2018年8月30日木曜日

「トラウマ=誤作動記憶」による小脳機能障害

はじめに
10年ほど前に腰痛で来院された患者さんが遠方から来院。今回は半年前から左足に力が入りづらく、仕事で大きな丸太を抱えて移動させるときに力が入らない状態が続いているという。ふくらはぎの筋肉もだんだんと細くなっているという。

機能検査(目安検査)
筋抵抗検査をしてみると、明らかに左下肢の検査で陽性反応が示される。最初の問診では左腕の症状は話されていなかったが、検査をしてみると左上肢にも陽性反応が示される。ここまでの検査で、左側の小脳の機能低下が疑われる。いくつかの小脳機能検査をすると、やはり陽性反応が示される。前腕を回旋させる回内-回外検査をしてみると、左の動作が遅れている。PCRTの三層構造レベルの検査では、小脳-大脳辺縁系関係の誤作動が疑われた。これらの検査を総合して機能障害の根源は小脳機能障害であることが明らかであり、その機能障害を生じさせているのは大脳辺縁系の誤作動記憶であるという予測はできた。

調整
1.     ハード面調整はアクティベータ療法で行い、ソフト面調整法はPCRTのチャートで検査を進めた。
2.     大脳辺縁系→信念→復讐心→時系列→過去→14ヶ月前→思い当たる事柄の特定、相手の特定→「べき」の明確化→調整。
3.     調整後、回内-回外検査をしてみると、先ほどよりは動かしやすくなっているが、若干、左が遅れている感じがするとのこと。
4.     再検査で、同じ出来事で、別の人も関連しているというので、その人に関する「べき」の明確化で調整。調整後の再検査では、先ほどよりも、まだ若干の違和感があるとのこと。
5.     次の再検査では、同じ出来事で「恐れ」のキーワードが示される。「当時のことで最も恐れていたことで、最悪のシナリオとして、思い当たることはありますか?」患者さんはすぐにその恐れのシナリオを想像できた様子。そのイメージで調整。
6.     調整後の回内-回外の再検査では、患者さん曰く「あっ、いいみたいですね!」と、ほぼ左右が同じ感覚で回旋できるようになった。
7.     最初の他の小脳関連の機能検査も全て陰性化して機能障害の反応はすべて改善した。

考察
最初は、現在の症状のことだけをお聞きして、原因になっていた過去の出来事(トラウマ)に関しては一切お聞きしていなかった。でもPCRTの検査ではピンポイントでその原因にたどり着いた。施術後、患者さんにその出来事の内容をお聞きして、なるほど、そんな大きな出来事があればトラウマ(心的外傷)=誤作動記憶として、影響を及ぼしてもおかしくはないと納得した。患者さんは、身体全体を使った力仕事をされている方で、施術前と施術後の違いを明確に感じていただいた様子。以前、腰痛で来院されてから、腰の調子もいいとのことで、今回も信頼して来院してくださり、不調の原因も明確になりとても喜んでいただいた。恐らく、このような関係性による本質的な原因を診ないままで、単に機能神経学的(ハード面の施術)だけのアプローチにとどまると、改善にもっと時間を要しただろう。全ての症例でこのような因果関係がスムーズに分かるわけではないが、今回のように何が症状の本質的原因なのかが明確に分かり、それに伴ってその場で症状が改善されるのはとても清々しい!


2018年8月24日金曜日

思いがけない過去の「トラウマ」が慢性症状を引き起こす

先日、患者さんが痔の症状を訴えてしばらくぶりに来院。以前も痔の症状で施術させていただいたことがあり、その時は一時改善したが、今回はその時よりも悪いとのこと。来院時には、何もしなくても患部に痛みを感じているとのことだった。

