2018年6月20日水曜日

2018年度PCRT中級1案内

 7月8日と9日にPCRT中級1が開催されます。PCRTの基礎編を終えて、いよいよ中級1に入り、無意識の心理的要因への検査と調整法に入っていきます。前回の基礎2では大脳辺縁系領域の感情チャートの使い方をご紹介しましたが、今回は詳細感情チャート、基本的な価値観、信念のチャートの使い方をご紹介します。さらに大脳皮質系の意味記憶(意味付け・思い込み)、エピソード記憶の検査と調整法などをご紹介いたします。

ハード面調整法では経絡の調整法、井合穴経絡調整法、臓器反応点経絡調整法、空間ブロックの方向刺激調整、リニアレーザー光線空間調整法などをご紹介します。基礎編では空間ブロック調整法をご紹介しましたが、今回はさらに方向性を加えた刺激による調整法をご紹介します。今までの固定概念に変化を促すチャンスです。エネルギー的調整法を学んで治療者としての応用力を高めていきましょう。

また、前回の基礎2では小脳系機能障害の簡便な検査法をご紹介しましたが、今回は小脳の機能障害に影響を及ぼす大脳辺縁系の検査もご紹介します。この検査法は単に小脳関連だけの神経学的な機能障害なのか、それとも心理面が関係する大脳辺縁系関連の機能障害なのかを明確に検査することができます。しかも患者さんにもその関係性や影響を体感してもらいやすく、元の原因となるメンタル系調整も説明しやすくなります。

施術した後はある程度症状が改善するが、すぐにぶり返す患者さんや様々な治療法を受けたけれど改善されない患者さん、あるいは心因性ジストニアやイップスなどの患者さん達は、PCRTで深い検査を進めていくと、心の奥では心理面が関係していることを薄々感じている方がほとんどです。その本質の部分をいかに信頼関係を保ちながら患者さんに寄り添って引き出すことができるか?PCRTが熟練すればするほど、その本質に近づいていくはずです。

ある程度臨床経験があり、症状の原因を深く探求されている臨床家であればあるほど、繰り返す慢性症状は、ハウツー的な治療法では本質的な効果は期待できないということを感じられているのではないでしょうか?通常医療では改善されない多くの患者さんに通常医療の考え方(機械論的概念)で施術をしても、結果は期待できないでしょう。通常医療とは異なる生命論的概念で本質的な施術を追求していきましょう。皆様のご参加をお待ちしております。

2018年6月19日火曜日

深層心理に関係する痛み

60代男性。右膝関節痛と左大腿部と左下腿部の痛みを訴えて来院。症状は二週間ほどまえから始まり、整骨院を受診したが改善が見られないので整形外科を受診。神経痛とのことで、温熱療法、牽引療法、薬物療法を受ける。三ヶ月ほど前にはテニスの際に左膝に力が入らなくなり「ガクッ」となることがしばしばあったらしい。また、ふらつきを感じることもあったとのこと。

初診時における当院の機能検査では、小脳に関連する機能障害と大脳辺縁系に関連する深層心理の影響が見え隠れしており、心身相関による痛みの影響をどれだけ理解してくれるのかという課題を感じながら毎回の施術を行なっていた。4回目の施術では「だいぶんいい」とのコメントをいただいたが、検査では小脳の機能障害の反応が示されていたので、長年の経験から「まだ、何かある・・・」と気になっていた。その後、一週間後、そして一ヶ月後と施術の間隔が空いた後、用事で遠方にでかけてから症状が悪化されたとのことだった。

病院で検査を受けて、MRIによる画像診断で椎間板ヘルニアの診断は受けるが、それが直接的な痛みの原因ではないないことは納得されていたようだった。病院から処方されたロキソニンとリリカを服用されていたが、当院を紹介してくださった息子さんからは「薬ばかり飲んでも根本的には治らないから・・・・しっかりと通わないと・・」と促されたとのことで、ご本人もしっかりと通院することを決めた様子がうかがえた。

最初は息子さんの奨めで半信半疑で当院に通院されていたようだが、病院での診断なども含めて、構造的な問題ではない何かがあるのだと感じられたのだと思う。具体的な因果関係は分からないが、脳が痛みの信号を感じてしまう神経学的な誤作動による障害であることは、ご本人もなんとなく気づかれている様子だった。

