2016年11月8日火曜日

寝返りで腰痛解消!

先日、ストレッチで腰痛が改善するという内容の番組がNHKの「ためしてガッテン」で放映されていました。途中から見たので、後でホームページを調べてみると「腰痛患者の8割が改善する最新メソッド」という題で、腰痛解消のための4つのストレッチと快眠枕の作り方が紹介されていました。

理学療法士の先生が発案されたとのことで、東京大学病院で研究が行われ、8割もの腰痛患者に効果が期待できるとのことです。その先生は、腰痛の患者が朝起きた時に痛みを生じているというところに目をつけて、寝ている間の状態を調べたところ、腰痛患者は寝返りが少ない事がわかったといいます。

寝返りがスムーズにできるように、寝る前のストレッチと寝返りがしやすい枕に変えたら、腰痛患者が改善したという事です。この手法を開発した先生の目の付け所が、従来の固定観念にとらわれずに柔軟な発想だと感じました。また、それを研究成果として大学との連携で論文として発表されたところが素晴らしいと感じました。

2016年61日に公開されている研究論文では、マッケンジー法という理学療法で使われている指標や治療法も取り入れられていました。マッケンジー法だけの治療群と、ストレッチだけの治療群、それとマッケンジー法とストレッチを組み合わせた治療群で治療効果を比較し、3群とも疼痛、身体機能、精神機能のすべてで有効性が認められ、3つの群を効果のある順に並べると①マッケンジー法とストレッチを組み合わせた治療群、②ストレッチだけの治療群、③マッケンジー法だけ治療群という結果が得られたとのことです。これら3群の患者は治療法以外に姿勢指導や腰痛教育も受けていました。

研究論文では、下肢症状の有無を問わず6ヶ月以上持続する非特異的腰痛患者を対象として、罹病期間6ヶ月未満や脊椎手術後1年以内、麻痺、腫瘍、感染、骨折、骨粗鬆症、妊娠、精神科・心療内科通院、賠償との関連がある症例など腰痛を長引かせる心理社会的要因が疑われる患者などは除外されていました。

私たち勉強仲間の間では、腰痛患者の8割が改善するということ自体に対してさほど驚くべきことではないし、機能的な神経バランス異常やそれに伴う筋肉のバランス異常を調整すれば改善するのが当たり前なのですが、中には心理社会的要因が疑われる患者には、単に機能面だけのアプローチでは改善がし難い患者もいます。そのような幅広い腰痛対象者がある中で、今回の研究デザインの構成としては、機能的に治療すれば比較的治りやすい機能異常の腰痛患者だけを対象にしているように感じました。

私も長い臨床経験で、腰痛体操やストレッチ、マッケンジー法なども取り入れて、効果のある手法は色々と試してきた経験があります。そのような経験の過程で、常に興味を持つのは「なぜ、効果があるのか?」です。今回の研究成果の効果を紐解くと、ポイントは大きく分けると二つあると思います。一つ目は物理的に筋肉や靭帯などの軟部組織を自力でストレッチさせることで、柔軟性や血流が高まるということ。二つ目は、今まで痛みで無意識的に制限してきた可動域を広げることで、脳のプログラムが「その範囲まで広げてOK」という神経学的信号が記憶化されるということ。

特に二つ目の脳をプログラム化するということが重要なポイントだと私は考えています。通常、6ヶ月も腰痛を抱えている患者は、動きによる痛みの経験学習によって可動域が狭くなるのと同時に、腰の可動によって痛みが生じるという神経回路が構築されていると考えられます。この「関節可動→痛み」という神経回路を書き換えるには、徐々に腰の可動域を広げて、一定の可動域でも痛み信号が発生しない神経回路を構築させなくてはなりません。

マッケンジー法では痛みが生じる方向とは逆の方向に腰を伸展させるわけですが、恐らく相反する拮抗筋を伸長させることで、逆方向の筋群も伸長されているかのような錯覚を脳で生じるのではないかと思われ、痛みのない方向で可動域が広がった分、痛みのある方向でも関節可動域が広がり、痛み信号が出にくくなるのではないかと考えられます。

今回のHNKの「ためしてガッテン」でも強調されていた「寝返りをうつ人のほうが腰痛は少ない」という点においても、寝ている間に体を自由に動かしているということ自体、脳では様々な動きに対してOKサインのプログラムがあるということです。逆にいうと関節の動きを制限すればするほど、関節痛になりやすくなりますので、最新の研究成果でも提唱されているように、腰痛の際はできるだけ安静にしないほうが良い、あるいはコルセットはしないほうが良いということです。つまり、「関節の健康」を保つためには、関節の動きは制限してはならないのです。

腰痛に限らず、関節痛で来院された患者さんのほとんどが、施術後に関節の可動域が広がるので、「関節の動きを制限せずにできるだけ自然に動かしてください」とアドバイスをしています。今回の「ためしてガッテン」では寝方や枕に関しての情報も提示されていました。簡単に言えば、寝返りが自由にできる枕や体勢が腰痛予防によいというこです。

