2016年9月14日水曜日

連載6「調和」を引き出すために

無意識」にアクセスする「コーチング」を目指して 連載

連載6「調和」を引き出すために

心身の調和が乱れると「病気」になるということは一般的にも知られていることです。なのに病気という自分自身の中にある一部と闘うとさらに調和が乱れ「病気」のプロセスが進行して、病気の悪循環を起こしてしまうのではないでしょうか?長い臨床経験の中で、「病気」が治る過程をいくつも体験させていただいています。病気の一つの原因として、自分自身の中での「葛藤」があります。要するに、「頭で考える自分」と「腹の底で感じている自分」とが戦っているわけです。そこで、施術やコーチングを通じて、視野を広げていくことで、盲点が少なくなり、戦いに終わり告げ、病気も快復するという場合が多々あります。

東京海洋大客員助教授・さかなクンによると、メジナという魚を狭い世界に閉じ込めると、なぜかいじめが始まるというのです。『メジナは海の中で仲良く群れて泳いでいます。せまい水槽(すいそう)に一緒に入れたら、1匹を仲間はずれにして攻撃(こうげき)し始めたのです。けがしてかわいそうで、そのさかなを別の水槽に入れました。すると残ったメジナは別の1匹をいじめ始めました。助け出しても、また次のいじめられっ子が出てきます。いじめっ子を水槽から出しても新たないじめっ子があらわれます。広い海の中ならこんなことはないのに、小さな世界に閉じこめると、なぜかいじめが始まるのです。同じ場所にすみ、同じエサを食べる、同じ種類同士です。』と述べています。

心の状態も視野が狭くなると、秩序が不安定になり、自分の中で戦いが始まりやすくなるのです。「盲点」や「未知」の世界を広げて心の視野を広げることで、「自然体」に近づき、調和が引き出され、保たれやすくなるということです。情報があふれ過ぎている時代の中で、情報に振り回されて、自分を見失っている人も少なくはないのではないでしょうか?勇気をもって、もっと自分の無意識の世界に踏み入れて、隠れた自分の「盲点」や「未知」の世界を探索することがとても大切な時代になってきているようです。

2016年9月13日火曜日

連載5「自然体」になるにはどのようにすればなれるのか?

「無意識」にアクセスする「コーチング」を目指して 連載

連載5「自然体」になるにはどのようにすればなれるのか?

「自然体」とは、「意識」と「無意識」との調和によって生まれるもので、昔から心身統一という言葉が重要視されているように、心と身体との調和が自然体を創りだします。では、どうすれば「自然体」になれるのか?という疑問がわいてくるでしょう。これは難しい質問です。その人に応じて答えが違うかもしれませんし、答えがないかもしれません。ただ、言えることは、「自然体」は頭で考えて創り出すものではなく、流れに身をまかせた結果、「意識」と「無意識」との壁が取り除かれた結果得られるということです。頭で考える「意識」よりも、身体で感じる「無意識」の方が優位になっているときでもあります。そういつときは、自然に身を委ね、何かを手放して、あるがままの自分を感じ取り、すべてを受け入れているでしょう。これは東洋思想からくる発想です。

自然治癒力を引き出すことを主とした治療者の立場で、「人間」、「自然」、「健康」などを深く探求していると、調和とは裏腹な「病気と闘う」とか「闘病生活」という言葉に違和感を抱くようになります。自然にできた病気は自分の一部です。また、自分自身で創った病気です。その自分と闘うということは、互いに攻撃し合うということです。やるかやられえるかの世界には「調和」という概念はありません。「病気」で苦しんでいる人には申し訳ない気もありますが、西洋医学的な発想で、癌など悪いモノは排除するという思想に影響を強く受けているのだと思います。東洋医学の看板をだしていても、西洋医学的に癌を撲滅するというような発想をもっている治療者もいるので、一概に東洋と西洋で判断するのは難しいのですが、大切なのは人や病気をどのようにとらえているかだと思います。

病気があるとかないとかを超えた「調和」という考え方が前提にあり、その結果健康が保たれるということだと思います。

2016年9月10日土曜日

連載4「無意識」の領域は、いわゆる「盲点」や「未知」の領域を知る効果

「無意識」にアクセスする「コーチング」を目指して 連載

連載4「無意識」の領域は、いわゆる「盲点」や「未知」の領域を知る効果

 「ジョハリの窓」という心理学の分野でよく使われるモデルがあります。これは、対人関係などにおける「気づき」のグラフモデルです。このモデルは、アメリカの心理学者のジョセフ・ルフトとハリー・インガムによって開発され、二人の名前を組み合わせてジョハリと呼んでいます。ジョハリの窓は、4つの窓に分類されています。1番目の窓はオープン領域(開放の窓)で本人も他者も知っている領域です。

