに帰られたとのこと。

今回は9回目で2枠の施術時間で週に2回のペースで通院されています。まだ、完治したとは言えないまでも初心時の症状に比べるとかなりよくなっているのは明らかなので、この調子でさらにぶり返すことなく良い方向へと改善してほしいと願っています。

2019年8月2日金曜日

書痙(ジストニア)

問診情報

高校3年生の男子がお母様と共に書痙の改善を期待して来院。初診時は全く書くことができずに手も震えるとのこと。発症当時はペンを持つこともできず、初回来院時はペンを持つことはできるが、その後手が動かなくなる状態。

初回来院5ヶ月前に3つの病院を受診されたとのこと。一つ目の心療内科を受診、その約2週間後に二つ目の心療内科を受診、その1ヶ月後にメンタルクリニックを受診していずれも精神薬を処方される。

施術前後を評価するための初回の目安検査

身体機能検査(間接法)
陽性反応が示された動作
頚椎左回旋、肩甲帯後方、肘関節屈曲、拳を握る、母指と小指を近づける、書く動作
心身相関機能検査
書くイメージ

初回の施術

ハード面調整(AM)では、骨盤、脊柱、左肩甲骨、肘関節、手関節の機能異常を調整。
ソフト面調整(PCRT)では、大脳辺縁系の誤作動記憶、信念関連のキーワード3つ、価値観関連のキーワード1つ、大脳皮質系のエピーソ記憶を調整。

施術経過

2回目〜12回目まで2枠の予約(施術時間:2025分)をいただき継続治療を行う。ハード面調整とソフト面調整の施術を継続する過程で、5回目の来院時にはメンタル的に気分が改善され、全く書ける感覚がしなかった当初から10段階で4レベルまで上がった感じがするとのことだった。

そして、6回目の来院時には何とか書けるようになったとのこと。しかし、書くことに集中すれば何とか書けるが、他のことを考えながら記述することは難しいとのこと。つまり、以前のように自然には書けない状態。

7回目から書痙の症状が改善傾向に向かったので以前からあったアレルギー性鼻炎の施術も並行して行う。10回目の来院時には本調子ではないが調子がいいとのこと。鼻炎の症状も改善されているとの報告を受けた。11回目ではほぼ自然にかけるようになってきたという報告を得た。

12回目ではほとんどいいとのことで、メンテナンス的に脳のバランスを調整。書痙に関する書くイメージの検査でも陰性反応だった。

13回目では1枠(10分)の予約をいただき、主に脳バランスの誤作動記憶の調整を行う。

考察

大学受験を控えているにも関わらず約5ヶ月間も書痙の症状を患っており、人生の大切な節目に大変な思いをされたように感じた。身体(書痙)に影響を及ぼしている無意識的な誤作動記憶を調整していくうちにだんだんと症状が改善されていった。施術(PCRT)のコンセプトもある程度理解していただいていたので、段階的に改善方向へと向かったのだと思う。

原因となる過去の記憶から鑑みると様々な事柄が絡み合っていたようだ。もつれた糸の束を一本ずつほぐすように誤作動記憶を一つ一つ消去していった結果、完治へと導かれた。症状が改善していくプロセスを通じて、自分の心の奥にある思い(心の構造)を知り調整することで脳の柔軟性が増して症状が改善された。

このような本質的な心身相関の原因療法を体験することで、単に症状が改善したことだけではなく、メンタル的なコントロールも上手になっていると思う。大学生、社会人へと進む過程でこの経験を生かして健康を維持していただきたいと願う。

2019年7月18日木曜日

鳥肌が立つぐらい良くなった・・・(痙性斜頸の症例)

「前回の治療を終えてから帰るとき、本当に鳥肌がたつぐらいに良くなっていました・・・このまま治るのではないかと思うくらい・・・」50代前半の女性の患者さんからコメントをいただいた。症状は痙性斜頸(ジストニア)。まだ、完治したわけではないが、症状の改善に感動されてこのようなコメントをいただいた。20代後半から約25年間症状を抱えているが、5年前から症状悪化。そのため仕事を辞める。人を意識した時などに特に顔が左に回旋する。悪くなり始めの頃から整形外科、鍼灸院を数カ所、5ヶ月前からは別の整形外科に週1回で5回ほど通院した。その後、大学病院を受診して5回通院されたとのこと。大学病院ではナーブロック注射を受ける。

来院の5ヶ月ぐらい前から症状が悪化して病院での治療も受けているが、改善が見られず少しずつ悪化しているかも・・ということを問診票に記載されていた。初回の施術を終えた後に症状の改善を感じられた様子で継続的に通院していただいている。7回目の来院時には良くなってきていることを自覚されていたが、その後、症状がぶり返すこともあった。13回目の来院の際に、前述のように、「前回の治療を終えてから帰るとき、本当に鳥肌がたつぐらいに良くなっていました・・・」というコメントをいただいた。初回の来院時から比べると確かに症状の改善が見られる。25年も抱えていた症状なので、様々な誤作動記憶の反応がでる。だが、施術を行うたびに消去法のように着実に改善している経過が伺える。

