2016年9月27日火曜日

連載11 「制限する信念」に気づくためのスキル

「無意識」にアクセスする「コーチング」を目指して 連載

連載11 「制限する信念」に気づくためのスキル

「制限する信念」とはどのようなものなのか?分かりやすい事例を踏まえて説明させていただきます。「制限する信念」とは、言い換えるとき「機能不全の考え方」でもあります。その考え方(信念)を持つことで、精神的にも肉体的にも不都合な結果を招くことになるので、機能不全の考え方を機能的な考え方、すなわち「非合理的な考え方」を「合理的な考え方」に変えてみませんか?と提案する「論理療法」です。

この論理療法とは、アルバート・エリスという臨床心理学者が提唱した心理療法です。認知行動療法やコーチング、カウンセリングでも応用されています。これは「制限する信念」をわかりやすく分析して、それを書き換える理論としては、とても効果的な手法になります。

理論療法はABC理論やABCDE理論とも言われており、それぞれの英語の頭文字に合わせて、理論的に心の現状を認識して、基本的にはある出来事が直接的に人の感情や行動を引き起こすのではなく、その人の感じ方や受け止め方、すなわち「信念」が結果として感情や行動に影響をもたらすという大前提があります。コーチやカウンセラーはその非合理的な考え方や受け止め方を軌道修正できるようにサポートして、より良い結果へと導けるようにアプローチしていくわけです。

AActivating event):刺激となる出来事 
BBelief):制限する信念(考え方や受け止め方) 
CConsequence):出来事に直面したときの結果(感情や行動) 
DDispute):自分の中にある非合理的思考への反論 
EEffects):反論することでもたらされるよりよい結果

例えば、出張で新幹線や飛行機に長時間乗っていると腰が痛くなるというクライアントさんがいます。クライアントさんによる思い当たる腰痛の原因は、新幹線や飛行機に長時間座っていることのようです。長時間座っていると腰に良くないということは一般論でもありご自身もそれを信じている様子です。

事情をもう少し詳しく聞いいてみると、10ヶ月ほどまえから職場が変わったとのことです。以前の職場でもデスクワークが多く、新幹線や飛行機での出張があったということです。クライアントさんも話しながら、何が違うのかを考えてた様子で、以前の出張ではもっとゆったりした座席で新幹線や飛行機を利用していたらしく、職場が変わって以来、経費削減で狭い座先に変わって出張が億劫になったと言われていました。

客観的に評価すると、転職による身体的な疲労は以前とさほど変わりが無いようですが、心理的には大きな変化が見られるようです。端的に言うと、出張に関する会社の待遇に不満がある様子です。身体的な異常を原因とする腰痛というよりも、むしろ心身相関的な心理面が関係した腰痛の可能性があります。

ABCDE理論に当てはめると以下のようになります。

A(刺激となる出来事)=出張で新幹線や飛行機に長時間座ること
B(制限する信念)=以前とは異なる窮屈な座席に長時間座っていると腰に良く無い


C(出来事に直面した結果)=腰痛と不満

ここで、コーチは、刺激となる出来事になっている「出張で新幹線や飛行機に長時間座ること」は、会社の事情で変えられないということを認識した上で、「制限する信念」=「非合理的な考え方」を「合理的な考え方」に変えてみませんか?と提案することができます。

もしも、クライアントがABC理論に基づいた心の現状を客観的に納得されると、制限する信念を認識した上で、自分にとって合理的な考え方を探します。もしも、「窮屈な座席でも腰痛にならない人がたくさんいるので、その状況に柔軟に対応できる自分を信じる」ということが、心から信じられるようになると、おそらく腰痛と不満は軽減するでしょう。