そこから、神経の機能障害に関連するメンタル系の誤作動調整はかなり深いところまで関わることができた。それから6回ほどの施術で深層心理に関係している誤作動の記憶がかなり調整できた。それに伴って症状も改善され、ご本人も心理面との因果関係は納得されていた様子だった。強い痛みから解放されたことにとても喜んでいただいた。今まで毎回のように示されていた小脳の機能障害の検査反応も陰性化し、検査反応と自覚症状の改善がほぼ一致していた。

心理面が深く関わらない神経機能障害は比較的治りが早いが、心理面が深く関係している神経機能障害は、症状がぶり返すことが少なくはない。心理面が神経系に影響を及ぼすということは、至極当たり前のことではある。最近ではテレビ番組やインターネット情報でそのことがだんだんと一般的になりつつある。しかし、そのことが当たり前になることにブレーキをかけているのは、「身体の症状を心のせいにしたくない・・・」ということが根底にあり、1番のネックになっているように思う。

 さらに、心理面が身体に及ぼす影響が当たり前にならない理由には下記のことが挙げられる。

1.     身体に及ぼす心の影響は無意識的で自覚できない脳の誤作動であるということが知られていない。
2.     身体に及ぼす心の影響は、心の由来を知るだけ施術効果が高まることが知られていない。
3.     ある問題が心のストレスとして影響している場合、その問題が解決しないと症状が改善しないという誤解があること。
4.     心が関係しているのであれば、心を変えなくてはならないという誤解があること。

まずは、目の前の患者さんに合わせて「心と身体の関係性」を様々な切り口から伝えることが大切だろう。最近では「心の影響があるとういことは薄々感じていたが、施術による結果を得てやっぱりそうだったのか」と感じてくださる患者さんも増えてきているように感じる。心身相関による影響は、患者さんそれぞれに様々なので、わかりやすく伝える研究もさらに開拓して発展させていかなくてはならないと思う。


2018年5月26日土曜日

「思い込みから」生じる健康問題

「思い込みから」生じる健康問題

ある患者さんが、コンサートや社員旅行に行く予定があり、そのことで気分的にも体調的にも不安になっているという。前回のコンサートや社員旅行でも体調不良になったらしく、そのようなパターンを改善したいという。問診しながら、生体反応検査法(PRT)で原因を調べてみた。

治療者:「社員旅行では何が不安ですか?」
患者:「車の移動で自由に休憩できないとか・・・、トイレに行きたいと言えないとか・・・」
生体反応検査法=陽性反応

治療者:「もしも、休憩したいとか、トイレに行きたいと同僚の人にいったらどうなるのですか?」
患者「自己中の人に思われるかな?」
生体反応検査法=陽性反応

治療者:「本当にそのように思われるのですか?」
患者:「・・・・思われないですよね。笑顔」
治療者:「そうでしょうね・・そのように思われるという脳の錯覚ですね・・・いわゆる思い込みですね」
患者:「そうですね・・・笑顔」
生体反応検査法=陰性反応

これは施術中の一コマであるが、「思い込み」から生じていた脳の誤作動記憶を調整した。思い込み関連以外の誤作動の陽性反応も調整を行い施術前に検査した目安検査は全て消失し、機能評価もすべて改善した。施術後、原因となっていた思い込みが整理されたようで、安心してコンサートや社員旅行に行けそうな感じがするようなことを話されて喜んでいただいた。

心身条件反射療法で本質的な原因を追求していると、「思い込み」から生じる健康問題に遭遇することは珍しくはない。ただし、すべての患者さんにこのような本質的な施術ができるわけではない。患者さんとの信頼関係があるとう前提での施術になる。

何らかの「思い込み」で健康問題が生じている場合、ご本人は、その「思い込み」が原因になっているなんていうことは知る由もない。「普通・・・に考えるのは当たり前でしょ」という感覚である。例えば、画像診断で腰に椎間板ヘルニアなどの構造異常があると、「腰が痛いのが当たり前」と思い込んでしまう傾向がある。しかし、近年の世界的な研究では、椎間板ヘルニアなどの構造異常が存在しても腰痛を伴わない人が多いことが分かっている。それにも関わらず、画像診断による「構造異常=痛み」という思い込みは比較的多いようだ。