この頃では何よりも患者さんの顔の表情に変化があり、スタッフの間では「だいぶん変わってきたよね・・・」と話していた。50代前半の女性には失礼かもしれないが、あどけない自然の顔の表情が垣間見られるようになった感じで、受付では「最初は目をそらしていることが多かったけれども、しっかりと目を見て話されるようになっている・・・」らしい。恐らく症状の背後に隠れているメンタル的な側面が楽になっている様子で、そのことと連動して顔の表情や仕草に変化が現れているのだと思われる。

「鳥肌が立つぐらい良くなった」というコメントをいただく前の施術では、色々なメンタル系のキーワードが関係していたが、その中でも「猜疑心」というワードが大きな影響を与えていたのではないかと感じている。患者さんは治したい一心で通院されているのだが、心の奥には、長年患ってきた症状なので、「簡単に治るはずはない・・・」と自分の治る力に疑いを持つ思い込みをしていたことが分かった。患者さんは、「本当に治ることが奇跡・・・」とも仰っていた。

そこで、私は、「患者さん自身が治ることを心の底から信じられないと、その信念が足かせになって、本来は治る症状も治りにくくなる傾向がありますよ・・・」「症状を創ったのは患者さん自身の脳であり、脳が誤作動の記憶をしているだけなので、その症状を引き起こしている誤作動の記憶を施術することで治ると私は信じていますよ・・・」というようなお話をさせていただいた。また、意識と無意識の奥深い関係性も患者さんに理解してもらえるかどうか半信半疑ではあったが、あえてこのタイミングで説明させていただいた。

「治ることが奇跡・・」という患者さんの何気ない言葉ではあるが、その言葉の裏には「治るはずがない・・」という信念が隠れている可能性がある。ある意味それは「治らない」という「予言」でもある。もしも、治る方向へ行くと、その予言は崩されてしまうのである。そのような信念を無意識的に思い込んでいると、それは強いブレーキとして治癒力を制限する。また、信念とは自分が正しいと信じていることなので、もしも、治る方向へと進むと、自分が長年信じてきた信念や予言が崩される感覚になる。そして、無意識はその信念が壊れないように症状を呼び戻してしまうというような自己矛盾が生じてしまうことが推測される。

心理学的にとても深い話なので少しためらいはあったが、チャレンジして話してみた。すると、患者さんはそのことを理解してくれた様子で、そのような無意識の自分がいてもおかしくはないようなことを言われていた。そして、その説明も含めて「猜疑心」に関係する誤作動記憶の調整をした。他にも調整したキーワードがあったが、もしかすると、今回の改善はその説明とそのキーワードの調整が大きな作用を及ぼしたかもしれないと思う。

単純に信じれば良くなるということではないが、患者さんが無意識に抱いている自分への治癒力に対する不信感は、施術効果に多大な影響を及ぼしている。長年症状を抱えていると、「治したい・・」「いやいや治るはずがない・・・」などの心の葛藤があっても不思議ではない。治療者はこのような心の奥に隠れた葛藤や自己矛盾に対しても働きかけて整理するサポートをしなくてはならない。このような症状は、複雑な脳が関係しているがゆえにハウツウ的な治療法で治る症状ではないと言っても過言ではないだろう。

ジストニアの症状のほとんどが大脳基底核、大脳辺縁系、小脳など様々な脳の領域に関係しているが、知覚神経や運動神経を通じて、神経学的機能低下領域を刺激すれば治るという単純な症状ではない。意識と無意識の関係性や過去のトラウマなど脳の無意識的な関係性が誤作動として記憶されている。脳の機能そのもの自体が複雑に関係しあっており、無意識的な記憶が複雑に絡み合っている。ジストニアの調整はその複雑に絡み合った記憶の糸を解きほどいて整理していかなくてはならない。神経科学の研究が進むにつれて、未知の領域である脳の「複雑性」が徐々に解明されている。脳の機能は教科書に描かれているような線形の世界ではなく非線形の世界であることをジストニアの治療に関わる治療者は理解する必要があるだろう。

2018年12月12日水曜日

送球イップスから腕の局所性ジストニア

はじめに

二十代女性、5年ほど前に、ソフトボール部に所属しており、そのころから送球が上手くできなくなっていた。その頃から送球イップスの症状を抱えていたが、引退後も腕をゆっくり上げようとすると、腕が勝手に早く動くようになり、自動販売機で腕を使うときなどには支障があるとのこと。特に意識して何かをしようとしたときに悪化する傾向にあり、だんだんと悪くなってきているような気がするらしい。

