2016年11月16日水曜日

全日本バトミントン大会で健闘!

当院に通院してくださっている方が、全日本シニアバトミントン選手権大会の50歳以上シングルスで見事3位入賞されました。賞状とメダルをわざわざ持参していただき、記念写真を撮らせていただきました。

当日は、シングルスの試合以外にもダブルスの試合にも参加されており、かなりの試合数を対戦されており、過酷な状況がうかがえました。それでも、関節を痛める事なく、無事に終えたことは何よりでした。日頃の練習成果が発揮されたのだと思います。


今後の活躍を期待しています!


2016年11月15日火曜日

「技術論」が「イップス」を招く背景

イップスに陥る一つの原因として、「技術論」に頼り過ぎてしまうという場合があります。しかし、最近ではイップスを改善するために「技術論」で治そうと説明している情報をネットで目にすることがあります。また、指導者が細かな技術指導をすることで、イップスの原因の一つになることもあります。理屈で「これが正しいやり方だ」という「技術論」は、時代とともに変化し、特に個人によって様々です。例えば野球の投球で技術を優先して投げようとすると、神経系の命令が身体の一部分にかたより、全体としての筋肉の調和が乱れコントロールが悪くなったり、自分自身への判断や評価のための意識が入りすぎて、心と身体の不調和を生じさせたりましす。

「技術論」の指導を受ける場合、特に一流選手のフォームや経験者が自分の体験を参考に指導する場合が多いのではないでしょうか。その指導は、一流選手や自分の経験に基づく成功体験という意味では「理」にかなっているかのように思えます。しかしながら、その技法の教えを受ける本人にとって、その技法が合っているかどうか、あるいは、本人の身体能力にあっているかどうかは別問題です。あくまでも、一流選手自身が「こうしたら、いい感じだった」という体験に過ぎないのです。

野球に限らず、あらゆるスポーツの源流をたどると、最初から「技術論」があったわけではありません。まずは「目的論」が先にあったはずです。例えば、野球で言えば、「バッターに打たれないための投球法」が第一の目的で、そのためには「早く投げるための投球法」、アウトコースやインコースギリギリなど「自由自在にコントロールできる投球法」が第二、第三の目的になるでしょう。極端な言い方をすれば、それらの目的がかなえば、どんな投げ方でもいいわけです。

おそらく、野球が始まった源流では、それらの「目的論」に応じた投げ方があり、自分に合った投げ方を自分なりに工夫して投げていると、「こんな感じで投げたらいい」とある共通した投げ方になってきたという経緯はあるでしょう。しかし、人の顔や体型がそれぞれに異なるように、厳密には投手によって投げ方がそれぞれに異なります。なのに「技術論」がいかにも大切かのように語られる風潮があるようで、それに伴ってイップスに悩まされる選手も増えてきているかのように感じます。

「技術論」がよくないといっているのではなく、自分に合った技術を自分なりの経験で紡ぎ出していくことが大切だということです。「目的」のない「技術」は役に立たないどころか、弊害になるといえるでしょう。例えば、早く投げるためにはどのようすれば良いか?それは、自分なりに実際に投げてみて投げ方を色々試さないと見つけられないでしょう。何のために投げているかの目的を明確にして、その一点に集中すれば、身体は自ずと理想の投球フォームを創ってくれるという「自然習得」の能力を促進させることに目を向けること、並びに自分自身の身体能力に信頼を寄せることが大切でしょう。

「自然習得法」の主な原動力になるのは、頭で考える「意識」ではなく、身体を自動的に動かす「無意識」にあります。多くの人は、「意識」で体をすべてコントロールしているかのように考える傾向がありますが、それは、ほんの一部分であり、身体のコントロールのほとんどが「無意識」によってなされています。よって、「意識」、すなわち「理屈」でコントロールすればするほど、身体全体の機能は不調和になり、コントロール不能になるわけです。

例えば、指の第二指の第一関節、第二関節、第三関節をボールが握れる角度に曲げるように「意識」で指示するとすぐにできます。次に第一指から第五指まで、それぞれにボールが握れる角度に曲げるように「意識」で指示すると、ぎこちなく感じるでしょう。それよりもボールを手でキャチするという「目的」の全体動作を「意識」すると、指の角度を意識しなくても、自動的に「無意識」にボールを握れる角度に自然になっているはずです。

このように身体の動作のほとんどが「無意識」にコントロールされているという原則に従うことが必要で、「意識」でコントロールしようとすればするほど、ぎこちなくなりイップスのような症状を引き起こしやすくなるのです。イップスにならないため、あるいは克服するために、まずは、意識的に「目的」に集中し、後の身体の動きは「無意識」にまかせるという「自然習得型」を体得していくことが大切です。