この寝方に関して、臨床現場で腰痛や頚部痛の患者さんからアドバイスを求められる事がよくあります。このようなアドバイスを求める多くの患者さんは、「寝方や枕が悪いから朝起きたら腰が痛い、あるいは首が痛い」と思っているふしがあるようです。私は、「寝ている間は無意識のうちに、体が勝手に動いて調整しようとしたりするので、まっすぐ寝る、姿勢良く寝るなどと決めない方がいいですよ」とアドバイスしています。

この手法を開発した先生の目の付け所は素晴らしいと思いますが、「なぜ、この手法で腰痛が改善するのか?」の本質的な理由は、やはり脳のプログラムにあると私は読み取りました。「ストレッチ」自体にも効果があると思われますが、「寝ている間に、心地よい体勢に自由に変え、自分自身の関節の可動性に自信を持つことが大切なポイントだと感じました。

寝ている間に、無意識に体を自由に動かせる状態、解放された状態を保つことの結果として、自然に体に柔軟性をつけ、筋肉の血流もよくなり、痛みも生じなくなるのだと思います。また、ストレッチ自体の効果よりも、「寝る前に体を動かしますよ」という「暗示効果」や寝ている間に寝返りをうった方が良いというデータに基づく暗示効果のほうがむしろ影響が強いのではないかと予測されます。

逆にいうと寝る前にストレッチをしていても、「寝ている間に体を動かすのは良くない」という負の暗示にかかると、おそらく腰痛になりやすいでしょう。別の言い方をすると、ストレッチでなくても、寝る前に寝返りの練習をしてもいい訳です。

ストレッチに効果がないということを言っているのではありません。脳科学的にいうと、関節を動かし、筋肉を伸ばすことで、脳はその動きを肯定的に受け入れます。つまり、その動きでも痛くないですよ、心地よいですよという感覚を学習していく性質(脳の可塑性)がありますので、脳はその動きを受け入れて、筋肉や関節に柔軟性をつけてくれます。

ただし、腰痛を生じさせる脳のプログラムは、部分的にストレッチをしたからと治るほど単純ではないようです。今回の研究も成果の裏には、「暗示効果」がかなり影響していると私は感じています。

まずは、
1.        通常は動かすと痛みが生じる腰痛を、体を動かしても大丈夫という安心感を与える暗示。
2.        治してもらうというよりも主体的に治そうとする自己暗示。
3.        東大病院という権威あるところでなされた研究という信用の暗示。

今回紹介された、「朝起きた時に腰痛がある場合は、寝ている状態に問題がある」という指摘は、私が10年以上も前から言っていることと類似しています。私は寝返りが少ないということでなく、「寝ている間に無意識に緊張をしている」と言っていました。今回の研究成果を踏まえて言えば、自然に寝返りができなくなる「異常緊張の原因」が隠れているということが言えるかもしれません。PCRTでは朝起きてからの腰痛や「寝違え」と言われる頚部痛の患者さんのほとんどが、寝ている間の「異常緊張」を疑います。

その場合、寝ている状態を体感イメージしてもらうと、「誤作動記憶」の陽性反応が示されます。そこから紐解いて、誤作動記憶を調整するとほとんどの患者さんは改善されています。しかしながら、今回の研究は、暗示効果も含めて、慢性腰痛を抱えている人にとっては朗報だと思いますし、自力で慢性腰痛を改善したい人は、ぜひ、HNKで紹介されているストレッチや枕を試してみてほしいと思います。

「ためしてガッテン」の番組のHPは、以下のアドレスで紹介されています。



2016年10月24日月曜日

イップスの改善報告をいただいて・・・

イップスの改善報告をいただいて・・・

先日、イップスで来院されている中学生男子のお父様から2回に渡ってメールをいただきました。

『お世話になります 先週日曜日 突然先発を告げられどうなることやらと思っていましたが優勝候補相手に見事完投できました。3点差で負けはしましたが 本人は相当な自信になったと思います。マウンド上でふてぶてしく振舞い大変頼もしく感じました。うるさい監督の説教も受け流すようになりました。イップスの症状が出てかえって成長することができたんじゃないかと思います。ありがとうございます! また症状が出たらお伺いいたします。』

『今日も1イニングでしたが3者三振におさえたそうです。特に努力はしていませんが腕が振れてスピードがかなり出て自分でもびっくりしたそうです。2か月前ではとても考えられないことです。キャッチボールさえできなかった息子を見て自分の経験と重ね合わせ、まるで地獄絵図を見ているようでした。もう終わりだと思いました。イップスは治るということをもやもや悩んでいる保護者や当事者にもっともっと知ってほしいですね。』