目安検査

最初にどのような症状なのか再現してもらう。片方だけ観察すると分かりにくいが、左右、同じスピードで腕を挙上してもらい比較すると、明らかに右腕が早く挙上してしまう。本人が言われるように、勝手に早く腕が動いてしまう症状がある。珍しい症例かもしれないが、局所性ジストニアで経過から予測すると心因性ジストニアの疑いがある。また、仰向けに寝た状態では症状が再現されないが、座位や立位姿勢では症状が再現されるのもジスニア症状の特徴の一つである。調整前の機能評価では現在の症状がPRTで9レベル、メンタル系がPRTで9レベルだった。

1回目の調整

最初はアクティベータ療法で、ハード面の検査調整を行う。脊柱と右肩関節関連に陽性反応。右小脳機能に陽性反応が示された。PCRTのソフト面調整では大脳辺縁系レベルで2つのキーワードが示され、それに関連する内容を質問して誤作動記憶を引き出し調整する。調整後は、現在の症状はPRTで5レベル。メンタル系では1レベルまで下がった。施術後に問題の動作を試してもらったが、顕著な変化は見られなかった。

2回目の調整

最初に1回目の施術からジストニアの症状がどのように変化しているのか試してもらった。1回目と同様に顕著な変化は見られなかった。症状の機能評価は9レベル。メンタル系が8レベル。アレルギー系が9レベル。アレルギー系は前回反応が示されなかったので、「なぜ?」と内心思った。

3層構造のチャートで検査を進めていくと「聴覚」→時系列→過去→8年前→お父さんの声で反応が示された。もしかすると、これがアレルギー系(五感適応系)の反応なのかなと思った。でも、なぜ、前回は示されなかったのだろうと考えると、前回はお父様が付き添いで一緒に来られていたので、無意識がその部分を解放せずにブロックしていたのだろうと納得した。お父さんに関係する声の内容は2つあり、過去の誤作動記憶が陽性反応として示されていたなので調整を行なった。

その後、検査を進めると、「執着心」に関係する内容が2つほど示されていたので、その誤作動記憶の調整も行なった。施術後の目安検査でメンタル系はレベル1まで下がった。調整後の腕の動作を確認すると、なんとほとんど左右の違いが分からないくらいに改善していた。「え、こんなに早く改善するの・・・」と内心、思った。なぜなら、その症状は5年ほど継続していたイップス、ジストニアである。ご本人も喜ぶというか、不思議に感じている様子だった。

ジストニアの患者さんから相談を受ける際、改善にどれくらいの治療が必要なのかと回数などを尋ねられるが、いつも個人差があるので明確な回答はしていない。当院の患者さんの平均的な改善率は出せるが、肉体の構造異常を修復させるような施術ではなく、あくまでも個人の無意識の誤作動記憶を調整する治療なので、そこに齟齬が生じないようにあえてお答えしていない。症状の程度や抱えてきた年数にも関係している傾向はあるが、このように早期に改善するジストニアもあれば、長期にわたって治療が必要な事例もある。

3回目の調整

目安検査で上腕を挙上してもらい、左右比較すると、初検時ほどではないが、若干、挙上スピードが早い感じがする。本人も挙上時に違和感を感じるという。ソフト面の検査をして見ると、8年前の誤作動記憶が示された。部活をしていた時の同級生に対する当時の記憶が影響を及ぼしていた。調整後、肩関節に手を当て、フィンガーテストを行いながら、挙上運動の動きを検査してみると、一定の角度で挙上運動に関係する手動筋なのか拮抗筋の共収縮なのか厳密には分からないが、筋肉の異常緊張が示された。その角度での異常緊張は患者も自覚しており、その感覚は術者と共有することができた。

その後、同じ8年前で、別の誤作動記憶が陽性反応として示された。それを調整すると挙上運動に関係する異常緊張は消失した。患者もその消失を自覚できた様子だったが、まだ違和感があるとのことでさらに検査を進めると、肩関節の内旋の動作での異常緊張を患者とともに確認した。それも内旋運動に関係する手動筋なのか拮抗筋の共収縮なのか定かではないが、調整を行うとその異常緊張も消失した。3回目の調整を終えた時点では、まだ、違和感があるとのことだが、最初よりは良いという。目視検査では初検時よりもかなり改善しているように見えた。

