2018年10月24日水曜日

発声イップス(機能性発声障害)

自律神経系の他の症状で以前から通院していただいている患者さんで、順調に様々な症状が改善しており、今度は話すときに滑舌や発声がうまくできなくて伝わりにくいのでその症状を改善したいとのこと。以前から問診の際に少し話が聞き取りにくいということは感じていたが、それほど気にはなっていなかった。でも、施術を継続してその経過を振り返ると、「あ〜これは本人にとって随分困っていた症状だったのか・・・」ということが後で分かった。この症状はいくつかの記憶による条件付けで発声に関係する神経系の誤作動が生じるという点において、「発声イップス」(機能性発声障害)といってもいいだろう。

発声イップスの施術後の約1ヶ月後、別の症状で来院された際に、そのことお聞きしながら患者さんの声が滑らかで聞き取りやすいのに気づいた。初診時からの声の印象しかなかったので、本来はこんなに聞き取りやすい滑らかな声の持ち主人だったのいかと内心驚いた。「あれから声の方はどうですか?」と尋ねると、「あ〜すごくいいです!」という。「そうでしょうね。声が滑らかですよね・・・」と伝えると、「ありがとうございます。嬉しいです!」と喜んでいただいた。

今回の成果は、改善するまでに2回の施術を行なった。この患者さんの場合、メンタル面が関係することが多いので、一回の施術に二枠のご予約をしていただき、通常の患者さんの2倍の施術時間(2025分)内で行う。最初の発声イップスの施術は滑舌の悪さも含めて調整を行なった。18年前の英語が上手く発音できない時の記憶や4年前の人間関係に関する記憶などが関係していたのが興味深かった。

その後の来院では発声イップスの症状ではなく、別の症状が強いのでその施術を行なった。そして、その後の来院で、滑舌は改善したが、音程の音感がつかめないという。他人には分かりにくいが、自分の声が理想の音程ではないとのこと。検査をすると陽性反応が示されたので、その誤作動の調整を行う。13年前の人間関係やカラオケの時の記憶などが関係していた。

本症例は、1回目の発声イップスの施術から別の施術を挟んで、二週間後の2回目の施術後に改善された。この患者さんは以前から別のメンタル的な症状で当院をご利用いただいており、当院のメンタル系の治療法に慣れているということも早期の改善につながったのだと思う。

2018年10月23日火曜日

痙性斜頸患者へ鏡療法(リバビリ)の可能性

先日、痙性斜頸で通院していただいている患者さんで、興味深い現象があったのでご報告させていただく。40代男性の患者さんで、最初の痙性斜頸の程度としては、首が左に向いてしまう傾向が強く、頸部や肩周辺にも痛みを伴って、かなり辛い症状がしばらく継続していた。遠方からだったがほぼ毎週通院していただき、ここ最近改善の兆しが見えてきている。今回の施術の際には、ご本人もだいぶん良くなってきた感じがしてきたとのコメントをいただいた。

良くなった一つのポイントとして、「良くなったら以前からの趣味であるバイクでのツーリングを始めたいという目標ができたことも一つの要因になっているかもしれない」とのことだった。施術途中で、左から右に向ける際に、引っかかりがあるので、「何か思い当たる原因はありますか?」と尋ねると、「左に向くと、そこから首が動かなくなるという恐れかな・・・」と話されていたので、その恐れで検査をすると陽性反応が示されたので誤作動記憶を調整。

その後、検査をすると、まだ引っかかりがあるので、患者の顔の前に鏡をおいて、鏡の中の自分の顔を見ながら、鏡を患者の首の動きに合わせて動かすと、首を左右にスムーズに動かすことができた。「ん???何がちがうのかな???」と自問自答して「あっ〜目標があるからかな・・・」と何かご自分で気づかれた様子。「改善したらバイクのツーリングで楽しめるという目標と関連があるのですかね・・・」とコメントすると、「あ〜そうかもしれない・・・」と言われていた。

痙性斜頸の原因は様々な誤作動記憶が関係していたが、原因の一つに症状を抱えることによる「肯定的な意図」も含まれていた。症状があることで、ある役職をしなくても良いという意味づけも関係していたようで、そのような意味記憶を超える目標ができたことで、治癒力も加速してきたように感じた。患者さんは治したい一心で遠方から通院していただいているが、治ることでさらに得られる目標があると治癒力も促進されるということは、度々遭遇する臨床現場だから分かるストーリーである。

