2017年5月9日火曜日

痛みの「記憶」で痛みが再現する患者さん シリーズ2

痛みの「記憶」で痛みが再現する患者さん シリーズ2

一週間後、2回目の施術に来院。

【問診】
術者「どうでしたか?」
「え〜まだ痛いですけど、いただいた資料を読んで、前回言われたことがわかるような気がします(笑)」
術者:「そうですか?それは良かった・・・」「今日も座って施術をした方がいいですか?」
患者:「いいえ、今日は大丈夫だと思います・・」
術者:「そうですか・・・それではベッドをゆっくり倒していきましょう。(内心、イタタターと、前回のように言われるのではないかと不安を感じながら・・・)
「大丈夫そうですね・・・」
患者:「はい、大丈夫ですね」
術者:前回「痛い時と痛くない時あるという話をしたと思いますが、改めてどんな時に痛みが強くなりますか」
この時、術者は患者の足元で、患者と会話をしながらPRT(生体反応検査法)を行う。
患者:「何もすることがない時(目的がない時)に痛いですね。さっきもこちらに来る時、バスの運転手さんと話しているときは何も痛くなかったですからね・・・」
術者:「なるほど・・」「では、何もすることがない時の記憶で身体が過敏反応を示しているようですので、そのときの記憶(目的がない時)を思い出してもらい施術をさせてもらいます。」
PCRT呼吸振動法を施す。
術者:「ほかにどん時に痛みを感じていますか」
患者:「そうですね。お稽古の時は痛くないのですよね・・・」
術者:「その話をしている時に検査(PRT)してみると、身体が反応していますね・・・」
患者:「そうですか?・・・同好会の役員をしているので、もしかするとそのことがストレスになっているかもしれませんね・・・」
術者:「同好会の役員の話をされている時は、身体が反応していませんね。そのときも同じようにお稽古されるのですか?」「先ほどのお稽古とどう違うのでしょうか?」
患者:「先ほどのお稽古(陽性反応)は、師匠に習うお稽古で、同好会のお稽古(陰性反応)は、習うというより、好きな人が集まって自分たちで行うお稽古です・・」
術者:「なるほど、それでは、師匠から習うお稽古でなぜ、身体が過敏反応を示しているのか調べてみましょうか・・・」
PCRT誤作動記憶チャートで検査
術者:「『自尊心』というキーワードで陽性反応が示されましたね。何かのプライドに関係することですが、何か思い当たることはありますか・・・」
患者:「・・・そうですね。お稽古はもう70年以上もやっていますから、そういう意味では他の人と比べて、経験者であるという自負はあると思います・・・また、周りからもそのような目でみられていますから・・・」
術者:なるほど、そのことで身体も反応を示しているようですので、その誤作動の記憶を思ってもらいながら調整しましょう。
PCRT呼吸振動法を施す。
その後のアクティベータ療法に切り替えて施術を始める。施術を終える途中から、
患者:「あ〜だんだんと痛みが楽になってきた。」
術者:「それは、良かった。普通、多くの患者さんで、治療するとすぐに痛みが消えたり軽減したりするので、このように、痛みが改善されるということをしっかりと覚えておいていください。そして、自分の身体が、このような治療で治るのだということを信じてもらえるといいですね・・・」