私たちはもっともらしい技術の理論や概念を信じやすく、もしも、その技術理論でうまくプレーができると、それは、技術理論のお陰だとなり、技術論の信者となります。そして、もしも、うまくできなければ、その理論通りに行っていない自分が悪いのだからと、自分を責めて悪循環に陥る傾向があります。しかし、全てに効果がある万能な技術理論というものはなく、自分が体験的に自然に習得した技術が自分にとってはベストであるということだと思います。

技術や理論をどう活用するかを考える前に、原則的には「体験」が「技術理論」を上回るという事実を認識することがとても大切です。人には生まれつき、「自然に習得する」という能力が備わっているということを信じてほしいし、それを最大限に活かしてほしいと思います。


2016年11月8日火曜日

寝返りで腰痛解消!

先日、ストレッチで腰痛が改善するという内容の番組がNHKの「ためしてガッテン」で放映されていました。途中から見たので、後でホームページを調べてみると「腰痛患者の8割が改善する最新メソッド」という題で、腰痛解消のための4つのストレッチと快眠枕の作り方が紹介されていました。

理学療法士の先生が発案されたとのことで、東京大学病院で研究が行われ、8割もの腰痛患者に効果が期待できるとのことです。その先生は、腰痛の患者が朝起きた時に痛みを生じているというところに目をつけて、寝ている間の状態を調べたところ、腰痛患者は寝返りが少ない事がわかったといいます。

寝返りがスムーズにできるように、寝る前のストレッチと寝返りがしやすい枕に変えたら、腰痛患者が改善したという事です。この手法を開発した先生の目の付け所が、従来の固定観念にとらわれずに柔軟な発想だと感じました。また、それを研究成果として大学との連携で論文として発表されたところが素晴らしいと感じました。

2016年61日に公開されている研究論文では、マッケンジー法という理学療法で使われている指標や治療法も取り入れられていました。マッケンジー法だけの治療群と、ストレッチだけの治療群、それとマッケンジー法とストレッチを組み合わせた治療群で治療効果を比較し、3群とも疼痛、身体機能、精神機能のすべてで有効性が認められ、3つの群を効果のある順に並べると①マッケンジー法とストレッチを組み合わせた治療群、②ストレッチだけの治療群、③マッケンジー法だけ治療群という結果が得られたとのことです。これら3群の患者は治療法以外に姿勢指導や腰痛教育も受けていました。

研究論文では、下肢症状の有無を問わず6ヶ月以上持続する非特異的腰痛患者を対象として、罹病期間6ヶ月未満や脊椎手術後1年以内、麻痺、腫瘍、感染、骨折、骨粗鬆症、妊娠、精神科・心療内科通院、賠償との関連がある症例など腰痛を長引かせる心理社会的要因が疑われる患者などは除外されていました。

私たち勉強仲間の間では、腰痛患者の8割が改善するということ自体に対してさほど驚くべきことではないし、機能的な神経バランス異常やそれに伴う筋肉のバランス異常を調整すれば改善するのが当たり前なのですが、中には心理社会的要因が疑われる患者には、単に機能面だけのアプローチでは改善がし難い患者もいます。そのような幅広い腰痛対象者がある中で、今回の研究デザインの構成としては、機能的に治療すれば比較的治りやすい機能異常の腰痛患者だけを対象にしているように感じました。

私も長い臨床経験で、腰痛体操やストレッチ、マッケンジー法なども取り入れて、効果のある手法は色々と試してきた経験があります。そのような経験の過程で、常に興味を持つのは「なぜ、効果があるのか?」です。今回の研究成果の効果を紐解くと、ポイントは大きく分けると二つあると思います。一つ目は物理的に筋肉や靭帯などの軟部組織を自力でストレッチさせることで、柔軟性や血流が高まるということ。二つ目は、今まで痛みで無意識的に制限してきた可動域を広げることで、脳のプログラムが「その範囲まで広げてOK」という神経学的信号が記憶化されるということ。

特に二つ目の脳をプログラム化するということが重要なポイントだと私は考えています。通常、6ヶ月も腰痛を抱えている患者は、動きによる痛みの経験学習によって可動域が狭くなるのと同時に、腰の可動によって痛みが生じるという神経回路が構築されていると考えられます。この「関節可動→痛み」という神経回路を書き換えるには、徐々に腰の可動域を広げて、一定の可動域でも痛み信号が発生しない神経回路を構築させなくてはなりません。

マッケンジー法では痛みが生じる方向とは逆の方向に腰を伸展させるわけですが、恐らく相反する拮抗筋を伸長させることで、逆方向の筋群も伸長されているかのような錯覚を脳で生じるのではないかと思われ、痛みのない方向で可動域が広がった分、痛みのある方向でも関節可動域が広がり、痛み信号が出にくくなるのではないかと考えられます。

