2017年5月29日月曜日

送球イップス 「挑戦者」から「理想のゴール」へ

送球イップス 「挑戦者」から「理想のゴール」へ

情報:
中学2年生男子、野球部、ピッチャー、野手兼任。小学生の頃から野球を始める。
1年ほど前(昨年の5月)より軽度のイップスの症状を感じ、秋頃には回復したが、最近(今年の4月後半)より不安定になってきたとのこと。通常のキャッチボールでは問題ないが、ピッチャーやファーストへの送球でうまく投げられないとのこと。

【1回目】

目安検査:
*右上肢挙上、右肩甲帯後方で陽性反応
*ピッチングのストレートで陽性反応、変化球(カーブ)は陰性反応
*ショートからファーストへの送球で陽性反応

《ハード面調整》
アクティベータ・メソッドにて関節筋肉系の調整を行う。胸椎中部と右上肢の陽性反応を調整
《ソフト面調整》
問診にてどのような時に不安定になるのか尋ねたところ、投手で登板した際、試合の立ち上がりでは問題ないが、プレッシャーを感じてくると不安定になってくるとのこと。さらにどんな時にプレッシャーを感じるかを尋ねたところ、昨年、自分の責任で点が入ったことを経験しているのでそれが関係しているかもしれないとのこと。その時を思い出してイメージしてもらうと陽性反応を示すので、そこから、チャートを使って誤作動記憶に関係するキーワードの検査をして調整。さらにエピソード記憶として、不安定な自己イメージを調整。

【2回目】

《目安検査》
ハード面の目安検査は陰性反応
*ソフト面の目安検査は前回のショートからファーストへの送球、並びに練習でのピッチングでのイメージも陰性反応
*そこで、実際の試合のピッチングのイメージをしてもらうと陽性反応
*不安感を10段階で表してもらうと7のレベル。そこから調整を行う。

昨日の練習ではショートを守り、普通の送球はできたとのことだった。
ハード面調整はほとんど陽性反応が示されず、主にソフト面調整を行う。

《ソフト面調整法》
大脳辺縁系に関係するいくつかのキーワードが示されたが、特に印象的だったのは、小学生の頃から野球を始めて、周りからも期待されていたため、自分はできて当たり前だという自負があった様子。そのプライドを守ろうとしている心の背景が見えてきた。このようなパターンは比較的上手で周りから期待されている選手に生じやすいプレッシャーである。このような場合、多くは失敗しないようにと「守り」のプレーになる傾向がでて自分の実力が発揮できなくなる。そこで、「挑戦者」であることの大切さを提案させてもらい、様々な事例をお伝えした。

【3回目】

《経過》
問診で、昨日の練習試合で登板したが、3回が終わって、自信がなくなったので監督さんに伝え、交代してもらったとのこと。もっとも自信がない度合いを10とすると10レベルとのこと。
自信がない10レベルを目安として、そこからソフト面調整を行う。
前回に引きつづいて失敗しないように「守る」というマイナスのパターンやチームへの責任感を感じる反応も示されていた。
それに加えて、「意味記憶」や「エピソード記憶」の反応も示され調整を行う。調整後、自信のないレベルが10から1まで改善される。

【4回目】

《経過と考察》
問診では、外野で練習や試合を行うようになり、外野で野球を楽しめているとのこと。しかしながら、今後、ピッチャーやショートでも問題のないようになりたいとのことで、未来を先取りした検査で陽性反応を引き出し調整を行う。
検査では、「意味記憶」や「恐れ」のキーワードで陽性反応が示され調整を行う。
理想のピッチングや送球のイメージができている理想の自分になっているゴールのイメージはできますか?と尋ねると、ちょっと首を傾げながら難しい表情を表す。これはよくあるイップスを引きずってしまうパターンだが、イップスの症状が治ったら、〇〇の練習をする、あるいは〇〇のゴールを決めるというような、イップスが治らないと理想のゴールのイメージができないというパターンが示されていた。このようなパターンに入ると、無意識的にできない理由、あるいは失敗の理由をイップスのせいにしてしまう癖がついてしまい改善が遅くなる。もちろん、イップスが治れば、送球ができるようなるという理屈をもっともな理由になるのだが、人間の脳は、「原因と結果」を混同して、負のサイクルにゴール設定して、そのから抜け出せなくなる。イップスという症状は結果であり原因ではない。つまり、イップスは目的(ゴール)があるから生じてしまう症状で、ゴールがなければイップスは生じないので、イップスの症状を治すのをゴールにしてしまうと、何のためにイップスを治しているのか脳が混乱して負のサイクルに陥るということである。そのゴール設定は、間接的にも直接的にもイップスを改善するためにはとても大切である。このような負のサイクルに入っている場合はコーチング的に質問させてもらう。「何のために送球するのか?」、「何のために練習をしているのか?」「何のために野球をしているのか?」「何歳まで野球をするのか?」など、ゴールに関係する隠れた価値観について質問させてもらうことが多い。すると、多くの方は、自分自身の盲点に気づき、自分を俯瞰的に捉えることができ、心にゆとりができて新たな神経回路のパターンが生まれて改善への一助になる。