通常、この領域が大きければ、お互いに誤解が少なく、円滑なコミュニケーションができるようになります。2番目は、盲点の領域(盲点の窓)で、他者は知っているが、本人が知らない領域です。3番目は、隠された領域(秘密の窓)で、本人は知っているが、他人には見せない自分がいる領域で、この領域が大きすぎると他人とのコミュニケーションが不自然になりがちです。4番目の領域は、本人も他人も知らない領域(未知の窓)で、この領域が分かればわかるほど無限の可能性が広がります。

PCRTやコーチングのセッションで、クライアントがこのような自分自身の「盲点」や「未知」の領域を知りたいという前提があれば、自分の成長や変容につながる「気づき」が得られる機会が多くなります。その一方で、成長や変化を望んでいるが、自分の盲点領域に目を向けようとしない。あるいは、自分の盲点を認めようとしない人は、前に進むことが難しくなります。言葉では言わなくても、「自分のことは自分で分かっている」という態度や雰囲気が漂って、その領域に目を向けることに抵抗を感じる人もいます。

コーチングやPCRTで効果が引き出せない理由の一つが、この「盲点」や「未知」の領域に踏み出せないことです。これは、コーチとクライアントとの信頼関係が希薄であるとのと同時に、クライアント自身がその領域へ進むことに抵抗がある場合があります。私の臨床経験では、この「盲点」や「未知」の領域に進むことが素直にできる人は、自分の無意識を認識することで、本来の自分らしさが引き出されます。そして、肉体的にも精神的にも「自然体」を取り戻すという感覚が多くなるようです。

2016年9月8日木曜日

連載3「無意識の領域」にアクセスするとはどういうことでしょうか?

「無意識」にアクセスする「コーチング」を目指して 連載

連載3「無意識の領域」にアクセスするとはどういうことでしょうか?

通常の対話では「話の内容」に意識が向く傾向があります。また、多くの人はその話の内容によってコミュニケーションが成り立っていると判断しがちですが、実は顔の仕草や無意識的な表情、または身体的なボディーランゲージに多くの影響を受けるのです。これは、アメリカの心理学者、アルバート・メラビアンが提唱した「メラビアンの法則」として広く知られており、言葉(言葉の意味)=7%、声のトーン(大きさ、質、話し方)=38%、態度(雰囲気、表情、動作など)=55%といわれており、人は、話の内容よりも、声のトーンやボディーランゲージの影響を受けるのです。要するに、言葉の内容=「意識」の領域、声のトーンやボディーランゲージ=「無意識」の領域であり、多くの人は「無意識」に影響を受けており、「無意識」がその人の行動を司っているということです。

この「無意識」の領域は、自分の体臭が自分ではわかりにくいように、自分では認識し難いもので、コーチングや施術などのセッションを通して、本人が気づきがたい「無意識」の部分をフィードバックすることで、意識していないもう一人の無意識の自分に気づくことができます。コーチがクライアントに代わって、「無意識」の部分を言語化してフィードバックすることも大切ですが、もっと大切なのは本人自身が自ら「無意識」の自分に気づくことです。クライアント自身が「気づく」ために、コーチは「間」を大切にしながら、「待つ」というスキルも求められます。この「待つ」というスキルは簡単なようで以外に難しいものです。対話の中でコーチが先にクライアントの盲点に気づいて、ついつい答えを言ってしまいたくなる衝動に駆られてしまうときがあるのです。コーチはクライアントに寄り添いながら「じっと待つ」という「間」を大切にしながら、クライアント自らが気づくプロセスをサポートしていくのです。

2016年9月7日水曜日

連載2 「気づく」とは、どういうことでしょうか?

「無意識」にアクセスする「コーチング」を目指して 連載

連載2「気づく」とは、どういうことでしょうか?