アクティベータ療法でハード面の施術を終えた後、PCRTのプロトコルへと進んだ。最初に示されたキーワードは「恐れ」だった。プロトコルに従って、詳細チャートで「どの領域から特定したら良いのか」という前提で、「分野」→「立場」→「時系列」という順でPRT検査をすると、「時系列」で反応。そこから「現在」→「過去」・・・と進めると「過去」で反応。さらに、「近い過去」なのか「遠い過去」なのかをLPRT(言語生体反応検査法)で検査すると、「遠い過去」で反応。そこからLPRTで年代を特定すると、18年前で反応を示す。

「18年前の恐れに関係する記憶が関係しているようですが、何か心当たりがありますか?」と尋ねると、患者さんは「・・・・その年は丁度、主人が亡くなった年ですね・・・」という。「それでは、その当時を思い出して、その時の最悪の恐れをシナリオ的に想像してもらいますか?」と尋ねる。検査で陽性反応が示されたので、そのイメージで調整を行う。

調整後

「あっ・・だいぶん楽になりました・・・」と喜んでいただいた。

1週間後に来院していただいたが、前回の施術後から改善状態が継続しているとのことで喜んでいただいた。検査でも陽性反応が示されずに改善が維持されていた。今回の痔の症状の改善は、ある意味、劇的に改善した一例といっていいだろう。

この患者さんの痔の症状は以前から診させていただいたのに、なぜ、その時に過去の記憶が引き出されず、今回は引き出されたのか?後で振り返った。それは、できるだけ施術者(私)の思い込みが最小限になるように、マインド設定をして、チャートに沿って検査を進めた結果だと思った。私自身もまさか18年前の記憶が影響しているとは思いもよらなかったし、ご主人をご病気で亡くされていたことは知っていても、18年前だとは知る由もなかった。

改めて「無意識に聞く検査」に磨きをかけて、幅広くアンテナを広げて、本質的な原因を引き出せるように訓練をし続けなくてはならないと思った。また、思いがけない過去の記憶(トラウマ)が、案外現在の慢性症状に結びついているということをもっと多くの人に知ってほしいと思う。また、そのトラウマが症状の発症よりも遠い過去であっても無意識の脳と関連していることも少なくはない。理性的な脳で考えると辻褄が合わないことでも、深い感性的な脳は関係しているようだ。トラウマの調整で症状が改善されたことから考えても、そのトラウマが症状に関係していたと思わざるを得ないだろう。

2018年8月23日木曜日

鼻水、鼻づまり(副鼻腔炎)

一週間前より鼻水、鼻づまりの症状で病院を受診。副鼻腔炎の診断を受け、処方薬を服用しているが、改善が見られずに来院。本患者さんは10年以上も前から腰痛などの症状がある際に時々ご利用いただいている。今回は病院での薬でも効果がないので、「何か原因が他にあるのではないか?」と根本的な治療を期待して来院。最初は「五感適応系」で、嗅覚や植物系繊維のアレルゲン情報、並びにいくつかの感情に反応を示していた。その後、アレルゲンの反応は消失し、潜在的なメンタル系の反応が毎回示されていた。10回目の施術でようやく症状の改善が見られ、休日の間は良かったが、仕事が始まってから少し症状がぶり返すとのことだった。

鼻水、鼻づまりの症状の患者さんの中では比較的治りが悪い印象を受けていたが、10回目にしてようやく家族関係に関係する潜在意識が整理された様子で、ご本人も、様々な原因が重なっている中で、ある一つの関係性が複雑に影響を及ぼしているということは、薄々は感じていたとのことだった。誤作動記憶に関係する詳しい内容に関してはご本人にしか分からないが、そのことが影響していたということは納得されていた様子だった。

通常医療では、鼻水、鼻づまりの原因は、感染症かアレルギーという診方をするだろう。一般では潜在的なストレスが関係するとは思わないのが普通だろう。しかしながら、心身条件反射療法を使った改善例を考察すると、鼻水、鼻づまりの原因は、単に感染症やアレルギーだけが原因ではなく、「メンタル系が絡んだ誤作動記憶」による場合も少なくはない。現代医療の知識情報にとらわれずに、純粋に身体に聞いて検査を進めていくと、最終的には辻褄が会うことが多く、患者さんも点と点が繋がって線となり、線と線が繋がって面となり、面と面が繋がって立体像が浮かび上がって、因果関係が明確になる。そして、それに伴って症状も改善される場合が多々ある。