「思い込み」は、あたかも真実であるかのように語られる傾向があり、本人にとっては疑う余地はない。もしも、その「思い込み」を他者から否定されると、まるで自分が否定されているかのような錯覚に陥る傾向がある。その「思い込み」が身体的にも精神的にも不健康につながる可能性があり、健康的で合理的な説明を受け、理屈ではその思い込みが不健康だと分かっていてもその考え方に固執して抜け出せない場合もある。

「思い込み」というのはいわゆる信念である。それはマイナスに作用するばかりでではなく、プラスに作用する場合もある。未来に対する目標設定などの肯定的な思い込みは、前向きな原動力になってくれる場合が多い。多くのことを達成してきた偉大な人たちのほとんどは、「肯定的な思い込み」によって目標を達成している。そもそもプロジェクトが失敗するとか諦めるというような否定的な前提がない。そこにはプラスの思い込みしかないのである。

特に「否定的な思い込み」というのは、自分では思い込みだと思っていないから厄介である。多くの場合他者に指摘されるか、あるいは、心身条件反射療法のような心理的な要因を含んだ検査でないと気づかされないだろう。もしも、ご自身が否定的な考え方に固執している傾向があるのならば、「本当にそうなのか?」「本当にそう言い切れるのか?」と、自分が信じている考え方に疑いを投げかけてみる価値はある。案外、その考え方にはそう言い切れるという根拠がない場合が多い。すると、その否定的な思い込みから抜け出すきっかけが生まれる。

「否定的な思い込み」をするのか、「肯定的な思い込み」をするのかは自分次第。まずは、「思い込み」を変える選択権が自分にあるということを認識して、自分の健康、あるいは人生にとって健全な思い込みをしていく工夫をしていこう。

2018年5月17日木曜日

心身条件反射療法基礎2の研究会を終えて

今回の基礎2では、生体反応検査法の復習から筋膜系、筋肉系、前庭器官、小脳、脳神経、蝶形後頭底結合調整法、ならびに基礎感情チャートの導入法など多岐にわたった検査と調整法を学んだ。特に今回初めて紹介した小脳機能異常の簡易検査には興味をもって使っていただいた。既存の神経学的検査と連動しているので腑に落ちただろうし、ほとんどの先生が次の日からでも臨床で使っている様子が想像できる。

今回、研究会の場の雰囲気はとても良かった。二日間、会場に気持ちの良い空気がいつも漂っていた。恐らく私たち指導者も含めて、純粋に学ぼうという意識が高かったように思う。特に熟練者の先生方がリードして、初心者をフォーロしながら心地よく学習する雰囲気は清々しさを感じさせてくれた。解ったつもりにならずに、謙虚に、素直に学ぼうという姿勢は、他の受講者のお手本になったのではなかろうか?

心身条件反射療法では臨床に役立つ様々な調整法を指導させていただいているが、自然療法の本質が分かる治療家としての「治療哲学」を学ぶ場でもある。患者さんに役立つ施術の技術、技能を学ぶことも大切であるが、その背後にある治療哲学は、治療家としてのバックボーンになる。長年、研究会を継続させていただいているが、単にテクニックだけを追求する受講生は、何か治療家としの背骨が定まらない傾向がある。それは恐らく「治療哲学」というバックボーンの習得をおろそかにしているからではないだろうかと、ふと思ってしまう。

講師という立場で治療家の先生方を指導させていただいて思うことは、「素直さ」が何よりもその人を成長させるということだ。すでに多くの知識や技術、経験があったとしても、素直に学んでいる先生はさらなる成長が著しい。その一方で、自分はある程度できていると思い込んでいる人は、素直さに欠け成長が止まっている。本人はそのことに気づいていないが、会場でその人の臨床を見ていると荒さが伝わってくる。

最近、ある先生が、飲み会の席で、「最初はPCRTが何か怪しいテクニックに感じていたが、PCRTが解れば解るほど、本物(本質)に見えてきた・・・」と冗談のように吐露していた。実際に臨床ではPCRTをメインに使っているとのことで、患者さんもどんどん増えてきているとの報告をいただいた。素直に学んでいるからこそ成長し続けているのだと思う。

セミナーや研究会に限らず、臨床現場でも患者さんから素直に学ぶという姿勢はとても大切だと思う。素直になれないときは自分の成長が止まっているし、素直になれているときはどんどん成長し続けている。素直に学ぶということの大切さを忘れずに実践していきたい。