【考察】
本症例は2回目の施術を終えて、まだ途中経過だが、この調子で施術を継続してもらえると改善方向にむかうことが予測できる。通常は、アクティベータ療法から先に行なって、PCRTへと進むケースが多いが、本症例は、患者の痛みの記憶が強く、通常の施術ができる状態ではなかったので、PCRTを様々な角度から応用して、通常の施術で施術効果を感じていただいた。おそらく、次回からは通常通り、アクティベータ療法でハード面の調整を行い、PCRTのソフト面調整法へと進めていけるだろう。
初回で、「・・・痛くなってもらえますか?」という質問をして、拍子抜けした様子だったが、ユーモラスな会話も交えながら、患者さんの痛みに寄り添うことができたように感じられた。初回の検査や説明で、通常の時間をオーバーしてしまい、後の予約の患者さんたちにご迷惑をお掛けして申し訳なかったが、改めて、患者さんの痛みをしっかりと理解して問診し、わかりやすく説明することの大切さを感じさせられた。
特に病院で脊柱管狭窄症と診断されたということを気にされていた際に「レントゲン写真だけで痛みの原因が判断できるのですか?」という質問もした。すると患者さんは、「はっ・・」と何かを気づかれた様子で、そのことで不安が変わったと2回目の施術の際にもその時の「気づき」について話されていた。患者さんに「レントゲン写真は瞬間的撮影された骨格の写真なので、痛みを表している訳ではありません」と教えるというよりも、「気づき」を与えるコーチング的質問で患者さん自らが気づいていただく方が大切だと改めて振り返ることができた。
通常の病院とは異なり、我々のような施術者に対して、患者さんは様々な期待を抱く。時には、魔法のように瞬時に痛みをとってくれる人だと期待されている人もいるかもしれない。私たちはそのような幅広い期待をしっかりと管理し、そこに齟齬が生じないように努めなければならない。「何ができて何ができないのか」をわかりやすく説明して、「それぞれの患者さんのためにできることは何か」を常に考えながら臨機応変に対応することが大切だろう。


2017年5月8日月曜日

痛みの「記憶」で痛みが再現する患者さん シリーズ1

「記憶」で痛みが再現する患者さん シリーズ1

90歳、女性、趣味で能の舞台にでていて、長年お稽古をされているとのこと。今は痛みのために休んでいる。痛みは七週間前に発症。発症から三週間後に病院を受診。腰部脊柱管狭窄症ではないかということで、痛み止めの薬を処方される。当院を利用していただい方から紹介される。20年ほど前には右膝の手術で入院された経験があり、それ以来、カートを引いて歩いているとのこと。バスに乗っていて、突然痛くなり、思い当たる原因はわからないという。痛みは常に有り、軽減するときはない。症状の経過はだんだんと悪くなってきているとのこと。

早く痛みから解放されたいという思いは伝わってくるが、その手助けをさせてもらう施術者にとって、本当の原因はどこにあるのかを患者さんとともに考えていく必要がある。問診でのやり取りの中で、腰部脊柱管狭窄症の診断は、レントゲン検査だけなので、まだ確定している訳ではなく、MRIなどの検査もした方が良いと言われたらしい。患者さんが「腰部脊柱管狭窄症でなければいいのだけれども・・」と繰り返し訴えるのが気にかかった。

施術テーブルに横になってもらい、常に痛いと訴える痛みの状態を聞いてみると、今はそんなに痛くないという。最も痛い状態が10としたら4ぐらいだという。左股関節の可動域を検査しながら、どんな時に痛みが強くなるのですかと痛みの状態を具体的に尋ねてみると、「・・・アイタタタタ・・・」と急に痛みが強くなった様子。この痛みは通常の性質ではないと感じ、椅子に座ってもらうことを提案。患者さんは我慢できるといわれたが施術テーブルを起こして、椅子に座ってもらった。「痛みが強くなる時は、いつもこんな感じですか・・・」と尋ねると、「そうです・・・」という。では、「どんなときに痛みが軽減するのですか?」と尋ねると、「何か楽しいことをしているときには痛みを忘れている」という。「例えば・・・・のときです。」、患者さんが話をされている途中から「あら、いま痛くなくなった」という。

痛くなくなるときのことを患者さんがしばらく話され、私が「この痛みは患部(痛みの部位)から痛み信号がでるのではなく、脳で痛みを感じている可能性がありますね。もしも、身体の構造的な異常が原因であれば、痛くない時を意識しただけでは痛みが軽減しないですよね・・・」と話すと、患者さんも半信半疑ながらもそのことを理解された様子。それでは、「もう一度、痛みの部位を意識して痛くなってもらえますか?・・・」と痛みの根源を探るためにあえて質問した。すると、「え〜、ちょっと難しいですね(笑)・・・」と言いながらも、「・・・あ、また、痛くなった・・・」と顔をしかめた。

「身体を動かしていないのに痛みがでたり、軽減したりするのは、身体の構造の問題ではないということをある程度理解していただいたでしょうか・・・」と尋ねると、患者さんはしきりに「腰部脊柱管狭窄症でなければいいのだけれども・・」と心配そうにいう。病院の診断に執われているのだと感じ、「高齢であれば、だんだんと骨が変形して、病院で脊柱管狭窄症と診断される人も多いのですが、その骨の変形と痛みとが無関係であることがたくさんの研究で分かっているから心配ないですよ・・」などと、できるだけわかりやすく説明すると、ようやく納得された様子だった。