D(非合理的思考への反論)=「窮屈な座席でも腰痛にならない人がたくさんいるので、その状況に柔軟に対応できる自分を信じる」
E(よりよい結果)=腰痛と不満が軽減


とてもシンプルな理論ですが、「制限する信念」による不合理な結果を変容させるには本質的な理論です。

2016年9月26日月曜日

連載10 無意識的に「制限する信念」と「行動」に向き合うコーチング

無意識」にアクセスする「コーチング」を目指して 連載

連載10 無意識的に「制限する信念」と「行動」に向き合うコーチング

人は誰でも「信念」を持って生きています。「信念」を大きく分けると、自分の行動を「促進させる信念」と「制限させる信念」があります。「一念岩をも通す」ということわざがあるように、信念は強いエネルギーを持ち、肯定的にも否定的にも働きます。「信念」は本人が意識している時もありますが、多くの信念は無意識的で、その信念はその人の「行動」につながっています。逆にいうと、その人の「行動」を観察していると、その人が持っている「信念」が分かることがあります。

例えば、会社でも自営業でも自分は成功している経営者だという信念があると、その経営者はそれに伴った行動を取ります。会社が発展するようなアイディアがどんどん湧き出て、すぐに行動を起こします。たとえ、悪い影響が明らかになったとしても、今までの行動を振り返り、その行動を止める決断をします。

このように成功に導く行動を繰り返し「結果」を出し、周りからも成功者としての評価を得ることで、やっぱり自分はできると、「信念」は確信に変わっていきます。信念を強化して「確信」へと進化させるカギは、「行動」です。頭の中で信念を変えても、実際の「行動」を起こさなければ脳の神経回路は構築されず、習慣化されないため何の意味もなさないことになります。「行動」なき信念は、机上の空論でしかないのです。

信念に伴った行動を取ることで、「結果」がでると、その信念が強化され、さらに「行動」が強化され「結果」がでて「成功のパターン」ができる訳です。成功者はさらに成功することになり、成功者としての人脈や可能性が広がり、自分の「行動」にも確信が持てるようになります。

実際のコーチングでは、クライアントやコーチの期待に反して「結果」が出ないことがあります。分かりやすい原因の一つは、クライアントの「行動」が伴わないことです。「行動」が伴わなければ、当然「結果」も出ないわけですが、コーチはクライアントの「行動」が伴っていないことが分かると、アドバイスを極力避けながらも、そのことをクライアントにフィードバックします。

もしも、クライアントがコーチのフィードバックに対して、素直に受け入れて「行動」すれば、再度、立て直すことができますが、様々な言い訳をして行動が伴わない場合は、理想の結果は期待できません。

行動するための目標のハードルが高すぎるのであれば、行動が伴うレベルに下げる必要があります。もしも、目標のハードルを下げても行動に移せない人は、ゴールに対する無意識的な「制限する信念」が背後にあることが多々有ります。ブレーキをかけたままで、自転車のペダルをこいでいるようなものです。

例えば、ライフコーチングで、よく遭遇するのは「結婚をしたい」、「子供を産みたい」というゴールがある場合、相手がいることなので、様々な制約もありますが、無意識的に結婚したり、出産したりすると、自分自身の「自由がなくなる」という制限する信念が背後にあるケースです。この場合、コーチは、クライアントが抱えている無意識的な制限する信念に対してサポートしなくてはなりません。

「結婚や出産で本当に自分の自由がなくなるのか?」「自分の自由とはどのようなことなのか?」「結婚して得られるものと失うもののバランスはどうなのか?」など。コーチはクライアントが今まで考えたことのない盲点にスポットライトを当て、新たな信念の可能性を引き出すサポートが必要になります。


そうして、無意識の心にスポットライトを当てることで、ブレーキを外して結婚する人もいれば、独身で満足している人もいます。どちらが幸せなのかは本人が決めることなのです。

2016年9月23日金曜日

連載9 コーチングがうまく 「機能するタイプ」と「機能しないタイプ」

「無意識」にアクセスする「コーチング」を目指して 連載

連載9 コーチングがうまく 「機能するタイプ」と「機能しないタイプ」

コーチングの基本的な目的は、「目的を達成したい!」「ある課題を解決したい!」「ある習慣を身に付けたい!」というクライアントの願望を実現するための支援です。支援する過程において、様々なコミュニケーションスキルが求められますが、コーチングの核心は、単なる「スキル」ではなく、クライアントの心の奥にある無意識にアクセスすることで、自己発見と気づきがもたらされ、それに伴って選択肢や可能性に広がりをもたらすことです。コーチングで大切なことは、クライアント自らが答えを見つけて、新たな人生の豊かさを発見し、自らの道を歩むことができるように、効果的に支援することです。