「気づく」とは、今まで意識していない領域に足を踏み入れた際に生じます。もしも、「意識」と「無意識」に壁があるとすれば、その壁が壊れて、「意識」と「無意識」の領域の風通しが良くなり、暗闇だった領域にスポットライトが当てられ、何気なく「気づく」といった感じではないでしょうか?「気づき」がもたらされる場合、それぞれに様々な過程があるようです。大きく分けると二つのパターンがあります。一つ目は対話の中で質問という「刺激」を受けて、ふとした瞬間に「気づく」というパターン。二つ目は質問を受けて、「混乱」の後、しばらくして「気づき」が得られるバターン。「混乱」をネガティブな感情としてとらえる人もいますが、「混乱」は「気づき」を得るための、大切な思考のプロセスになるでしょう。

コーチングを「意識的」、あるいは「意図的」に使いすぎると、脳の表層部分にある「理性」が制限して、脳の深層部分となる「感性」的な本音に近い心理が引き出されなくなる傾向があります。要するにマニュアル的に使うと、その意図が相手にも伝わり、心が閉ざされて建前だけで対話が進行して大切な「気づき」が得られなくなります。私も最初にコーチングを学び始めた頃は、いわゆる「型」、すなわちマニュアルから入ったわけですが、何か相手の心の壁を感じてしまうことがありました。今では、臨床現場での患者さんとの対話や質問をする際、意識的ではなく無意識的にコーチング技法を知らず知らずのうちに使っています。相手のペースに合わせて自然体で接することが多くなっています。

臨床現場やコーチングで私がいつも大事にしているのは、表面的な技法ではなく、深層的な「無意識」領域へのアプローチです。PCRTという心身相関のテーマを長年研究してきたこともあり、こころの「無意識」領域の扱いには慣れてはいましたが、コーチングの技法を学ぶことで、さらに「無意識」領域へのアプローチが知らず知らずの内に幅広くなったようにも思います。このように「無意識」的に幅広くアプローチすることで、相手の無意識の領域にアクセスすることが容易になり、相手が「何気なく気づく」という瞬間が増えているように思います。

2016年9月6日火曜日

連載1 コーチングの背後にある心理的側面のスキル

「無意識」にアクセスする「コーチング」を目指して 連載

連載1 コーチングの背後にある心理的側面のスキル

コーチングにはいろいろな種類があります。形式的には、個人を対象にする「パーソナルコーチング」、複数のグループやチームを対象とする「チームコーチング」、そして、自分自身を対象にする「セルフコーチング」です。内容的には、「ライフコーチング」、「ビジネスコーチング」、「リーダーコーチング」、「スポーツコーチング」などです。方法論的には、「インナーゲーム」、「ボジティブ心理学」、「NLP」、「オントロジカルコーチング」、「コ―アクティブコーチング」などです。

日本でもコーチングが広がりつつあるようですが、まだまだ多くの人の認識はスポーツのコーチという印象が強いのではないでしょうか?コーチングのコーチは何かを指導してくれる「コンサルティング」、あるいは何か役立つ知恵を授けてくれる「メンター」のような意味合いでとらえている人も少なくはないのではないでしょうか?日本ではまだまだ、「対話を通じてクライエントの自己実現や目標達成を支援する技法」という認識はあまりされていないようです。また、日本のコーチング関連書籍ではコーチングのスキルとしての基本であるコミュニケーションスキルが主に強調されている傾向もあるように感じます。

コーチングでは「心理的側面」を扱うスキルが要求されるので、効果を引き出すために基本的な対面技法として、傾聴、フィードバック、質問、提案などの様々な技法を学びます。しかし、肝心なところ、すなわち本質的な効果が引き出されるのは、表面的な技法よりも深いところの技法ではないでしょうか。深いところとは、人間の深層的な心理面に関係することなのですが、表面的な「意識」あるいは心理面を扱うのではなく、「無意識」の深層心理のところにアクセスできるかどうかが要で、その領域にさりげなく触れていくことで、さらなる成長や変容を促すコーチングが引き出されるようです。

また、コーチングの成果の多くは、思わぬところから転じることが多々あります。一つのマニュアルにそってコーチングをすすめて、期待通りの成果がでる場合もあります。しかし、人間の深層心理はそれほど単純ではありません。セッションや施術を通じて、コーチとクライエントとの信頼関係が深くなることで、今まで触れることのなかった「盲点」にスポットライトが当てられて、ふとしたきっかけでクライエントの「気づき」が引き出されるということがあります。その時、クライアントにとっては、大きな変化、変容へとつながる傾向にあります。