【5日目】

《経過》 
昨日、監督さんから急にピッチャーで起用され登板したところ、7イニングを問題なく完投できたとのこと。イップスの症状に関してはだいぶん自信がもてた様子だった。今日は、肩の違和感がでたので、主にそこを診てほしとのこと。

《目安検査》
肩関節伸展、外転、肩甲帯後方、頚椎伸展、屈曲に陽性反応

《ハード面調整法》
*アクティベータ・メソッドにて胸椎、右肩関節、肩甲帯を調整
《ソフト面調整法》
*「競争心」や「自省心」で陽性反応。それぞれ調整を行う。

《考察》
イップスに関してはかなり改善している様子で前向きな印象が持てた。本症例は、「守り」から「挑戦者」へ、そして、「イップス治しの負のサイクル」から「理想のゴール」へと「不健全のパターン」から「健全なパターンへ」と抜け出すことに成功した事例である。イップスにはそれぞれにパターンがあり、それぞれに治るプロセスがある。施術者は一人一人の患者さんに寄り添って、そのドラマをしっかりと汲み取っていく力が必要だと改めて思う。


2017年5月23日火曜日

気分障害(イライラ感)の遠隔治療

気分障害(イライラ感)の遠隔治療

70代女性、大学教授。6年ほど前から当院を利用していただいており、数年前より電話による遠隔治療を好んで利用していただいている。約5ヶ月ぶりの遠隔治療の依頼。数週間前より自律神経失調症のような症状が現れ、気分のイライラ感も強く、すぐにカッとなったり、突然、たわいのないことで悲しくなったりするとのこと。最高のイライラ感を10レベルとすると8(フィンガーテスト《生体反応検査法》)レベル。

術者:「おそらく、イライラ感が治まったら、他の自律神経系に関係した症状も治まってくると思いますが、どうですか?」
患者:「そうですね。」
術者:「それでは、イライラ感を思い浮かべていただいて、検査をさせてもらいます」
誤作動記憶検査チャートを使いながら、フィンガーテストにて検査。
大脳辺縁系→信念→警戒心
患者:「今・・・・・とても仕事に追われている感じで、よそ見をするとその仕事に支障がありそうで、何か馬の目隠しのように前だけを見ていないといけないという感じで・・・でも、気になる本があるとそれを取り寄せたりして、・・・仕事に集中しなくてはいけないのに他のことが気になっていますね・・・家事のこともあるし・・・・〇〇も気になるし・・・何か閉塞感を感じている自分がいますね・・・」
術者:「そうすると、仕事に集中しなくてはいけない時なのに、他のことが気になる自分を警戒しているかもしれませんね・・・」
患者:「そうですね・・・・」
術者:「それでは、先ほど話していただいた内容を気にしている自分を警戒していることを意識してもらいながら調整させてもらいますね」
電話を通じて遠隔治療で調整する。
術者:「はい、警戒心の反応はとれました。先ほどの8のレベルからどれ位になっていますか?」
患者:「ん・・・・」
術者:「では、こちらで検査して見ますね。検査(フィンガーテスト)では4レベルになっているようですが、どうですか?」
患者:「そうですね。それぐらいですね。」
術者:「では、まだ、レベルが下がりそうなので、さらに検査をして行きますね」「それでは、先ほどのイライラ感に戻って思い浮かべてもらえますか?」
患者:「はい・・・・」
誤作動記憶検査チャートを使ってフィンガーテストで検査
大脳皮質系→意味記憶→一般論
術者:「今度は意味記憶の「一般論」で反応していますので、何か一般論的な意味づけをされて、今の症状につなげている可能性があると思いますが・・・」
患者:「・・・・最近、〇〇を感じている自分がいるのですよね・・・おそらく自分の「老い」を気にしているのだと思います・・・最近、周りの知り合いが毎月のように亡くなってなって行くのですよね・・・〇〇の人たちはだんだんと元気がなくなっていっているような・・・」
術者:「というと、そのような周りの情報、つまり一般論にのって、〇〇さん自身もそのようになっていくのではないかと思い込んでいるということでしょうか?」
患者:「そうですね・・・・・」
術者:「海外でもそのような傾向があるのですか?」
患者:「英国の〇〇の人たちはもっと元気があるのですよね・・日本の〇〇の人たちとは違いますね・・・」
術者:「それでは、そのような一般論からの思い込みを認識してもらいながら調整しましょう・・・」
電話を通じて遠隔治療で調整する。
術者:「はい。一般論から意味記憶の反応が取れました。先ほど、イライラ感のレベルが4でしたが、今はどうでしょうか?・・・検査をしてみますね。・・・今2ぐらいになっているようですが、どうでしょうか?」
患者:「そうですね。だいぶん楽になっていると思います。・・・」
・・・遠隔治療完了・・・