考察

4回目の予約を入れていただいたが、台風などの天候不良で2度キャンセルとなり、その後3ヶ月が経過し来院されていない。3回目の調整からその後の経過をみさせていただきたかったが、恐らく施術の必要がないと判断されたのかもしれない。ジストニアの症状もある程度改善され、ソフトボールの方もキャッチボールなど試したらどうですかと提案させていただいたところだったので、そこまでサポートさせていただきたかった。5年ほど前に発症し、イップスから局所ジストニアに移行した症例だったが、比較的に短期間で症状が改善されたのではないかと思う。どの症状も個人差があるのが当然だが、イップスやジストニアの症状は、程度や経過年数、さらには原因の深さや複雑さによって個人差がある。特にメンタル系が絡んだ症例は、施術者との信頼関係はもちろん、患者さんがその治療法に納得できるかが治療効果を引き出すために大切なポイントにもなるだろう。

2018年10月23日火曜日

痙性斜頸患者へ鏡療法(リバビリ)の可能性

先日、痙性斜頸で通院していただいている患者さんで、興味深い現象があったのでご報告させていただく。40代男性の患者さんで、最初の痙性斜頸の程度としては、首が左に向いてしまう傾向が強く、頸部や肩周辺にも痛みを伴って、かなり辛い症状がしばらく継続していた。遠方からだったがほぼ毎週通院していただき、ここ最近改善の兆しが見えてきている。今回の施術の際には、ご本人もだいぶん良くなってきた感じがしてきたとのコメントをいただいた。

良くなった一つのポイントとして、「良くなったら以前からの趣味であるバイクでのツーリングを始めたいという目標ができたことも一つの要因になっているかもしれない」とのことだった。施術途中で、左から右に向ける際に、引っかかりがあるので、「何か思い当たる原因はありますか?」と尋ねると、「左に向くと、そこから首が動かなくなるという恐れかな・・・」と話されていたので、その恐れで検査をすると陽性反応が示されたので誤作動記憶を調整。

その後、検査をすると、まだ引っかかりがあるので、患者の顔の前に鏡をおいて、鏡の中の自分の顔を見ながら、鏡を患者の首の動きに合わせて動かすと、首を左右にスムーズに動かすことができた。「ん???何がちがうのかな???」と自問自答して「あっ〜目標があるからかな・・・」と何かご自分で気づかれた様子。「改善したらバイクのツーリングで楽しめるという目標と関連があるのですかね・・・」とコメントすると、「あ〜そうかもしれない・・・」と言われていた。

痙性斜頸の原因は様々な誤作動記憶が関係していたが、原因の一つに症状を抱えることによる「肯定的な意図」も含まれていた。症状があることで、ある役職をしなくても良いという意味づけも関係していたようで、そのような意味記憶を超える目標ができたことで、治癒力も加速してきたように感じた。患者さんは治したい一心で遠方から通院していただいているが、治ることでさらに得られる目標があると治癒力も促進されるということは、度々遭遇する臨床現場だから分かるストーリーである。

今回の鏡を使った運動の検査は、鏡療法を応用したもので、以前から四肢麻痺の患者さんにリハビリ療法として使われ効果的であるとの論文も掲載されている。PCRTでは自分の症状のある姿が脳に記憶されて脳からの信号で症状を引き起こしている場合、客観的に自分を見てもらう訓練で鏡を使うことがある。今回、ジストニアの患者さんに試してみたら、効果的な現象が示された。他の痙性斜頸の患者さん達にも試してもらい痙性斜頸患者のリハビリ運動として使えるのか成果を確かめてみたい。

ただ、痙性斜頸のようなジストニアの患者さんは、特定のリハビリで改善するというわけではない。リハビリを無理に行うことで、できない動作をさらに記憶させて、逆効果が生じてしまう恐れもある。よって、ジストニアやイップスのリバビリ運動は、患者さんの状態に応じて慎重にアドバイスされた方が良いだろう。むしろ治そうと意識が向かなくなったときに、自然に良くなることもあるが、単純に意識を変えれば良くなるというものではない。似たような症状でも原因は一人一人異なるので、治り方も人それぞれに異なる。肝心なのは、原因となる誤作動記憶がどれだけ解放されるかにあるだろう。

2018年7月24日火曜日

ジストニアとイップスの本質的な原因

ジストニアの原因は、医学的に特発性(原発性)ジストニアと症候性(二次性)ジストニアに大きく分類されています。特発性ジストニアは、病理学的に脳の構造的異常が認められないものです。症候性ジストニアは、別の疾患や事故などが元にあって二次的に生じたものです。その場合、MRICTの検査によって、大脳基底核(特に淡蒼球)などに病理学的な病変が存在することがあります。また、薬剤投与による薬剤性ジストニアも症候性ジストニアに含まれます。