2018年5月8日火曜日

心因性斜視 本質的な原因療法


三十代女性が斜視の症状を訴えて来院。心因性斜視は子供に多く見られる症状で、当院でも施術を行っているが、大人で斜視を訴えて来院される方は珍しい。この患者さんは五ヶ月前にも斜視の症状で来院されており、2回の施術で一度完治した。今回は五ヶ月ぶりに再発したようだ。来院時には斜視の症状は診られないが、前回と同様に自宅でご主人と話している際に、「目の向きがおかしいよ・・・」と指摘されたという。

PRTで検査をすると、右斜め下と左斜め下の眼球の動きで陽性反応が示された。左右の眼球の動きでは陽性反応が示されないことから、上斜筋の機能低下が疑われる。神経学的には第IV脳神経の滑車神経の機能に問題がることが分かる。もしも、神経学的機能の側面だけを扱うのであれば、滑車神経を活性化させる刺激やリバビリを指示するかもしれない。滑車神経の機能が低下して斜視になっているのだから、その脳神経の機能を高めれば改善されるだろうというもっともらしい理屈になる。さらに専門用語を使って学術的に述べるとなるほどと思いがちになる。

しかしながら、その滑車神経の機能異常は結果であって原因ではない原因があるから機能異常が生じるのである。その機能異常は滑車神経の神経経路に沿った腫瘍などによる構造異常に関連があるかもしれない。その場合は西洋医学的な処置が必要になるだろう。もしも、構造的には問題がなく心因性であれば、どの程度その原因パターン(誤作動)が記憶化されているかによる。一時的な記憶であれば、機能異常を生じさせている神経系を活性化させることで早期に回復するだろう。もしくは何もしなくても自然に回復するかもしれない。しかしながら、心因性の誤作動記憶の神経回路がしっかり構築されていると、自然の回復は難しい場合がある。いずれにせよ、大元の原因療法が早期の回復につながることはいうまでもない。

機能評価チャートでは、筋骨格系のレベルが7、メンタル系のレベルが9で示される。PCRTのプロトコルに沿って検査を進めていくと、大脳辺縁系領域で、感情の「恐れ」に関係している事柄が二つあり、ご本人曰くこの二つの恐れは関連性があるという。3つ目に「利己心」の反応が示された。利己心というと一般的には自分勝手な・・・というイメージがあるかもしれないが、これは誰にでもある心の側面で、意味合いとしては幅が広い。この反応が示された際には「守ろうとしている何かがありませんか?」「恐らく大切にしようとしている心の面だと思いますが・・・」と質問させていただく。すると、大抵のクライアントさんは思いつくことが多い。

PCRTで調整後の機能評価ではメンタル系レベルが9から1、筋骨格系レベルは7から1まで改善した。原因となっていた心的内容は、以前と同じかどうか尋ねたところ、以前とは異なっていたという。一度、早期に改善しているので、今回も早期の改善が期待できると思う。心的因子が原因であれば、遠回りをせずにその原因に正面から対処する療法が早期の回復につながるだろう。けれども、身体的症状の原因が心理的側面にも関係性があるということに否定的な患者さんもいるので、そこに寄り添うのに工夫と忍耐が必要になる。

2018年5月5日土曜日

老犬の施術

15歳になる老犬(パピオン)が股関節部の強い痛みを訴えて来院。「犬が痛みを訴える???」となるかもしれないが、飼い主によると、いつものように犬を抱えようとした際に、「キャンーキャンー・・・」と吠えて痛がるとのこと。シャンプーの際も患部を触らせないという。痛みで散歩にも行けない状態。15年も面倒をみている飼い主はどこが痛いのかがある程度予測できるようだ。来院の際にも犬かごからなかなか出てこようとしない。ようやく出てきてみると、左後ろ足が震えている。触診をしたり動かしたりできないので、すぐに飼い主を「犬の代理」として、検査と調整を行うことにした。