コーチングを効果的に行うためのコミュニケーションスキルは複数存在します。「傾聴」「承認」「質問」「要約」「フィードバッグ」は代表的なスキルとなります。このコミュニケーションをクライアントのタイプに合わせて上手に使い、互いの信頼関係が深まると、クライアントが心を開き、核心に触れるコーチングが展開されることが増えてきます。クライアントからは、様々な課題が提示されます。「何かの目標を改善したい」、「人間関係を改善したい」など、多くの場合は、「問題」にフォーカスするよりも、「解決」へと導かれるようにコーチが支援していきます。

コーチングがうまく機能しやすいタイプの人は、
  • 「コーチングで得たい成果が明確な人」
  • 「得たい成果と現状とのギャップが明確になっている人」
  • 「コーチを信頼して本音で話せる人」
  • 「自己矛盾に遭遇した際、積極的に自分に向き会おうとする人」
  • 「コーチからのアドバイスや答えを要求するのではなく、自分の中にある答えを積極的に引き出そうとする人」
  • 「素直にコーチからのフィードバックを受け入れられる人」


一方でコーチングが機能しにくいタイプの人は
  • 「コーチングで得たい成果が明確でない人」
  • 「得たい成果と現状とのギャップが明確になっていない人」
  • 「コーチとの信頼関係が希薄で建前でしか話せない人」
  • 「自己矛盾に遭遇した際、積極的に自分に向き会おうとせず、環境や他者のせいにする人」
  • 「コーチからのアドバイスや答えを期待して、自分の中にある答えを積極的に引き出そうとしない人」
  • 「素直にコーチからのフィードバックを受け入れられない人」
  • 行動を制限する信念に遭遇した際、柔軟に変えられない頑固な人


実際のコーチングのセッションでうまく機能する場合、コーチは「効果的な質問」をするだけで、クライアントは積極的に自分の中にある答えをどんどん引き出していきます。セッションを終えてみると、8割以上はクライアントが話していたということもあります。その一方で、コーチングのセッションでうまく機能しない場合は、コーチが多くを語り、アドバイスやコンサルティング的な説明に偏る傾向があるときです。クライアントはコーチに依存的になり、自らの責任を負わななくなる傾向が生じてしまいます。

コーチングでうまく機能するかどうかのポイントは、クライアントが本気でその目標に向き合う覚悟があるのかどうかという「コミットメント」です。そのコミットメントの度合いが最低でも半分以上なければ、ほとんどの場合うまく機能しません。もしも、クライアントに50%以上のコミットメントがあれば、コーチとの双方向のコミュニケーションを通じて、様々な視点からアイディアを出し合い、可能性を検討し、コーチはクライアントがスムーズに行動に移していける支援を行います。基本的に他人に強制しても、実際の行動には移り難いものです。クライアント自らが「決める」というところが大切なポイントになります。


2016年9月16日金曜日

連載8 視野を広げるためのクセづくり

「無意識」にアクセスする「コーチング」を目指して 連載

連載8 視野を広げるためのクセづくり

今まで「蟻の目」に偏った習慣が身についている人は、それが分かったからといって、すぐに「鷹の目」が習慣化するものではありません。「無意識」的に身についた心のクセですので、まずは、「蟻の目」の習慣でどのようなところが問題なのかをしっかりと認識することが必要になります。

もしも、「蟻の目」による問題が明確なのであれば、その習慣を変える必要もありませんし、「蟻の目」が必要な場合も多々あるはずです。まずは、ある問題に対しての「蟻の目」のメリットとデメリット、「鷹の目」のメリットとデメリットを整理することが必要かもしれません。「蟻の目」に偏る傾向のある人は、0か100か、あるいは白か黒かの思考グセもある方が多いようです。