当院のような代替医療の治療院に来院されるジストニアの患者さんの多くは、来院前に神経内科などの専門の病院で、障害の筋肉を司る脳や神経系に病理的な異常がないかどうか検査を行います。もしも、器質的な異常がなければ、「特発性ジストニア」となるわけですが、「器質的ジストニア」以外は脳や神経系に関連する「機能的ジストニア」として分類することもできます。では、何が脳や神経系の働きを乱す原因になるのかということになりますが、その多くは心理的な要因が関係しています。心と身体は密接に関係し合っているという観点で考えるとごく当たり前のことです。しかし、西洋医学の思想の影響でそこを切り離して考える医療者は多いようです。

西洋医学の論文で心因性ジストニアは稀とされる記述もありますが、西洋医学の診断の多くが機械論的な思想に基づいた目に見える「器質因説」に基づいており、心と身体の関係性による誤作動記憶という目には見えない心身相関に関連する「心因説」の存在の多くは検査対象外となりやすい傾向があります。そして、明らかな「心理-社会的要因」が見当たらない場合は「特発性ジストニア」として、対症療法的にボトックス注射や薬が処方されます。一時的な症状の緩和が見られる方もいるようですが、副作用があったり、本質的な治療法でないために症状が振り返されたりする傾向もあるようです。

現代医学における心因性ジストニアに関する症例報告を検索すると、あまり、報告されていないという印象を受けます。数少ない症例報告の内容は、心理テストでも示されるような明らかにメンタル的な問題が存在する患者の症例がほとんどで、私はそこに現代医学の盲点があるように感じます。当院に来院するジストニアの患者さんの多くが、神経内科などの専門医を受診されて、ボトックス注射などの対症療法を避けて来院されるケースで、また、病院で通常の問診を受けてもメンタル的には問題があるとは思えないような患者さんがほとんどです。

しかしながら、PCRTのプロトコルに沿って検査を進めると、心理-社会的な心因性の誤作動の記憶が検出されます。そして、その誤作動記憶が消去されるごとに、条件付けされた不随運動が徐々に改善されます。原因パターンの複雑さや広さにもよりますが、患者さんが早期に施術を受けるほど改善も早まる傾向にあります。PCRTで改善される心因性ジストニアの患者さんのほとんどが、無意識的レベルの感情や信念の記憶に関係しています。それは誰にでもある誤作動の記憶です。多くの患者さんはそのことがいわゆるトラウマとして原因になっていたということを認識されます。

代替医療を利用する患者さんの多くが「機能説」に基づくジストニアですが、当院に来院される患者さんも病院以外に鍼治療やカイロプラクティック、整体などの治療を受けて改善されずに来院されます。そのような患者さんにはどのような治療を受けたのかをできるだけ尋ねるようにしています。多くの患者さんは具体的な施術目的までは分からずに治療を受けている方がほとんどですが、多くの代替医療の治療院では「機能説」に基づいて、筋肉の緊張緩和や神経系の機能回復の目的で治療を受けているようです。

「機能説」に基づく治療法もいろいろありますが、神経学的なアプローチをする治療者は、ジストニアに関係する神経学的な機能異常の部位や神経経路を特定し、その機能回復を目的に神経学的な刺激を加えるリハビリを患者さんに指導します。脳の可塑性を活用したリハビリ療法ですが、患者さんはよほどの覚悟をしてリハビリを長期に継続する必要が求められます。もしも、長期的なリハビリが継続され、脳の機能異常部位への適切な刺激が行われれば、脳の可塑性が促進されて効果が現れる可能性があります。

しかしながら、神経学的な機能異常にはそれを引き起こす原因があります。繰り返しますが器質的な原因でない限り、機能異常の多くは心因的な原因が関係しています。脳や身体に記憶された誤作動は、単純な神経学的な機能低下という観点ではなく、無意識的に条件付けされた誤作動の記憶という関係性から考えることで、さらに早く改善が促されます。

スポーツの分野で知られているイップスの症状も程度や部位などの違いはあるにせよ、脳の誤作動記憶に関係して無意識的に筋肉の不随意運動が生じるという点においては心因性ジストニアと同じメカニズムです。意識と無意識とが離れすぎて脳と身体が調和できていないという点においても同じであり、どちらも意識と無意識の関係性、脳と身体の関係性、脳と環境との関係性など、「関係性」に基づく誤作動の記憶を書き換えることで本質的な治療につながります。

「器質説」に基づく原因療法は西洋医学、「機能説」に基づく療法は代替医療となりますが、神経系の機能異常にメンタル面が関係していることを忘れないでください。心と身体は切っても切れない密接な関係性があります。その「関係性」を含めて患者さんを診ることでホリスティックな本質的な治療が実現するのだと思います。

85日は、ジストニアとイップスに関するPCRT研究会をOneDayセミナーとして開催します。参加資格はPCRTの認定者に限定しておりますが、資格のある方はぜひご参加ください。ご一緒に治療の質を高めていきましょう。PCRTを利用したジストニアとイップスの症例報告はHPに掲載されていますので、下記をご覧ください。よろしくお願い致します。