症状の改善の鍵は、いかに患者さんの無意識に寄り添って、原因となる誤作動記憶を引き出すかによる。現代医療のケアも大切だが、それでは治らない時には、純粋に「無意識に聞く」ことが改善の近道になるだろう。

2018年8月9日木曜日

2018年度PCRT中級2のご案内

2018年度PCRT中級2のご案内

9月9日-10日に開催されるPCRT中級2では、主にアレルギー治療に関しての手法を学びます。スイスのアレルギー研究所が発表したデータによると、アレルギー患者は1950年代では非常に少なかったけれども、先進国では年を追うごとに増加し、2000年の時点では、何と3人に1人が何らかのアレルギー症状を抱えているといいます。現代医学では科学的な根拠に基づいて治療やアドバイスをしていると考えられますが、アレルゲンを避けるという「予防策」は効果があるのでしょうか?巷では花粉を避けるためのマスクやメガネなどの広告やアレルギー食材の表示をたくさん目にします。

しかし、最新の科学研究は、アレルギー食品などを避けることは、実はアレルギー予防に全く役に立たないことを突き止めました。つまり、アレルゲンを避ける「予防策」は、明確な科学的根拠が存在しないのです。これは、アレルギー医療の最新研究の現場を世界的に取材したNHK取材班が述べていることです。さらにアレルギー食品を避けることが、かえってアレルギーを発症する子供を増やしてしまっているという恐ろしい可能性すら指摘され始めているのです。現代医療はアレルギー症状を根本的に治すことが不可能だと考えていたため、予防策や症状を抑える対症療法で対応してきたのです。

しかしながら、22年前に日本人科学者がある特殊な免疫細胞の存在を突き止めたことに起因して、近年のアレルギー研究が飛躍的に進歩しました。現代医療においては、アレルギー医療の常識が根底から覆るようなパラダイムシフトがあったということです。簡単に言うと、「アレルゲンを身体から避ける」から「アレルゲンを身体に慣れさせる」という考え方に180度転換したということです。

現代医療ではその革新的な考え方から、2014年に「花粉症の舌下療法」という治療法が開発され、新聞、雑誌などで話題になり、根本的な治療法として期待されるようになりました。それは花粉成分が少量入った液体を舌の裏側に垂らして吸収させる治療法です。アレルギーの原因物質であるアレルゲンを敢えて体内に取り込むことで身体を慣らして完治させようという試みです。また、花粉の成分を入れたお米を食べることで花粉症を根本的に治す研究も進められています。

PCRT(心身条件反射療法)研究会では、20年ほど前からアレルギー治療の臨床研究が進められており、欧米で進められている様々なアレルギーの代替療法も参考にしながらその本質的な治療法を追求してきました。そして、現在のPCRTにおけるアレルギー治療は、明確なプロトコルに基づいて、効果的なアレルギー治療ができるように発展してきました。基本的には「アレルゲンを身体に慣れさせる」というコンセプトに基づいていますが、アプローチの仕方は、現代医学とは異なります。アレルゲンを「情報」=「エネルギー」として捉え、脳の可塑性を活用して、アレルギー症状を生じさせる誤作動の記憶を調整していきます。

アレルゲン情報をエネルギー的に身体に慣れさせることは難しいことではありませんが、様々な一般情報から由来するいわゆる根拠のない「思い込み」は、施術の妨げになることもあります。しかし、PCRTではそれが「思い込み」が関係しているのか、単に反射系に関係する「アレルゲン」の条件付けなのかを検査します。さらには、「アレルゲン」にプラスアルファーされた、大脳辺縁系に関係する複合した誤作動記憶なのかを明確にして施術を行うことができます。