人は何らかの「関係性」の中で生かされています。今、自分の置かれている立場での関係性を高い視座からみることも大切です。社会人であれば、家族の一員であり、会社の一員であり、町内会や自治会の一員、ジムの会員、PTAの一員、勉強会の一員など、さらに広くすると、市民の一員、県民の一員、国民の一員、アジアの一員、世界の一員、地球の一員など様々な関係性の中にいるはずです。

関係性のない人はいないはずです。何か問題がある場合、「蟻の目」から「鷹の目」に視野を広げる習慣を身に着けることで、見方、とらえ方、受け止め方に変化があるはずです。まずは、意識的に「鷹の目」の習慣を繰り返し訓練することです。自分が関係する立場を意識して、時間軸では過去の歴史を振り返り、未来の自分、すなわち生命が終わりを告げるまでを想像する。過去の歴史は変えることはできませんが、未来の自分は自由に予測することが可能です。難しく考えることはありません。脳のエクササイズだと思って気軽に思考訓練すると、知らず知らずの内に「鷹の目」の思考グセが身につくでしょう。

視野を広げるためのエクササイズをしてみましょう。

静かなところで、目を閉じて、心地よい姿勢を保ちましょう。
椅子に座っているかもしれませんし、座禅を組むように座っているかもしれません。
まずは、自分の呼吸に意識を集中しましょう。

最初は空間的な視野を広げていきましょう。
ゆっくりと呼吸をしながら、自分の身近な人間関係から漠然と意識していきましょう。
家族かもしれませんし、社内の関係かもしれませんし、何かのクラブやサークルの関係かもしれません。

この時、大事なのはいいとか悪いとかの判断や評価を入れないことです。ただ単に関係性を意識しましょう。

関係性をどんどん広げていきましょう、家族の一員、親戚の一員、社会の一員、地域の一員、市民の一員、県民の一員、国民の一員、アジアの一員、世界の一員、地球の一員、そして、最後は宇宙の一員かもしれません。

次は時間的な視野を広げていきましょう。

1年後の自分と周りとの関係、2年後の自分と周りとの関係、そして、5年後、10年後、15年後、20年後、30年後の自分と周りの関係性はどのようになっているでしょうか?
自分の年齢と合わせて自由に想像しましょう。


一般的に年齢を重ねるごとに否定的未来を想像しがちですが、肯定的な未来を想像するようにしましょう。

この視野を広げるためのエクササイズは1分以内に終わるかもしれませんし、5分ぐらいかかるかもしれません。ご自分のペースでゆっくりと行ってください。

毎日習慣化して、3ヶ月もすると、意識から無意識へと学習されて、自然に視野が広がるクセがついているでしょう。

2016年9月15日木曜日

連載7心の視野を広げるこつ

「無意識」にアクセスする「コーチング」を目指して 連載

連載7 心の視野を広げるこつ

慢性症状などの身体の問題や、人間関係などによる心の問題は、部分的な構造や機能、あるいは特定の人というよりも、全体的なシステムや「心の構造」に本質的な問題が隠れている場合が多くあります。連載6でご紹介したメジナという魚の例でいえば、いじめっ子のメジナが悪いのではなく、狭い水槽という構造が本質的な問題であって、水槽から広い海の中に移動すると生態系、すなわちシステムが変わって問題が解決するわけです。

生活環境というシステムが脳に与える影響については、動物実験でも研究されています。老齢のネズミを2つのグループに分けて、一方は遊具のたくさんある広い飼育環境かで活発的に生活させます。他方は非常に狭い空間の飼育環境下で生活させました。その結果、遊具が沢山ある飼育環境下でのネズミグループは、脳の細胞が増えていることが確認できたのです。要するに、狭い空間では心の視野も狭くなり、脳の細胞も活性化されずに衰えてくるのです。人間でいえば、外に出て運動したり、人と交流して会話を楽しんだり、好奇心をもって色々と勉強したりしたほうが、脳細胞がどんどん活性化するということです。