2017年11月16日木曜日

ジストニア(顔面部)改善事例の途中経過

患者情報
五十代女性、4ヶ月前に口の周りの筋肉や舌が意識とは無関係に動くようになり、仕事に集中できなくなったとのこと。また、そのような症状で周囲からの目も気になっているという。以前から首の痛みや肩こりで整骨院や整形外科を受診していた。整形外科では頸椎症と診断される。舌の異常な動きに対しては耳鼻科を受診、その後、心療内科を受診、呑気症(空気嚥下症)との診断。精神安定薬を処方され、呼吸法やリラックス法を受ける。約1ヶ月前に神経内科を受診して、ジストニアと診断されボトックス注射を顔面(下顎部)と頚部に一度受けたが症状が、改善されずに当院を受診。

初回施術
〈術前評価〉
l   ジストニアの症状はNRS(数値評価)で9レベル。メンタル面の不安感はNRS10レベル。
〈検査〉
l   頸頸椎部周辺と肩甲骨周辺の筋骨格系の機能検査で左右共に陽性反応を示す。
l   さらに舌を動かす動作、口を尖らす動作、声を発する動作による間接的機能検査で陽性反応を示す。
〈調整〉
l   施術では、最初はハード面の調整法をAM(アクティベータ・メソッド)によって骨盤、脊柱の基本部位に行う。PCRTのハード面調整法ではブレインマップ調整法を施す。
l   ソフト面調整法では、大脳辺縁系で「利己心」、「慈悲心」のキーワードから誤作動記憶を特定して調整を行う。
〈術後評価〉
施述後、メンタル面の不安感は10レベルから5レベルに軽減したとのこと。ジストニアの症状の軽減はやや見られたが、数値的な評価は尋ねなかった。

2回目施術
次の日に来院。
〈術前評価〉
l   ジストニアの症状はNRS(数値評価)で9レベル。メンタル面のNRSは9レベル。筋骨格系の機能評価は8レベル。
〈検査〉
l   前回と同様に行う
〈調整〉
l   ハード面調整法ではAMによる基本レベルの調整の後、PCRTの頭蓋骨調整法とブレインマップの調整法を行う。          
l   ソフト面調整法では前回の「利己心」は反応が示されなかったが、「慈悲心」に関するキーワードで再度反応が示されたので、コーチング的に質問を行い、心の構造を明確にして調整を行う。さらに検査を進めると大脳皮質系で意味記憶「情報」に関係する誤作動記憶が示された。
l   質問で明確になったのは心療内科で処方されていた「精神安定剤の薬を止めると悪くなるのではないか」といういわゆる思い込みだった。そこで、「その薬で改善されていたのですか?」と尋ねると、「いいえ・・」という。「改善してもいないのに薬を飲み続けて、その薬を止めるのに不安になっているのですね・・・」と現状をフィードバックさせてもらうと、「はっ・・・」と、ご自分なりに気づかれた様子。そこでこのような本質的な調整法を通じて自分の治る力を信じるような肯定的な思い込みに書き換えるように提案して調整を行なった。一般情報として、薬に対する思い込みは影響が強いのだと改めて感じた。
〈術後評価〉
l   施術後の筋骨格系のNRSは1レベル。メンタル系のNRS6レベルに変化した。

3回目施術
続けて次の日に来院。
この日は別人のような印象を受けた。明らかに顔の表情がリラックスしている。本当はこんな顔の人だったのだとスタッフと口を揃えて言ったほど変化が見られた。その変化は、本人も自覚されており喜んでいいた。
〈術前評価〉
ジストニア症状のNRS3レベル。筋骨格系はNRS3レベル。メンタル系のNRS4レベルと前々回よりも数値的にもかなり改善していた。
〈検査〉
l   前回と同様に行う
〈調整〉
ハード面調整法
l   最初はAMで調整、骨盤部のみの反応が示された。PCRTの臓器反応点調整法を行う。
ソフト面調整法
l   「喜び」のキーワードが示された。症状が改善された喜びだった。次に示されたキーワードは「恐怖」だった。仕事に関する書類の監査があるので、前回のようにパニックにならないか、あるいは自分の評価が下がって情けなくならないかということが関係していた様子だった。
〈施術後評価〉
l   ジストニアのNRS1レベルに軽減。筋骨格系は1レベル、メンタル系は2レベル