このようなストーリーを聞くと、意識を変えれば治るのではないかと思われがちだが、そんな単純なことではない。いわゆる「暗示」も関係している可能性もある訳だが「痛いの痛いの飛んでいけ!」とおまじないのように意識を変えるだけでこの痛みが消える訳ではない。この痛みの発生の仕方から明らかなのは、痛みを引き起こすプログラム(神経回路)が脳に記憶されていて、何らかの条件付けで痛み信号が発生するということである。そして、この痛みを引き起こすプログラムには、無意識的な心理面が条件付けされているということ。このようなプログラムをPCRTでは「誤作動記憶」として施術を行う。

どのような条件付けが背後にあるのかを検査するためには、患者さんがその意図を理解し信頼してくださるかが大きなカギとなるだろう。まずは、通常の医療とは異なる「脳の記憶を上書きする治療法」の考え方を理解してもらうことが必要である。患者さんにどの程度理解してもらえるかは定かではないが、今回初めての施術で、痛みの原因の一つが、脳の「記憶」によって引き出されているということは理解していただいた様子だった。


(次号に続く)

2017年5月2日火曜日

不易流行の治療法(PCRT)

不易流行の治療法(PCRT)

昔から「不易流行」という言葉は、企業を守っていく上で大切にされていた言葉です。ある書籍によると100年以上続く老舗企業の割合は、3.5%だそうで、企業を100年間継続していくというのは難しいようです。そのような100年存続している老舗企業の563%が、創業時から主力の事業を変更し商品・サービスに関しては70%以上が変更しています。変化している企業が存続の確率が高いわけです。

要するに「生き残り続けた企業」は、「変わり続けた企業」というわけです。これは進化論で有名なダーウィンが言い残したとされる「強い者が生き残ったわけではない。賢い者が生き残ったわけでもない。変化に対応した者が生き残ったのだ」ということにも通じるようです。では生き残った企業は何を変えたのでしょうか?商品やサービス、組織運営の仕方や戦略・戦術などでしょう。

そして、変えなかったものは何だったのでしょうか?それは企業の社是や企業理念、企業のあり方などでしょう。つまり、「何のために商売を始めたのか?」という大切なところは変えなかったということです。これは企業の規模などは関係なく、我々のような小さな治療院でもいえることです。「あなたは何のために治療院を始めたのですか?」という問いにしっかりとした答えが必要です。

PCRT研究は、「同じような病気でも治る人がいる一方で、なぜ、治らない人がいるのか」という本質を追求するというところから始まり、発足当初からの開催の趣旨は一貫しております。そして、その本質的な疑問を解決するために、現在では「心身相関と生体エネルギーブロック(EB)に焦点をあて、その関連学習記憶パターンによる誤作動記憶を調整する療法」として、研究を積み重ね続けております。

研究会の参加者の中から「毎年出席するたびに、手法が変わっている」という感想をいただくことがあります。このコメントには「方法論は変わらない」という前提(思い込み)が含まれています。確かにPCRTの方法論は研究が進むにつれて、毎年進化しています。しかしながら、本質は変わることなく、そこから派生した枝葉の方法論や伝え方が変化しているのです。

長く継続してその本質を理解していただいている先生は、臨床現場で患者さんにあわせて臨機応変に活用していただいているようです。しかしながら、単に方法論だけを学ぼうとしても、本質を踏まえた応用ができないために活用しきれないという話もお聞きしています。

臨床現場では「応用」の連続です。鍼灸の経絡の流れや神経学の神経学的経路を教科書通りに理解したからと言っても、それがそのまま臨床現場で活用できるわけではありません。その基礎知識をどのように活かすことができるかの応用力や臨床力が必要になります。

PCRTではそのような基礎力を踏まえた上での応用力を学びます。単に方法論を学ぶのではなく、自然療法の本質(不易)とそれを臨床現場で応用(流行)する力を取得していただければ、自然治癒力を引き出すことを目的とする治療者にとって、生涯の自信になると確信しております。

それでは次回の研究会でお会いできるのを楽しみにしております。