今回のHNKの「ためしてガッテン」でも強調されていた「寝返りをうつ人のほうが腰痛は少ない」という点においても、寝ている間に体を自由に動かしているということ自体、脳では様々な動きに対してOKサインのプログラムがあるということです。逆にいうと関節の動きを制限すればするほど、関節痛になりやすくなりますので、最新の研究成果でも提唱されているように、腰痛の際はできるだけ安静にしないほうが良い、あるいはコルセットはしないほうが良いということです。つまり、「関節の健康」を保つためには、関節の動きは制限してはならないのです。

腰痛に限らず、関節痛で来院された患者さんのほとんどが、施術後に関節の可動域が広がるので、「関節の動きを制限せずにできるだけ自然に動かしてください」とアドバイスをしています。今回の「ためしてガッテン」では寝方や枕に関しての情報も提示されていました。簡単に言えば、寝返りが自由にできる枕や体勢が腰痛予防によいというこです。

この寝方に関して、臨床現場で腰痛や頚部痛の患者さんからアドバイスを求められる事がよくあります。このようなアドバイスを求める多くの患者さんは、「寝方や枕が悪いから朝起きたら腰が痛い、あるいは首が痛い」と思っているふしがあるようです。私は、「寝ている間は無意識のうちに、体が勝手に動いて調整しようとしたりするので、まっすぐ寝る、姿勢良く寝るなどと決めない方がいいですよ」とアドバイスしています。

この手法を開発した先生の目の付け所は素晴らしいと思いますが、「なぜ、この手法で腰痛が改善するのか?」の本質的な理由は、やはり脳のプログラムにあると私は読み取りました。「ストレッチ」自体にも効果があると思われますが、「寝ている間に、心地よい体勢に自由に変え、自分自身の関節の可動性に自信を持つことが大切なポイントだと感じました。

寝ている間に、無意識に体を自由に動かせる状態、解放された状態を保つことの結果として、自然に体に柔軟性をつけ、筋肉の血流もよくなり、痛みも生じなくなるのだと思います。また、ストレッチ自体の効果よりも、「寝る前に体を動かしますよ」という「暗示効果」や寝ている間に寝返りをうった方が良いというデータに基づく暗示効果のほうがむしろ影響が強いのではないかと予測されます。

逆にいうと寝る前にストレッチをしていても、「寝ている間に体を動かすのは良くない」という負の暗示にかかると、おそらく腰痛になりやすいでしょう。別の言い方をすると、ストレッチでなくても、寝る前に寝返りの練習をしてもいい訳です。

ストレッチに効果がないということを言っているのではありません。脳科学的にいうと、関節を動かし、筋肉を伸ばすことで、脳はその動きを肯定的に受け入れます。つまり、その動きでも痛くないですよ、心地よいですよという感覚を学習していく性質(脳の可塑性)がありますので、脳はその動きを受け入れて、筋肉や関節に柔軟性をつけてくれます。

ただし、腰痛を生じさせる脳のプログラムは、部分的にストレッチをしたからと治るほど単純ではないようです。今回の研究も成果の裏には、「暗示効果」がかなり影響していると私は感じています。

まずは、
1.        通常は動かすと痛みが生じる腰痛を、体を動かしても大丈夫という安心感を与える暗示。
2.        治してもらうというよりも主体的に治そうとする自己暗示。
3.        東大病院という権威あるところでなされた研究という信用の暗示。

今回紹介された、「朝起きた時に腰痛がある場合は、寝ている状態に問題がある」という指摘は、私が10年以上も前から言っていることと類似しています。私は寝返りが少ないということでなく、「寝ている間に無意識に緊張をしている」と言っていました。今回の研究成果を踏まえて言えば、自然に寝返りができなくなる「異常緊張の原因」が隠れているということが言えるかもしれません。PCRTでは朝起きてからの腰痛や「寝違え」と言われる頚部痛の患者さんのほとんどが、寝ている間の「異常緊張」を疑います。

その場合、寝ている状態を体感イメージしてもらうと、「誤作動記憶」の陽性反応が示されます。そこから紐解いて、誤作動記憶を調整するとほとんどの患者さんは改善されています。しかしながら、今回の研究は、暗示効果も含めて、慢性腰痛を抱えている人にとっては朗報だと思いますし、自力で慢性腰痛を改善したい人は、ぜひ、HNKで紹介されているストレッチや枕を試してみてほしいと思います。

「ためしてガッテン」の番組のHPは、以下のアドレスで紹介されています。