4回目施術
前回の施術から5日後に来院。ジストニアの症状は以前よりもある程度改善されていたが、以前から抱えていた口周りのこわばり感、病院で受けたボトックス注射の後の違和感、舌の動き、咀嚼障害、首肩の症状、睡眠障害などの症状を訴える。
〈施術前評価〉
筋骨格系のNRSは8レベル。メンタル系のNRSは6レベル。
〈検査〉
ハード面調整法
l   AMで調整
ソフト面調整法
l   PCRT検査で「恐怖」に関係するキーワードが示された。退職後のやりがいや生きがいなどのテーマが関係していた様子だった。
〈施術後評価〉
l   調整後、筋骨格系のNRSは2レベル。メンタル系のNRSは1レベルに軽減。

5回目から10回目の施術
その後、仕事に復帰しながら、少しずつ間隔を開けて通院していただいている。以前は職場から休職の相談ももちかけられていたが、職場の人からも症状改善が確認されていることなので、仕事を継続していくとのこと。以前のような誰が見ても分かるジストニアの症状もある程度落ち着いているが、人間関係における身体的な緊張や精神的な緊張を仕事現場などで感じている様子。通院を継続しながら、何が緊張させているのかをPCRTで検査しながら誤作動記憶の調整を行なった。さらに誰にでもある建前と本音の自己認識を深められるように心理面の提案もさせていただいた。

考察
本症例は、ジストニアの症状が完治したという訳ではないが、初診時の症状から比較するとかなり改善されていることは明らかである。このような症例の経過からすると、一般的には仕事を辞めれば治るのではないかと思われるのではないだろうか?しかし、ジストニアの症状に関連している脳の誤作動記憶はそれほど単純ではないことが多々ある。もしも、人や環境が変わっても、症状に関係している「無意識の心のクセ」はそう簡単に変わるものではない。
まずは、ご本人が「心と身体の関係性」による症状であるということをしっかりと理解すること。そして、症状につながっている無意識的に発生する誤作動記憶の内容をしっかりと認識することが大切だろう。もしも、患者が無意識的に発生する自分の「心のクセ」に向き合おうとせずに、「脳や身体の構造的、あるいは機能的な問題ばかりに目を向けようとすると、治すのは治療法や治療者次第ということになり、改善も難しくなる。
症状は自らが創ったモノなので、自らが主体性をもって適切な治療を受ければ治るという基本姿勢が必要不可欠になるだろう。ジストニアの症状はかなり改善されているが、首周辺の緊張パターンも含めて完治するまでしっかりと症状(自分自身)に向き合えるよう患者さんのペースに寄り添っていきたいと思う。


2017年10月27日金曜日

頚部ジストニア(痙性斜頸)・攣縮性斜頸

頚部ジストニア(痙性斜頸)・攣縮性斜頸

はじめに
頚部ジストニアの症状を長年抱えていた患者さんが来院され、最初は、誰が見ても明らかに正常ではない首の動きが、数回の施術後には症状があるのが分からなくなるほどに改善された一症例をご紹介する。

患者情報
四十代女性、事務職、7年ほど前より頚部ジストニアの症状を発症。個人病院や大学病院を転々とする。MRIなどの検査を受け、痙性斜頸(ジストニア)の診断を受ける。投薬、ボトックス注射、電気療法、マッサージ、筋膜リリース注射、ストレッチ、運動療法、リハビリなどの施術を受ける。来院時には手元を見続けられない。姿勢をまっすぐにして正面を向いて静止できないなどの症状があり、問診している際にも正面をまともに向くことができず、顎の下部付近に手を当てて(感覚トリック)、首の曲がりを補っていた。頚部ジストニアにも様々な程度があるが、施術者から診て「8レベル位悪いのではないか」という印象を受けたが、ご本人によると最も悪い時には上半身が曲がることもあったので、その時に比べると、現在はで6レベル(NRS)とのことだった。

初回施術
筋骨格系の検査では、頚部の右回旋、右側屈、左上肢挙上、左肩甲骨伸展で陽性反応。PCRTの検査では座って下を向くイメージで陽性反応。最初は、脊柱関節のバランスを整える目的で、AM(アクティベータメソッド)にて調整を行う。次にPCRTのハード面調整法で脳神経(三叉神経)と頭蓋骨の調整を行う。PCRTソフト面の調整では、患者から思い当たる原因を申告されたので、そこから検査を進め、「恐れ」に関係する内容で調整を行なった。調整後、初回の施術内容やジストニアの説明、今後の治療計画などを患者に話した。その際には、最初の問診時のように患部に手を触れる感覚トリックなどを使わずに正面を向いて会話ができていた。

2回から4回目の施術
2回目の来院時は顔の症状も和らぎ、首の曲がりも軽減していた。数値による自覚症状も6レベルから3レベルに軽減された。1回目の施術後には明らかに改善の変化が見られた様子で6回の回数券を購入された。2回から4回までの間は、特に過去の人間関係に関する内容で陽性反応が示された。関係するキーワードは「執着心」で「〜すべき」や「〜すべきではない」の内容が明確になった。「全て自分が正しいと思っている」ということに対して、誤作動記憶の陽性反応が示されたということを自覚されたらしく、笑いながら納得した様子だった。