2016年9月1日木曜日

投球恐怖症、イップスの改善例とその注意点

経緯

14歳の中学生男子、野球部に所属しており、ピッチャー希望ではあるが、ファーストも守っているらしい。一週間前からほとんどのスローイングができなくなったとのことで、最初はお父様からの電話で問い合わせがあり、スタッフに当院でのイップスの改善事例などを尋ねたらしい。小学2年生の頃から野球を初めているとのことで、詳しく聞いてみると、以前からイップスの徴候があったようだ。お父さんもイップスの経験があり、相当に悩まれたらしい。また、お兄さんも高校二年生のときからイップスを発症し苦しんだという。お父様は、自分や長男の経験から次男はもう野球は止めなければならないだろうと心配しつつも、何とかイップスを治す方法はないものかとインターネットで検索し、当院にたどり着いたらしい。

1回目の施術

まずは、身体的なエネルギーブロックの検査で、頭部全体の反応点に陽性反応が示された。送球イメージの検査でも陽性反応。興味深かったのはすべての送球で陽性反応が示されたことだった。問診でもすべての送球で投げることができないとのことだったが、一応、生体反応検査法で確認した。すべての送球に関する検査で陽性反応を示すイップス患者は、比較的珍しい方で、もしも、イップスに程度があるとすれば、重症の部類に入るだろう。
PCRTの検査では、大脳辺縁系→信念に反応が示され、信念チャートの検査で、いくつかのキーワードで反応が示され、PCRTのプロトコルに従って施術を行った。

2回目の施術(前回施術から3日後)

1回目の施術後には、お父さんとキャッチボールをしてみたらしく、お父さんによるとある程度治っていたのでそのときは安心したらしい。でも、ボールが浮く感じがあるとのこと。大脳辺縁系→信念という検査結果から、信念チャートで示されたいくつかのキーワードで施術を行った。また、イップスの患者に陥りやすい、スローイングのフォームはこうあるべきといった、いわゆる「技術論」に意識を向け過ぎた誤作動記憶が示されたので、「技術論」に意識を向け過ぎる弊害を分かりやすく説明し、意味記憶と合わせて切り替えた。

3回目の施術(前回施術から4日後)

前回の施術から数日で試合があり、その試合にピッチャーとして先発で登板。しかし、一回で交代させられたらしい。「えっ先発したの・・・」という感じだったが、恐らく、ある程度イップスの症状も改善され、監督さんも先発で起用できると判断したのだろう。思うように投げることができずに、監督に交代させられ、後でひどく叱られたという。2週間前にほとんど投げられない状態から2回の治療で、いきなり先発投手を務めるのは早すぎたかな~と思ったが、その経験も誤作動記憶を引き出すうえでは必要だったかもしれない。その試合を振り返りながらピッチングを想像してもらうと誤作動記憶の反応が示されたので、PCRTのプロトコルに従って施術を行った。このとき印象的だったのは、自分の理想のピッチングのイメージができないことだった。自分のベストな投球をイメージしてみるように促すと多くの投手は想像できる。今まで理想の投球をイメージする訓練はしたことがなかったのだろう。そこで、「プロの選手でも先輩でもいいから、理想のピッチャーを想像してみて・・・」と質問すると、2つ年上の先輩のピッチャーが自分の理想としてでてきた。モデルとなるピッチャーを自分に置き換えて、あたかもその理想のモデルのように自分が投球している想像をするように促した。そして、生体反応検査法を行うと、不一致の反応が示されないので、そのイメージを使ってエピソード記憶の施術を施した。さらには自分の理想となる先輩のように投げている自分自身のイメージトレーニングもアドバイスした。

4回目の施術(前回施術から2日後)

初診時から反応が示されていた頭部全体の反応点の検査では、すべて陰性反応が示されていた。キャッチボールやピッチングでも陰性反応が示され、かなり誤作動記憶が改善されていた。他に違和感のある場面を本人に尋ねてみると、大分改善されているが、ノックでゴロがきてホーム(キャッチャー)に投げる際に違和感があるという。検査をしてみると「恐れ」というキーワードが示された。思い当たる「恐れ」を尋ねてみると、送球の際、ノッカーや後ろの人に当てるのではないか、さらには、もしも、暴投したり、人に当てたりすると、周りからどのように思われるかが恐れになっていた。PCRTのプロトコルに従って「恐れ」に関係する誤作動記憶を消去した。治療を終えて、付き添いのお父さんに聞いてみると、最初に比べると随分よくなっているとのこと。最初に電話で応対してくれたスタッフの言葉を信じてよかったと喜んでおられた。