代理検査法は飼い主との信頼関係がある限り有効な検査法になる。痛みの原因を探索すると、左後ろ足と腹部に陽性反応が示された。症状レベルは8、機能検査で、筋骨格系レベル10、メンタル系レベルは10と最も悪い状態。PCRTの検査では大脳辺縁系で「恐れ」のキーワードで反応が示された。飼い主に質問しながら的を絞っていくと、隣に引っ越してきた人が、壁をゴトゴトさせてかなりの騒音が聞こえてくるとのこと。苦情に伺ったが、引っ越したばかりで、壁に何かを取り付けていることのことらしい。PCRT検査で示された「恐れ」に関係する隣から聞こえる騒音イメージで調整。

次のキーワードは、「逃避」が示された。飼い主によると、「恐らく一人でいるときに、その騒音も関係しているのか、知らない人が入ってくるのではないかと恐れて、それを避けているのかな・・・」とのことで、「逃避」の調整も行った。施術後の機能評価レベルは全て1に改善。

それから3日後に来院、飼い主はかなり症状が改善されたと喜ばれていた。ちなみに、パミオンは2歳ぐらいから一年で人間に換算すると4歳ぐらい成長していくとのこと。例えば生まれたから6年で40歳で、15年だと75歳になるらしい。なので、連れてこられた飼い主によると、「これで歩けなくなって、逝ってしまうのかと・・・」と、ふと思ったとのことだった。

その後、3日置きぐらいに代理検査で2回ほど施術を行い、強い痛み症状はほぼ開放された。飼い主の方もホッとされた様子でたいへん喜ばれていた。

飼い主様から感想をいただきました。ありがとうございます。




2018年5月1日火曜日

イップスの根本的な改善

先日、2年前に送球イップスで来院され、今春から大学3年生になる野球選手が春休みを利用して来院してくれた。現在は社会人のクラブチームでピッチャーを担当しているとのこと。イップスはかなり改善されているが、少し気になることがあるらしく、持参してくれたiPhoneの投球フォーム画像を見ながらPRT検査。ご本人も気になっているところで陽性反応を示す。いくつかの潜在意識が関係する誤作動記憶に加えて部分的な投球フォームに関する意識への誤作動記憶も関係していた。

ビデオ映像から導き出された陽性反応は、ピッチングのテイクバックの動作だった。本人に質問してみると、「後ろに腕が伸ばせていない・・・」とのことだった。原因となる誤作動記憶を検査すると、過去の肩や肘の痛みの記憶が関係していた。関節に痛みが生じたままで、動作を繰り返していると知らず知らずのうちに、かばう動作を身体が学習してしまい、腕が自然に後ろに伸びなくなったということが疑われる。痛みの誤作動記憶の調整を行なった。

PCRTでは誤作動記憶のパターンを瞬時に検査することができるので、根本的な調整が可能になる。もしも、このような検査と調整をしなければ、恐らく、投球フォームを改造しようとするだろう。表面的には投球フォームの改造で改善しそうだが、潜在的心理面が関係する無意識の記憶(クセ)による影響はそれほど簡単ではない。意識でコントロールできれば、そもそもイップスにはならない。意識と無意識が離れているからイップスの症状が生じるのであって、そこの関係性にアプローチしなければ、根本的なイップスの改善が遅れるだろう。

2008年度の北京オリンピックで、米国の陸上女子100メートルハードル代表のロロ・ジョーンズは、トップで走っていたにも関わらず、最後から2番目のハードルに引っかかって金メダルを逃してしまった。この時彼女は、「足をしっかり伸ばそう」と意識してしまったと、後で語っていたという。これは、全体的なゴールへの目的意識から、部分的な意識へと変化したために、いわゆる誤作動が生じたのだと考えられる。最近ではビデオ映像を見ながらフォームの修正に意識を向ける傾向にあるが、部分に意識が集中しすぎてしまうと、体全体の調和が乱れて、イップスのような誤作動を生じやすくなる。

さらにパフォーマンスを上げるためのフィームの改造は効果的なるかもしれないが、イップスを改善するっためのフォームの改善はむしろ治りが悪くなる傾向がある。なぜなら、多くの選手は小学生の頃からその競技を継続しており、そのフォームで活躍されている。イップスの原因はフォームを変えたから悪くなったわけではない。問題の矛先を間違えないようにしないと改善は難しくなる。

「部分と全体との関係性」、「意識と無意識との関係性」、「心と身体との関係性」はイップスの改善には必要不可欠な概念であり、単に部分的なフォームの改造、あるいは、神経学的機能の改善だけでは本質的な改善は困難になるだろう。