5回目の施術
以前のPCRTの検査で陽性反応が示されていた「会社に行くイメージ」、「特定の人に対するイメージ」などの陽性反応はすべて陰性反応に転じていた。「職場で椅子に座って下を向くイメージ(体感)」では陰性反応が示されたが、「その体勢を客観的に見ているイメージ(客観視)」では陽性反応が示された。そこで、「下を向いて仕事をしても、リラックスできている自分の姿を想像できますか?」と質問したところ、患者さんは「その姿は想像できない。」という。理想の自分の姿を想像しようとすると陽性反応(誤作動反応)が示されるので、その状態でPCRTの頭蓋骨調整を行う。そして、少しチャレンジ的ではあるが、「恐らく想像できないのではなくて、想像したくないというもう一人の自分がいる可能性があると思いますので、その辺りも次回の課題として検査していきましょう」と提案させてもらった。

6回目の施術
来院時にジストニアの症状の程度を尋ねてみると2.5のレベル。「下を向いて仕事ができないイメージ」から陽性反応が示されたので、そこからPCRTのソフト面の検査を行う。そこでは、大脳皮質系レベルで、「意味記憶」、「ストーリー」で反応が示される。この「ストーリー」の陽性反応は、複雑な心理要素を含んでいるサインで、症状を治したい一方で、そこにブレーキを掛けるもう一人の自分がいるというような誤作動記憶である。そのブレーキとは何かと言うと、症状を持ち続けることで得られる隠れた目的のようなもので、それは、当の本人の意識にはない。

ちなみに「ストーリー」に関する陽性反応が出た場合には、施術者にとってもチャレンジ的なコーチング手法が要求される。ややもすれば、誤解を受けて患者さんとの信頼関係を失いかねないハードルの高い課題である。患者さんに理解を得ながら検査を進めると、その「隠れた目的」は、「被害者、あるいは犠牲者であるという承認」という項目で陽性反応が示された。そのことに関して丁寧に質問すると、患者さんから、「ある人に迷惑をかけられているということを分かってほしいという自分がいる」という答えがかえってきた。つまり、その人から迷惑を受けているということを伝えきれない自分、理解してもらえない自分が、ジストニアの症状で無意識的に訴えているということになるのだろう。

7回目の施術
7回目の検査も6回目と同様に「下を向いて仕事ができないイメージ」で陽性反応が示された。そこからPCRTのソフト面の検査を行うと大脳皮質系レベルで、「意味記憶」、「ストーリー」で反応が示され、「隠れた目的」は、前回と同様に「被害者、あるいは犠牲者であるという承認」という項目で陽性反応が示された。前回と同じ人に関係しているかもしれないので、前回の人をイメージしてもらって検査をしてみると陰性反応。そのことを患者さんに伝えると、「同じ人で、その人には別の内容のことを分かってほしいのかもしれない」という答えが返ってきた。そこで、そのことをイメージしてもらうと陽性反応が示されたのでその内容で調整を行なった。

その後、患者さんの表情もすっきりした様子。複雑に絡んだ心理面の関係も受け入れてくださった様子で満足されていた。帰りの会計時には、購入された6回の回数券も終了し、経済的なことも考慮して、このまま継続治療するのかどうか迷っているとのことだった。下を向いて仕事をする以外の日常生活には支障がなくなっているので、当初ほどの深刻な状況ではないまでに回復したことが伺えた。

考察
通院されている過程で、患者さんから冗談交じりに「ジストニアって本当に治るのですか?」という質問を2回ほど受けたことがある。私は「治るから治療しているのですよ・・」と笑いながらお答えしたが、その質問の裏に様々な心理的要素が関係しているだろうと勘ぐった。「今まで様々な医療機関で完治しないので、治らないと思い込んでしまったのだろうか?」「初回の施術で改善されて、可能性を信じたから回数券を購入されたのになぜその質問を・・・?」「実際に改善度のレベルが上がっていることを自覚されているのに、なぜ治ることに疑問をもつのだろうか・・・? 」「7年間もジストニアの症状を抱えていたので、そのような疑問も致し方ないのだろうか・・・?」一般の人がジストニアの症状を発症した場合、まずは病院を受診するだろう。そして、投薬かボットクス注射の治療を受けるのが普通である。治療者が治るという確信を持って施術にあたっても、当の本人が自分の治る力を信じなければ、治るものも治らない。特に心因性が絡んだ症状において本人の治る力に対する確信は多大な影響を及ぼす。初診時からするとかなり改善されてご本人もその改善を自覚されている。まだ完治とは言える状態ではないので継続された方がいいと思うが、患者さんにも事情があるので致し方ないだろう。