人間関係でいろいろと問題があると、引きこもりがちになります。そして、多くの場合、「怒り」、「悲しみ」など一つの感情にフォーカスしがちです。しかし、そこにフォーカスしても本質的な問題に変化は促されません。それよりも、その感情が引き出される「背景」や「心の構造」に注目して、客観的に自分の心を理解し、心の視座を高く、視野を広げることに注力した方が、ネガティブな感情から簡単に抜け出せるのです。例えば、「怒り」の感情の背後には「~すべき」「~ねばならない」といった自分が大事にしている信念が関係します。相手がいる場合は、相手の「~べき」と自分の「~べき」のルールの違いが分かるとさらに視野が広がりますし、自分が信じているルールはどこからきたのかがわかると、さらに視座が広がります。

ビジネスの世界でも、視野を広げるために、「鷹の目」、「蟻の目」で見ることの大切さが語られています。「鷹の目」とは、鷹が大空から眺めるように、大局から全体をとらえる見方です。「蟻の目」とは、細部に意識が向くように細かくものごとを見る見方です。どちらの見方も大切な見方ですが、「木を見て森を見ず」ということわざがあるように、「蟻の目」だけに偏って視野が狭くなる方に問題が生じる傾向があるようです。

視野を広げるためには、時間軸の長さも関係します。実際に目の前にある問題や成果は、今に至る数週間から数か月前に生じた出来事や行動の結果生じたものです。また、目の前に大きな問題、あるいは大きな成果があったとしても、数か月後、数年後、数十年後にそれが継続するとは限りません。常に時間と共に変化していますので、長期的に物事のとらえ方や受け止め方を幅広く見ることが大切になります。

2016年9月14日水曜日

連載6「調和」を引き出すために

無意識」にアクセスする「コーチング」を目指して 連載

連載6「調和」を引き出すために

心身の調和が乱れると「病気」になるということは一般的にも知られていることです。なのに病気という自分自身の中にある一部と闘うとさらに調和が乱れ「病気」のプロセスが進行して、病気の悪循環を起こしてしまうのではないでしょうか?長い臨床経験の中で、「病気」が治る過程をいくつも体験させていただいています。病気の一つの原因として、自分自身の中での「葛藤」があります。要するに、「頭で考える自分」と「腹の底で感じている自分」とが戦っているわけです。そこで、施術やコーチングを通じて、視野を広げていくことで、盲点が少なくなり、戦いに終わり告げ、病気も快復するという場合が多々あります。

東京海洋大客員助教授・さかなクンによると、メジナという魚を狭い世界に閉じ込めると、なぜかいじめが始まるというのです。『メジナは海の中で仲良く群れて泳いでいます。せまい水槽(すいそう)に一緒に入れたら、1匹を仲間はずれにして攻撃(こうげき)し始めたのです。けがしてかわいそうで、そのさかなを別の水槽に入れました。すると残ったメジナは別の1匹をいじめ始めました。助け出しても、また次のいじめられっ子が出てきます。いじめっ子を水槽から出しても新たないじめっ子があらわれます。広い海の中ならこんなことはないのに、小さな世界に閉じこめると、なぜかいじめが始まるのです。同じ場所にすみ、同じエサを食べる、同じ種類同士です。』と述べています。

心の状態も視野が狭くなると、秩序が不安定になり、自分の中で戦いが始まりやすくなるのです。「盲点」や「未知」の世界を広げて心の視野を広げることで、「自然体」に近づき、調和が引き出され、保たれやすくなるということです。情報があふれ過ぎている時代の中で、情報に振り回されて、自分を見失っている人も少なくはないのではないでしょうか?勇気をもって、もっと自分の無意識の世界に踏み入れて、隠れた自分の「盲点」や「未知」の世界を探索することがとても大切な時代になってきているようです。

2016年9月13日火曜日

連載5「自然体」になるにはどのようにすればなれるのか?

「無意識」にアクセスする「コーチング」を目指して 連載

連載5「自然体」になるにはどのようにすればなれるのか?