今回の鏡を使った運動の検査は、鏡療法を応用したもので、以前から四肢麻痺の患者さんにリハビリ療法として使われ効果的であるとの論文も掲載されている。PCRTでは自分の症状のある姿が脳に記憶されて脳からの信号で症状を引き起こしている場合、客観的に自分を見てもらう訓練で鏡を使うことがある。今回、ジストニアの患者さんに試してみたら、効果的な現象が示された。他の痙性斜頸の患者さん達にも試してもらい痙性斜頸患者のリハビリ運動として使えるのか成果を確かめてみたい。

ただ、痙性斜頸のようなジストニアの患者さんは、特定のリハビリで改善するというわけではない。リハビリを無理に行うことで、できない動作をさらに記憶させて、逆効果が生じてしまう恐れもある。よって、ジストニアやイップスのリバビリ運動は、患者さんの状態に応じて慎重にアドバイスされた方が良いだろう。むしろ治そうと意識が向かなくなったときに、自然に良くなることもあるが、単純に意識を変えれば良くなるというものではない。似たような症状でも原因は一人一人異なるので、治り方も人それぞれに異なる。肝心なのは、原因となる誤作動記憶がどれだけ解放されるかにあるだろう。

2018年10月18日木曜日

結果が出せる検査法とは

健康維持や症状改善のための検査法を大きく分けると、自然治癒力や身体機能を引き出すための「機能学的検査法」と、身体構造を修正するための「構造的検査法」に分けることができます。先日開催されたアクティベータ・メソッドで使われている下肢長検査法は、「機能学的検査法」です。いつも下肢長検査法のレクチャーで強調しているのは、「機能的に診るのであって、構造的に診るのではない」ということです。経験のない受講者にとって、最初はこの概念を理解することは容易ではありません。

通常は機能=動き=働きというように考えますので、静止状態で下肢長を機能的に検査するとはどういうことなのか理解に苦しむところだと思います。静止状態では機能が分からないというのはもっともな理屈ですが、関節や筋肉を自動的に動かさなくても、生体は生きている限り神経系を通じて微妙に働いています。脳の細胞が寝ている間も活動しているように、筋肉を動かさなくても筋肉細胞やそれをコントロールしている神経細胞は常に動いているのです。そして、静止状態における筋肉細胞の微妙な働きは「筋肉のトーン」として現れます。

AMの下肢長検査は静止状態で相対的な下肢長差を判断します。筋肉や靭帯などを無視して骨の長さで診るのか、「関節のあそび」に関連する人体や筋肉のトーンで診るのかで、下肢長差の判断に大きな違いがでてきます。「構造的」に診ると左が短く見えるが、「機能的」に診ると右が短く見えるという場合もあります。初心者の多くはこの判断に苦労します。機能的に下肢長を診るスキルをマスターするのは、適切な指導の元で、繰り返し訓練することが大切です。数多くの患者さんの「機能的下肢長検査」を繰り返すことで、脳が自然にそのコツを覚えていきます。

恐らく教科書や文章を読んだだけでマスターしようとうしても難しいかもしれません。公認AMセミナーでしっかりと基本を繰り返し学び、それを臨床現場で何度も繰り返して自分の身体に覚えさせていく必要があります。私たちの施術は生体の機能を回復させる施術ですので、構造的な検査をしてもあまり価値はありませんし、構造的な検査を指標にしても結果がでないでしょう。機能の問題は機能的な検査に基づいて機能障害を判断し施術を行うので結果が伴うのです。もしも、構造の問題であれば、画像診断などの構造的検査に基づいて施術を行うのは言うまでもないでしょう。

AMは関節筋肉系の機能異常を調整するにはとても効果的な治療法です。適切な機能的下肢長検査ができれば、控えめに言っても9割は機能改善の結果が得られるはずです。もしも、結果が得られないのであれば、まずは、ご自分の下肢長検査法の精度を疑ってみましょう。機能的に検査しているのか?構造的に検査しているのか?そこに大きな上達のヒントが隠されているはずです。

2018年10月11日木曜日

健全な記憶の神経回路に書き換えて慢性症状を改善させる

健全な記憶の神経回路に書き換えて慢性症状を改善させる

2000年に神経系の情報伝達に関する発見の功績によりノーベル生理学・医学賞を受賞したエリック・カンデル教授は、「記憶」をテーマに研究を進めてきた神経生理学領域の第一人者の一人です。彼は幼少期にホロコーストに遭遇した経験から最初は精神医学、精神分析に興味を持ちました。その後、精神分析の根幹は何かという問いに対して、「記憶」というテーマが浮かび上がって脳の生理学的研究へと進んでいきました。