イップスが改善された結果は喜ばしい事ですが、お父様にいただいた「イップスの症状が出てかえって成長することができたんじゃないかと思います。」というコメントもとても嬉しく思いました。イップスが改善できたということは意識と無意識、すなわち心と身体のつながりが深まったということでもあります。昔から「心身統一」の大切さが問われていますが、若い時から心と身体のつながり、無意識の自分自身との繋がりを経験されたことは、大きな成長だと思いますし、危機的なピンチを乗り越えた経験は今後の人生にも役立つのではないかと察します。

このような理想的な結果は、来院当初から献身的なサポートしてくれたお父様のお陰だとつくづく感じます。また、初めての治療体験にも関わらず、私たちが意図している治療目的や考え方を理解していただき、この治療法で「イップスは治る」という信頼を寄せていただいたことが良い結果へと結びついたのだと思います。


今後もさらに、「イップスは治るのが普通」ということを多くの人に広めていきたいと思います。

2016年10月21日金曜日

お陰様でANJが15周年を迎えることができました。

早いもので、振り返ると早くも15年の歳月が経過していました。米国で多くのDC達が使用しているアクティベータ・メソッドを日本でも質の高いレベルで広めていきたいという思いから、AMI社との提携で本格的に米国と同等のプログラムをスタートしたのは20016月でした。当初、RMIT大学日本校にて、AMI社公認の卒後教育プログラムとしてスタートしました。

そのAMI社公認セミナーが始まる5年ほど前の1996年に、アクティベータ・ベイシック・マニュアルの日本語版(保井志之DC訳)が科学新聞社より出版されており、それを機に数年間、アクティベータセミナーを国内で開催しておりました。当時、国際基準でのカイロプラクティック法制化の機運が高まっていまっておりました。その影響も受けて日本国内のAMセミナーを一時中断して、2001年から国際基準に限定して、AMI社公認の国際基準セミナーを開催したという経緯がありました。そのような経緯も含めると私自身のAMセミナー活動は20年になります。


私が最初に米国AMI社のインストラクターセミナーに最初に招待されたのは19977月でした。当時、AMI社は35周年を迎え、AMCTのテキストの初版が出版された年でもありました。そこから、日本語版の翻訳計画を立て、複数のDCの先生方のご協力をいただき、2000年に国内で日本語版が出版されました。


2004年には、日本国内で正規にAMのプログラムが始まって以来、日本で初めてDr. Fuhrの来日セミナーが開催されました。また、全アジア空手道選手権大会、静岡県や埼玉県で開催された国民体育大会、夢の島マラソンなどのボランティア活動、ハワイセミナーの参加、ANJ主催のAMシンポジウムの開催などAMを通じて様々な活動をANJスタッフはじめ、AMセミナーを受講されている先生方と共に活動してまいりました。


2006年、日本におけるAMセミナーは、大きな転換期を迎えました。受講資格を国際基準だけでなく、国内の医療有資格者などに拡大し、AM国内認定制度をスタートしました。当時のANJに関わっていただいたスタッフと議論を重ねた結果の判断でしたが、患者の利益を最優先させるという方向性は、優秀なAMプラクティショナー(治療者)を生み出す結果となっています。


2008年度からは、大阪でのセミナーもスタートして、湯布院でのセミナー、第2回目となるハワイセミナー、2011年には福岡でのセミナーも開催され、AMテキスト第二版がANJスタッフの協力で出版されました。 2013年には、アクティベータ5が販売され、Dr. FuhrDr. RobertDr. DeVetaが来日され盛大に国際セミナーが開催されました。

15年を振り返りますと、だんだんとセミナーの質も高まり、それに伴って受講されている先生方のレベルも高くなっていることを肌で感じています。それは、ANJに協力していただいているインスタラクターのレベルアップにも関係しますし、67回にも及ぶセミナー活動の経験を生かして、セミナーの質を改善し続けた結果でもあります。このようなセミナーの質の向上に伴って、それぞれの先生方の施術を受けている多くの患者さんにもその恩恵がもたらされていると確信しています。私たちはこのような成果に甘んじることなく、多くの協力者に感謝しながら、さらに高みを目指してANJスタッフと共に精進してまいりたいと考えています。





明治の文豪、幸田露伴が自著『努力論』で主張したもので、望ましい未来作るには、「惜福」「分福」「植福」が必要だと説かれています。

私たち治療者に照らし合わせると、以下のようになるのかもしれません。

  • 惜福:目の前の患者さんと共に「喜び」を作り、思い上がらず、さらなる向上のために自分に投資する。
  • 分福:治療者同士でその福を分かち合い、切磋拓磨しながら、「喜び」の福を分け合う。
  • 植福:「喜び」の福が後世に永続できるように「種」を蒔き続ける。


古くから伝わる言葉で、

  • どんな事でも10年続けることは偉大なり。
  • 20年続けば恐るべし。
  • 30年にして歴史になる。


と言われています。


来年は、AMI社50周年を迎えます。常に時代の流れに合わせながら、業界の先頭を走り続けているDr. Fuhrをお手本にしながら、今後もANJは継続を力に変えて、次のステージへと邁進してまいります。