「自然体」とは、「意識」と「無意識」との調和によって生まれるもので、昔から心身統一という言葉が重要視されているように、心と身体との調和が自然体を創りだします。では、どうすれば「自然体」になれるのか?という疑問がわいてくるでしょう。これは難しい質問です。その人に応じて答えが違うかもしれませんし、答えがないかもしれません。ただ、言えることは、「自然体」は頭で考えて創り出すものではなく、流れに身をまかせた結果、「意識」と「無意識」との壁が取り除かれた結果得られるということです。頭で考える「意識」よりも、身体で感じる「無意識」の方が優位になっているときでもあります。そういつときは、自然に身を委ね、何かを手放して、あるがままの自分を感じ取り、すべてを受け入れているでしょう。これは東洋思想からくる発想です。

自然治癒力を引き出すことを主とした治療者の立場で、「人間」、「自然」、「健康」などを深く探求していると、調和とは裏腹な「病気と闘う」とか「闘病生活」という言葉に違和感を抱くようになります。自然にできた病気は自分の一部です。また、自分自身で創った病気です。その自分と闘うということは、互いに攻撃し合うということです。やるかやられえるかの世界には「調和」という概念はありません。「病気」で苦しんでいる人には申し訳ない気もありますが、西洋医学的な発想で、癌など悪いモノは排除するという思想に影響を強く受けているのだと思います。東洋医学の看板をだしていても、西洋医学的に癌を撲滅するというような発想をもっている治療者もいるので、一概に東洋と西洋で判断するのは難しいのですが、大切なのは人や病気をどのようにとらえているかだと思います。

病気があるとかないとかを超えた「調和」という考え方が前提にあり、その結果健康が保たれるということだと思います。

2016年9月10日土曜日

連載4「無意識」の領域は、いわゆる「盲点」や「未知」の領域を知る効果

「無意識」にアクセスする「コーチング」を目指して 連載

連載4「無意識」の領域は、いわゆる「盲点」や「未知」の領域を知る効果

 「ジョハリの窓」という心理学の分野でよく使われるモデルがあります。これは、対人関係などにおける「気づき」のグラフモデルです。このモデルは、アメリカの心理学者のジョセフ・ルフトとハリー・インガムによって開発され、二人の名前を組み合わせてジョハリと呼んでいます。ジョハリの窓は、4つの窓に分類されています。1番目の窓はオープン領域(開放の窓)で本人も他者も知っている領域です。

通常、この領域が大きければ、お互いに誤解が少なく、円滑なコミュニケーションができるようになります。2番目は、盲点の領域(盲点の窓)で、他者は知っているが、本人が知らない領域です。3番目は、隠された領域(秘密の窓)で、本人は知っているが、他人には見せない自分がいる領域で、この領域が大きすぎると他人とのコミュニケーションが不自然になりがちです。4番目の領域は、本人も他人も知らない領域(未知の窓)で、この領域が分かればわかるほど無限の可能性が広がります。

PCRTやコーチングのセッションで、クライアントがこのような自分自身の「盲点」や「未知」の領域を知りたいという前提があれば、自分の成長や変容につながる「気づき」が得られる機会が多くなります。その一方で、成長や変化を望んでいるが、自分の盲点領域に目を向けようとしない。あるいは、自分の盲点を認めようとしない人は、前に進むことが難しくなります。言葉では言わなくても、「自分のことは自分で分かっている」という態度や雰囲気が漂って、その領域に目を向けることに抵抗を感じる人もいます。

コーチングやPCRTで効果が引き出せない理由の一つが、この「盲点」や「未知」の領域に踏み出せないことです。これは、コーチとクライアントとの信頼関係が希薄であるとのと同時に、クライアント自身がその領域へ進むことに抵抗がある場合があります。私の臨床経験では、この「盲点」や「未知」の領域に進むことが素直にできる人は、自分の無意識を認識することで、本来の自分らしさが引き出されます。そして、肉体的にも精神的にも「自然体」を取り戻すという感覚が多くなるようです。

2016年9月8日木曜日

連載3「無意識の領域」にアクセスするとはどういうことでしょうか?

「無意識」にアクセスする「コーチング」を目指して 連載

連載3「無意識の領域」にアクセスするとはどういうことでしょうか?