カンデル教授は、単純な神経システムを持つアメフラシを用いて記憶の分子メカニズムを次々と明らかにしていきました。アメルフラシは単純な無脊椎動物です。その非陳述記憶のメカニズムは基本的なところでは人間とそれほど違いはないといわれています。非陳述記憶とは身体で覚える記憶で、自転車の乗り方を自然に覚えていくような記憶です。頭で覚える陳述記憶はアメフラシにはありませんが、アメフラシの非陳述記憶の研究成果が人間にも通じるということを考えると非常にワクワクします。

カンデル教授は画像診断技術の発展に伴って、長期記憶に関わる神経回路の生物学的構造変化をライブ映像で示すことに成功しました。ライブ映像では長期記憶に関係する神経の枝が伸びていく様子を目で確認することができます。私たちが慢性症状に対する誤作動記憶の調整を行う際、患者さんに「新しい健全な記憶に書き換える」という説明を行っています。慢性症状を創り出す記憶の神経回路から健全な記憶の神経回路に書き換えて症状改善を促します。慢性症状で治る自信を失った患者さんにとって、このような最新の研究成果は治ることへの勇気付けになるのではないでしょうか。

繰り返される身体的な慢性症状や人間関係の問題やパフォーマンスの低下などは、すべて私たちの「記憶」が関係します。つまり、脳が私たちの経験を記録し、また、その経験に上書きして保存するという能力に関係しているのです。記憶は私たちの生活を豊かにし、社会や他者とのつながり、自己成長にはなくてはならない機能です。今後もさらに研鑽を重ねながら、多くの患者さんの健康の貢献できるように、健全な記憶の神経回路を上書きして慢性症状の改善にお役に立てればと願います。

まだ未開拓の脳科学の分野において「記憶」の研究は一番進んでいるようで、慢性症状が脳の「誤作動記憶」に関係するということをテーマにしている治療家にとって、臨床の成果を裏付けしてくれる研究がさらに進められることに大きな期待を寄せています。

2018年10月6日土曜日

起立性調節障害の改善

起立性調節障害は、小学生から中学生に多く、めまいや立ちくらみ、朝起床困難、気分不良、倦怠感、頭痛など自律神経系の症状を訴える子供が病院で診断を受けて初めてわかることが多い。いわゆる自律神経失調症のひとつと考えられている。特徴として、起立や座位で脳血流が減少し、思考力と判断力が低下する。

当院でも病院で起立性調整障害の診断を受けてから、薬物療法以外の本質的な治療を求めて多くの子供達がご両親の勧めで来院してくださっている。そのような長年の臨床経験から、起立性調節障害の問題なのかどうなのかという検査法を開発した。決め手となる二つの検査法で、両方とも陽性反応が示されたら、病院でいわれている起立性調節障害の症状だと判断できる。もちろん病院のように診断はできないが、治療院での目安検査としては分かりやすい検査法である。

先日も貧血でクラクラするという30代前半の女性の患者さんが来院され、鉄欠乏性貧血を視野に入れながら、念のために起立性調節障害の検査を行なった。すると決め手のなる2つの検査で陽性反応が示された。その目安検査となる部位を基準に原因となる誤作動記憶の検査と調整を行なった。調整後はすっきりした感じになったとのことで、患者さんに喜んでいただいた。

起立性調節障害は、立ったり座ったりする際に重力に対する血圧調整機能がうまく働かないことによる自律神経系の障害である。身体の中のメカニズムとしては血圧調整の問題だが、血圧調整の機能に問題を生じさせる原因が脳の誤作動記憶にあることが多い。当院ではこの症状を抱えている患者さんにはこの手法で検査を行い調整する。個人差はあるが、早期に改善される患者さんが多いようだ。

2018年10月2日火曜日

過去の記憶(プチ・トラウマ)が、現在の症状につながる

トラウマ(心的外傷)というと、命が脅かされるような出来事(戦争、事故、虐待など)によって、強い精神的衝撃を受けることが原因とされます。当院で慢性症状の本質的な原因を探求していると、一般的に知られているようなトラウマ(心的外傷)と言わないまでも、「プチ・トラウマ」とも言える慢性症状に関係する過去の「誤作動記憶」の影響が多く存在していることが分かります。「プチ・トラウマ」の特徴として、理性的に処理して意識的にはほとんど気にしていなくても、無意識的に心の奥に保存されている記憶と言えるケースがほとんどです。