二週間後、ご家族の件で代理治療の相談があり、その後の経過を聞いてみると、あれからすっかり良くなったとのことで喜んでいただいた。


2017年5月20日土曜日

PCRT研究会基礎2、上級を終えて

PCRT研究会基礎2、上級を終えて

先週末、基礎2と上級の研究会が開催されました。意識の高い先生方に受講していただき、心地よい雰囲気の中で、学びを深めることができました。また、普段、臨床現場で抱えている課題も先生方からフードバックしていただき、PCRTをよりスムーズに使うためのアイディアをたくさんいただけました。

特に課題となるのはソフト面調整法の際、チャートを使って誤作動記憶に関連するキーワードを特定した後の進め方です。患者がすぐにそのキーワードから連想して心当たりを認識できれば、調整がスムーズに進むのですが、その認識に至るまでの質問やフォローの仕方で行き詰まってしまうという課題があります。

この場合、そのキーワードにつながる答えがでてこないと調整ができない、あるいは効果が得られないという前提が生じやすいと思います。確かに患者が誤作動記憶に対する心の状態を認知することで、様々な症状の改善に繋がります。しかしながら、心の状態を明確に認知しなければ改善されないというわけではありません。

検査の過程でチャートのキーワードを見る、あるいは術者からの質問を受ける、それだけで生体に陽性反応が示されるということは、神経生理学的に何らかの誤作動記憶が引き出されたということです。それは、ハード面調整法で生体に何らかの「刺激」を加えて行う施術と同じになります。ハード面調整法では、ほとんどが物理的に生体に何らかの「刺激」を加えて、施術を行います。

一方、ソフト面調整法では、言語情報や想像による脳への入力情報によって「刺激」を加え、誤作動記憶を引き出して施術を行います。要するに、身体への刺激であれ、脳への刺激であれ、生体が誤作動記憶の陽性反応を示さない場合、それは、様々な環境に適応できている状態です。すなわち健全な健康状態を保っていることになります。逆にいうと、身体や脳への様々な「刺激」に対して誤作動記憶の陽性反応が多ければ、不健全な状態になっているということです。
 
ハード面調整法と同様に、キーワードや質問による陽性反応で引き出された誤作動記憶も施術対象になります。答えが引き出されなければ施術ができないというわけではありません。誤作動記憶の根っことなる部分に直接働きかける以外に幹や枝葉を調整しながら、根や全体を調整するという手順もあります。

根っこを見つけて施術する方法に加えて、枝葉から調整する方法があると、さらにPCRTも使いやすいなってくると思います。今回の上級ではその応用的な手法もご紹介させていただきましたが、次回の研究会でも分かりやすくご紹介させていただければと計画しております。


それでは、次回の研究会でお会いできることを楽しみにしております。