PCRTの本質をしっかりとマスターすれば、アレルギー症状の患者さんをしっかりとサポートできる自信が身につきます。アレルギー症状は改善されないものだと諦めている患者さんは少なくはないと思います。そのような患者さんに貢献できるように治療の幅を広げてはどうでしょうか。様々な慢性症状と同様に、アレルギー症状の改善も、身体をエネルギー体として捉え、誤作動記憶という概念で治療をすることで、効果が出せることを確信されると思います。次回のPCRT中級2では主にアレルギー治療について学び、信念や意味記憶などの概念を深めていきます。皆様と共にさらに学びを深めていけることを楽しみにしております。

2018年8月6日月曜日

PCRT実践編ジストニアとイップスOne Dayセミナー

昨日、ジストニアとイップスOne Dayセミナーを福岡で初めて開催させていただきました。

前半、現代医学に基づいたジストニアの定義や分類、鑑別、ジストニアに関係する神経ネットワークやジストニアに関係する大脳基底核の主な機能や運動ループ、心因性ジストニアとイップスの神経学的メカニズムの仮説を学びました。医学的な文献に基づいた情報を説明し、PCRTを応用した問診のポイントや注意点を紹介しました。その後、痙性斜頸のアプローチの仕方やリバビリの手法、書痙のアプローチの仕方を紹介しました。

後半はイップスについての最新の情報をお伝えし、ゴルフイップスや送球イップスのアプローチの仕方を学びました。そして、パフォーマンス向上のためのフォローの仕方、マインドフルネスの活用などをご紹介しました。ワークでは「部分と全体」を体験するワークや誰にでもある「反復性のパフォーマンス問題」を課題に施術のアプローチを学びました。心因性ジストニアとイップスの症状改善は、PCRTでのアプローチが本質的な施術になるということを改めて理解していただいたのではないかと思います。

参加されていた先生方が認定者であり、遠方からこのセミナーのために日帰りで福岡まで受講していただいた先生もおられました。参加者の意識が高くとても有意義な実践編のOne Dayセミナーになったと思います。すでに、ジストニアやイップスの患者さんを多く施術されて、結果を出されている先生もおられましたが、今回のセミナーを通じて、さらに多くの患者さんをサポートしていただけること思います。熱心に受講していただきありがとうございました。

10月にも東京で実践編が開催されますのでよろしくお願いします。


2018年8月2日木曜日

身体は「症状」を記憶する

 今回のテーマを見て、「えっ?身体が『症状』を記憶する?それってどういうこと・・・?」と思った方がいるかもしれません。でも、当院をしばらくご利用いただいている方なら何のことなのかある程度お分かりいただけるでしょう。筋肉や内臓の働きを司る脳や脊髄の神経系には、コンピューターのメモリのように高性能の記憶装置が備えられています。私たちはその記憶装置のお陰で充実した健康生活を営んでいます。でもその一方で、記憶装置があるがゆえに慢性症状を繰り返して不健康な症状に悩まされる場合もあります。

例えば、梅雨の時期になると調子が悪くなる。台風が近づいてくると頭痛がする。このようにある条件付け(学習記憶)で症状が繰り返されるパターンがあります。このパターンはご本人が自覚している場合と自覚していない場合があります。最初は、「気のせいかな?」と思うのですが、毎回、その条件付けが再現されると、これは気のせいではなく確かにそのようにパターン化されていると確信します。しかし、通常の医療ではこのような場合、薬で症状を抑えるしかなく、当院に来院されて初めて症状につながる原因である誤作動記憶のパターンにアプローチできることが分かります。

複雑な原因が関係している慢性症状は、何が条件付け(記憶)されて症状を引き起こしているのか、自覚できないことがほとんどですが、当院で身体の反応を診る生体反応検査をすると、何が記憶されているのかすぐに分かります。長く放置された慢性症状ほど複雑化する傾向にあり、治療回数もそれなりに必要になります。しかしながら、回数を重ねるごとに、誤作動につながっている記憶が正常なパターンに上書され、消去法のように複数の誤作動がだんだんと消えていきます。