通常の対話では「話の内容」に意識が向く傾向があります。また、多くの人はその話の内容によってコミュニケーションが成り立っていると判断しがちですが、実は顔の仕草や無意識的な表情、または身体的なボディーランゲージに多くの影響を受けるのです。これは、アメリカの心理学者、アルバート・メラビアンが提唱した「メラビアンの法則」として広く知られており、言葉(言葉の意味)=7%、声のトーン(大きさ、質、話し方)=38%、態度(雰囲気、表情、動作など)=55%といわれており、人は、話の内容よりも、声のトーンやボディーランゲージの影響を受けるのです。要するに、言葉の内容=「意識」の領域、声のトーンやボディーランゲージ=「無意識」の領域であり、多くの人は「無意識」に影響を受けており、「無意識」がその人の行動を司っているということです。

この「無意識」の領域は、自分の体臭が自分ではわかりにくいように、自分では認識し難いもので、コーチングや施術などのセッションを通して、本人が気づきがたい「無意識」の部分をフィードバックすることで、意識していないもう一人の無意識の自分に気づくことができます。コーチがクライアントに代わって、「無意識」の部分を言語化してフィードバックすることも大切ですが、もっと大切なのは本人自身が自ら「無意識」の自分に気づくことです。クライアント自身が「気づく」ために、コーチは「間」を大切にしながら、「待つ」というスキルも求められます。この「待つ」というスキルは簡単なようで以外に難しいものです。対話の中でコーチが先にクライアントの盲点に気づいて、ついつい答えを言ってしまいたくなる衝動に駆られてしまうときがあるのです。コーチはクライアントに寄り添いながら「じっと待つ」という「間」を大切にしながら、クライアント自らが気づくプロセスをサポートしていくのです。

2016年9月7日水曜日

連載2 「気づく」とは、どういうことでしょうか?

「無意識」にアクセスする「コーチング」を目指して 連載

連載2「気づく」とは、どういうことでしょうか?

「気づく」とは、今まで意識していない領域に足を踏み入れた際に生じます。もしも、「意識」と「無意識」に壁があるとすれば、その壁が壊れて、「意識」と「無意識」の領域の風通しが良くなり、暗闇だった領域にスポットライトが当てられ、何気なく「気づく」といった感じではないでしょうか?「気づき」がもたらされる場合、それぞれに様々な過程があるようです。大きく分けると二つのパターンがあります。一つ目は対話の中で質問という「刺激」を受けて、ふとした瞬間に「気づく」というパターン。二つ目は質問を受けて、「混乱」の後、しばらくして「気づき」が得られるバターン。「混乱」をネガティブな感情としてとらえる人もいますが、「混乱」は「気づき」を得るための、大切な思考のプロセスになるでしょう。

コーチングを「意識的」、あるいは「意図的」に使いすぎると、脳の表層部分にある「理性」が制限して、脳の深層部分となる「感性」的な本音に近い心理が引き出されなくなる傾向があります。要するにマニュアル的に使うと、その意図が相手にも伝わり、心が閉ざされて建前だけで対話が進行して大切な「気づき」が得られなくなります。私も最初にコーチングを学び始めた頃は、いわゆる「型」、すなわちマニュアルから入ったわけですが、何か相手の心の壁を感じてしまうことがありました。今では、臨床現場での患者さんとの対話や質問をする際、意識的ではなく無意識的にコーチング技法を知らず知らずのうちに使っています。相手のペースに合わせて自然体で接することが多くなっています。

臨床現場やコーチングで私がいつも大事にしているのは、表面的な技法ではなく、深層的な「無意識」領域へのアプローチです。PCRTという心身相関のテーマを長年研究してきたこともあり、こころの「無意識」領域の扱いには慣れてはいましたが、コーチングの技法を学ぶことで、さらに「無意識」領域へのアプローチが知らず知らずの内に幅広くなったようにも思います。このように「無意識」的に幅広くアプローチすることで、相手の無意識の領域にアクセスすることが容易になり、相手が「何気なく気づく」という瞬間が増えているように思います。