考察

4回目の施術から2週間ほど来院がないので、恐らく改善されているのだろう。もしかすると、まだ、どこかに誤作動記憶が隠れているかもしれないが、改善した経験も踏まえて、問題があれば来院してくれるだろう。お父様によれば、監督さんがとても厳しい方で、その影響もあるのではないかと心配されていたが、生体反応検査法では、監督さん関係の誤作動記憶は示されなかった。イップスの症状を発症してしまうと、多くの選手が「技術論」に救いを求める傾向にある。イップスで治療に来られる選手には毎回のように説明する内容だが、イップスは「技術論」で治るものではない。治らないどころが、技術に目を向け過ぎると治りが悪くなる。イップスは「意識」と「無意識」の不調和によるもので、特に「意識」という「理性」による判断が「無意識」の「感性」、「本能」、「身体」をぎこちなくする。「意識」の部分が「無意識」に向かって、フォームや技術をああしろ、こうしろと命令すればするほど、「無意識」がいうことをきかなくなり悪循環に陥る。イップスを克服するためには、まずは、「無意識」の心の状態を知ることが第一で、そこに「判断」を入れずに、ありのままを受け入れるこが重要である。そして、「どのように投げる」よりも「何のために投げる」ということを念頭に整理して投げることが大切である。身体はその目的に応じて、必要なフォームで投げてくれるはずだ。特に周りの指導者は技術的な指導に注目しがちになる。それも選手にうまくなってほしいという純粋な気持ちからなのだが、技術論に走り過ぎて、成長の芽を摘む危険をはらむので注意が必要だ。技術論が大切な場合もあるかもしれない。でも、「どのように○○しなさい」というよりも、「なんのために○○するのか」という質問を相手に投げかけた方が、数倍上達が早まるだろう。それはなぜだろうか?言うまでもないが、本人が主体的にその行動の目的を考えることが大切だからであるまた、人それぞれに体型や性格も違うので、ベストの技術というのはそれぞれに様々である。結果的に本人自身が苦労して紡ぎ出した技術がベストであって、ベストな技術が最初からあるものではないだろう。
イップスを克服するために、「意識」的に技術(フォーム)を「外」から部分的に変えようする傾向にあるが、多くの場合、それはうまく改善されないどころか、不自然になり、本来の能力が引き出されなくなり、足かせにもなる。イップスを本質的に治すためには、「無意識」的な全体像にアプローチすることが大切である。つまり、「内」から全体的に変えていかなければならない。例えば、ピッチャーであれば、「どのように投げるか」よりも「どんな球を投げたいか」という質問の方が、「意識」から「無意識」へ、「部分」から「全体」へ意識が向きやすくなる。多くの投手は、「伸びるような球を投げたい」という答えが返ってくる。すると、脳(無意識)では、伸びる球を投げるために自然にフォームを創るので、イップスという誤作動が入る余地がなくなる。
「理屈でうまくなる」というよりも「自然にうまくなる」という経験を多くのスポーツ選手が体験しているだろう。「自然にうまくなる」選手の多くは、目的意識が明確にあるようだ。目的が明確になることで、身体は無意識に自然に働いてくれる。目的が不明瞭なのに、身体を部分的に意識でコントロールしようとしても、無意識の脳は全体的に不調和を示すだろう。いくら脳の記憶装置が優れていても、入ってくるデータが不明瞭では、脳の計算処理が混乱して「正しい答え」がでてこなくなる。すると全身の筋肉に伝えられる指令が混線してミスも多くなる。要するに身体の筋肉の一部は「意識」的にコントロールすることができるが、全体の筋肉を「意識」的にコントロールすることはできない。全体をコントロールしているのは「無意識」的な脳であって、指、肘、肩、腰のように部分を同時に「意識」でコントロールすることはできない。
イップスを改善するためには、「外」から「内」へ、「意識」から「無意識」へ、そして、「部分」から「全体」へという考え方が大切になる。また、イップスを治すためには単に肉体へのアプローチや技術的なアプローチ、あるいは精神論的なアプローチだけではなく、心身相関という肉体面と心理面との関係性でアプローチすることが大切で、その背後にはコーチングのコンセプトや技法が使われている。