過去に起こった記憶が無意識に思い出されて、それが現実に起こっているかのような感覚があるときに、「フラッシュバック」という心理用語で表現されます。フラッシュバックは「恐怖」や「怒り」などの感情や身体的症状など、感覚の記憶として再現されます。そして、その記憶はまともに意識に上らないため、フラッシュバック性の記憶は鮮明に再現されますが、言語化するのが困難な場合が多いようです。

この「フラッシュバック」は、強いトラウマ体験(心的外傷)を受けた場合の心的外傷後ストレス障害(PTSD)の特徴的な症状の一つとして知られていますが、冒頭で述べたように長年の心身条件反射療法の臨床研究では、強いトラウマ体験でなくても、過去の記憶がフラッシュバックされて、身体的症状を引き起こすケースに多く遭遇します。検査で示された過去の記憶を引き出して調整を行うと、施術直後にその患者さんが訴えていた症状が消失することから、過去の記憶が関係していたことが分かります。

施術後に、「そういえば、そのこと(過去の記憶)をふと思い出しました」とフォードバックしてくれる患者さんも少なくはありません。症例によっては、10年〜20年以上も前の記憶でも、検査を進めるとほとんどのケースで、症状に関係する誤作動記憶にたどり着き、調整を行うと症状の改善につながります。時系列の検査をLPRT(言語生体反応検査法)で進めると、ピンポイントでその誤作動記憶にたどり着き、患者さんはもちろん、術者もその検査の正確性に驚かされます。その検査の結果も慣れてくると当たり前になりますが、それでも、抱えている患者さんの問題はそれぞれに異なるので、その症状が改善されるときの喜びはいつも新鮮です。

もしも、「プチ・トラウマ」が慢性症状の原因になっている場合、タイムカプセルのように保存されていた内容を引き出して、その過去の記憶に戻って調整を行います。その内容が明確に表現できる場合もありますが、場面だけで言葉に表現できない場合もあります。内容が明確に言語化されなければ調整ができないわけではないので、誤作動反応を示している場面だけで調整を行います。慢性症状に関係する誤作動記憶は複数存在することが多いのですが、調整後には多くの症例で症状の改善を確認することできます。隠れた「プチ・トラウマ」を見つけて慢性症状を解消していきましょう。

2018年9月25日火曜日

妊娠7ヶ月の妊婦さんの腰痛、関節痛の改善

20代後半の妊婦の患者さんが、腰痛と股関節、恥骨部周辺、足部周辺の痛みを訴えて来院。アクティベータ療法にて、骨盤、背骨など比較的多くの部位の調整を行なった。特に恥骨周辺部位は通常よりも多く調整した。施術後には、施術前に陽性反応を示していた関節可動制限や運動時痛は全て消失。

2回目の施術は次の日に連続して来院していただいた。骨盤と背骨を調整、恥骨部や他の四肢部の関節は安定していた。しかしながら、右側の上肢と下肢の筋肉群の機能低下と右小脳の機能低下の陽性反応が示されていたので、アクティベータ療法の後にPCRTを加えて調整を行なった。患者さん曰く、全体的に悪かったけど、どちらかというと右側の股間部の方に痛みを感じていたというようなことを話されていた。

3回目の施術も次の日に連続して来院していただいた。左の足背部が少しピキッとした痛みがあったとのこと。アクティベータ療法で調整を行う。最初の施術部位の数に比べて、調整部位がかなり少なくなり、関節系はかなり改善しているとのことだった。その日は、以前から気になっていた皮膚症状の施術もPCRTで行なった。

本症例で調整部位の記録を取ったカルテを見ると、初回から2回目、3回目と調整部位が激減していた。初回ではあまり強い痛みを訴えていなかったが、調整した後で振り返ると、おそらく痛みを我慢されていたのではないかと察した。妊婦さんは赤ちゃんがだんだんと大きくなるにつれて、その重さを支える筋力とバランスが大切である。同時に骨格も変化してくるので、腰痛や骨盤などの症状が生じやすくなる。そのような妊婦さんの関節痛にはアクティベータ療法の調整刺激は刺激が優しくとても効果的である。

妊婦さんの腰痛や骨盤痛にはアクティベータ療法がいつも好評である。