誤作動は主に脳と脊髄に記憶されており、当院では症状の原因となる『誤作動の記憶』を脳の三層構造に照らし合わせて検査していきます。脳の第一層目は、「脳幹脊髄系」、あるいは「反射系」と呼ばれており、この領域はメンタル面が関係しない「身体面だけの誤作動の記憶」が関係します。脳の第二層目は、「大脳辺縁系」と呼ばれており、この領域は感情や信念、価値観などの情動を司るメンタル系領域の記憶に関係しています。無意識の情動脳の領域です。脳の第三層目は、「大脳皮質系」と呼ばれる領域で、経験や様々な情報から得た理性的な知識によって条件付けされた理性脳の記憶に関係します。いわゆる「思い込み」によって生じる症状に関係する脳の領域になります。

症状に関係する脳の記憶は、私たちが普段ほとんど意識していない無意識的な内容ですが、当院の検査でその件に関連することを質問されると、ほとんどの患者さんがそのことを認識されます。症状に関係している誤作動の記憶を認識することができれば、パソコンやスマホを再起動するように誤作動を消去します。症状の程度や抱えている期間によって、誤作動の記憶の深さや数は人それぞれですが、治療回数を重ねるごとに誤作動は調整され、それに伴う症状もだんだんと改善されていきます。

誤作動を調整した後で大切なことは、何が症状の原因に関係していたかをしっかりと認識して記憶しておくことです。「慢性症状=記憶」です。脳の可塑性といって脳の神経回路は常に変化する機能を備えています。新たな学習と記憶の繰り返しで、新たな神経回路のネットワークが構築されます。施術によって原因パターンに気づいて学習し、記憶すれば神経回路が強化され変化が促されますが、記憶しなければ、元の症状を引き起こす神経回路に戻ってしまうわけです。

「全ての慢性症状=記憶」とは言い切れないにしても、多くの慢性症状には「記憶」が関係しているということを忘れないでください。「記憶」が慢性症状に深く関係しているということをもっと多くの人に知っていただけることで、たくさんの人々の健康レベルが向上すると思います。現代ではこのことを知らない方がほとんどです。慢性症状で悩んでいるご家族や知人の方がいましたら、症状の原因が「記憶」に関係しているかもしれないということをお伝えください。慢性症状から解放される可能性は十分にあると思います。

2018年7月24日火曜日

ジストニアとイップスの本質的な原因

ジストニアの原因は、医学的に特発性(原発性)ジストニアと症候性(二次性)ジストニアに大きく分類されています。特発性ジストニアは、病理学的に脳の構造的異常が認められないものです。症候性ジストニアは、別の疾患や事故などが元にあって二次的に生じたものです。その場合、MRICTの検査によって、大脳基底核(特に淡蒼球)などに病理学的な病変が存在することがあります。また、薬剤投与による薬剤性ジストニアも症候性ジストニアに含まれます。

当院のような代替医療の治療院に来院されるジストニアの患者さんの多くは、来院前に神経内科などの専門の病院で、障害の筋肉を司る脳や神経系に病理的な異常がないかどうか検査を行います。もしも、器質的な異常がなければ、「特発性ジストニア」となるわけですが、「器質的ジストニア」以外は脳や神経系に関連する「機能的ジストニア」として分類することもできます。では、何が脳や神経系の働きを乱す原因になるのかということになりますが、その多くは心理的な要因が関係しています。心と身体は密接に関係し合っているという観点で考えるとごく当たり前のことです。しかし、西洋医学の思想の影響でそこを切り離して考える医療者は多いようです。

西洋医学の論文で心因性ジストニアは稀とされる記述もありますが、西洋医学の診断の多くが機械論的な思想に基づいた目に見える「器質因説」に基づいており、心と身体の関係性による誤作動記憶という目には見えない心身相関に関連する「心因説」の存在の多くは検査対象外となりやすい傾向があります。そして、明らかな「心理-社会的要因」が見当たらない場合は「特発性ジストニア」として、対症療法的にボトックス注射や薬が処方されます。一時的な症状の緩和が見られる方もいるようですが、副作用があったり、本質的な治療法でないために症状が振り返されたりする傾向もあるようです。

現代医学における心因性ジストニアに関する症例報告を検索すると、あまり、報告されていないという印象を受けます。数少ない症例報告の内容は、心理テストでも示されるような明らかにメンタル的な問題が存在する患者の症例がほとんどで、私はそこに現代医学の盲点があるように感じます。当院に来院するジストニアの患者さんの多くが、神経内科などの専門医を受診されて、ボトックス注射などの対症療法を避けて来院されるケースで、また、病院で通常の問診を受けてもメンタル的には問題があるとは思えないような患者さんがほとんどです。

しかしながら、PCRTのプロトコルに沿って検査を進めると、心理-社会的な心因性の誤作動の記憶が検出されます。そして、その誤作動記憶が消去されるごとに、条件付けされた不随運動が徐々に改善されます。原因パターンの複雑さや広さにもよりますが、患者さんが早期に施術を受けるほど改善も早まる傾向にあります。PCRTで改善される心因性ジストニアの患者さんのほとんどが、無意識的レベルの感情や信念の記憶に関係しています。それは誰にでもある誤作動の記憶です。多くの患者さんはそのことがいわゆるトラウマとして原因になっていたということを認識されます。

代替医療を利用する患者さんの多くが「機能説」に基づくジストニアですが、当院に来院される患者さんも病院以外に鍼治療やカイロプラクティック、整体などの治療を受けて改善されずに来院されます。そのような患者さんにはどのような治療を受けたのかをできるだけ尋ねるようにしています。多くの患者さんは具体的な施術目的までは分からずに治療を受けている方がほとんどですが、多くの代替医療の治療院では「機能説」に基づいて、筋肉の緊張緩和や神経系の機能回復の目的で治療を受けているようです。

「機能説」に基づく治療法もいろいろありますが、神経学的なアプローチをする治療者は、ジストニアに関係する神経学的な機能異常の部位や神経経路を特定し、その機能回復を目的に神経学的な刺激を加えるリハビリを患者さんに指導します。脳の可塑性を活用したリハビリ療法ですが、患者さんはよほどの覚悟をしてリハビリを長期に継続する必要が求められます。もしも、長期的なリハビリが継続され、脳の機能異常部位への適切な刺激が行われれば、脳の可塑性が促進されて効果が現れる可能性があります。

しかしながら、神経学的な機能異常にはそれを引き起こす原因があります。繰り返しますが器質的な原因でない限り、機能異常の多くは心因的な原因が関係しています。脳や身体に記憶された誤作動は、単純な神経学的な機能低下という観点ではなく、無意識的に条件付けされた誤作動の記憶という関係性から考えることで、さらに早く改善が促されます。

スポーツの分野で知られているイップスの症状も程度や部位などの違いはあるにせよ、脳の誤作動記憶に関係して無意識的に筋肉の不随意運動が生じるという点においては心因性ジストニアと同じメカニズムです。意識と無意識とが離れすぎて脳と身体が調和できていないという点においても同じであり、どちらも意識と無意識の関係性、脳と身体の関係性、脳と環境との関係性など、「関係性」に基づく誤作動の記憶を書き換えることで本質的な治療につながります。

「器質説」に基づく原因療法は西洋医学、「機能説」に基づく療法は代替医療となりますが、神経系の機能異常にメンタル面が関係していることを忘れないでください。心と身体は切っても切れない密接な関係性があります。その「関係性」を含めて患者さんを診ることでホリスティックな本質的な治療が実現するのだと思います。

85日は、ジストニアとイップスに関するPCRT研究会をOneDayセミナーとして開催します。参加資格はPCRTの認定者に限定しておりますが、資格のある方はぜひご参加ください。ご一緒に治療の質を高めていきましょう。PCRTを利用したジストニアとイップスの症例報告はHPに掲載されていますので、下記をご覧ください。よろしくお願い致します。