2016年9月6日火曜日

連載1 コーチングの背後にある心理的側面のスキル

「無意識」にアクセスする「コーチング」を目指して 連載

連載1 コーチングの背後にある心理的側面のスキル

コーチングにはいろいろな種類があります。形式的には、個人を対象にする「パーソナルコーチング」、複数のグループやチームを対象とする「チームコーチング」、そして、自分自身を対象にする「セルフコーチング」です。内容的には、「ライフコーチング」、「ビジネスコーチング」、「リーダーコーチング」、「スポーツコーチング」などです。方法論的には、「インナーゲーム」、「ボジティブ心理学」、「NLP」、「オントロジカルコーチング」、「コ―アクティブコーチング」などです。

日本でもコーチングが広がりつつあるようですが、まだまだ多くの人の認識はスポーツのコーチという印象が強いのではないでしょうか?コーチングのコーチは何かを指導してくれる「コンサルティング」、あるいは何か役立つ知恵を授けてくれる「メンター」のような意味合いでとらえている人も少なくはないのではないでしょうか?日本ではまだまだ、「対話を通じてクライエントの自己実現や目標達成を支援する技法」という認識はあまりされていないようです。また、日本のコーチング関連書籍ではコーチングのスキルとしての基本であるコミュニケーションスキルが主に強調されている傾向もあるように感じます。

コーチングでは「心理的側面」を扱うスキルが要求されるので、効果を引き出すために基本的な対面技法として、傾聴、フィードバック、質問、提案などの様々な技法を学びます。しかし、肝心なところ、すなわち本質的な効果が引き出されるのは、表面的な技法よりも深いところの技法ではないでしょうか。深いところとは、人間の深層的な心理面に関係することなのですが、表面的な「意識」あるいは心理面を扱うのではなく、「無意識」の深層心理のところにアクセスできるかどうかが要で、その領域にさりげなく触れていくことで、さらなる成長や変容を促すコーチングが引き出されるようです。

また、コーチングの成果の多くは、思わぬところから転じることが多々あります。一つのマニュアルにそってコーチングをすすめて、期待通りの成果がでる場合もあります。しかし、人間の深層心理はそれほど単純ではありません。セッションや施術を通じて、コーチとクライエントとの信頼関係が深くなることで、今まで触れることのなかった「盲点」にスポットライトが当てられて、ふとしたきっかけでクライエントの「気づき」が引き出されるということがあります。その時、クライアントにとっては、大きな変化、変容へとつながる傾向にあります。

2016年9月1日木曜日

投球恐怖症、イップスの改善例とその注意点

経緯

14歳の中学生男子、野球部に所属しており、ピッチャー希望ではあるが、ファーストも守っているらしい。一週間前からほとんどのスローイングができなくなったとのことで、最初はお父様からの電話で問い合わせがあり、スタッフに当院でのイップスの改善事例などを尋ねたらしい。小学2年生の頃から野球を初めているとのことで、詳しく聞いてみると、以前からイップスの徴候があったようだ。お父さんもイップスの経験があり、相当に悩まれたらしい。また、お兄さんも高校二年生のときからイップスを発症し苦しんだという。お父様は、自分や長男の経験から次男はもう野球は止めなければならないだろうと心配しつつも、何とかイップスを治す方法はないものかとインターネットで検索し、当院にたどり着いたらしい。

1回目の施術

まずは、身体的なエネルギーブロックの検査で、頭部全体の反応点に陽性反応が示された。送球イメージの検査でも陽性反応。興味深かったのはすべての送球で陽性反応が示されたことだった。問診でもすべての送球で投げることができないとのことだったが、一応、生体反応検査法で確認した。すべての送球に関する検査で陽性反応を示すイップス患者は、比較的珍しい方で、もしも、イップスに程度があるとすれば、重症の部類に入るだろう。
PCRTの検査では、大脳辺縁系→信念に反応が示され、信念チャートの検査で、いくつかのキーワードで反応が示され、PCRTのプロトコルに従って施術を行った。

2回目の施術(前回施術から3日後)

1回目の施術後には、お父さんとキャッチボールをしてみたらしく、お父さんによるとある程度治っていたのでそのときは安心したらしい。でも、ボールが浮く感じがあるとのこと。大脳辺縁系→信念という検査結果から、信念チャートで示されたいくつかのキーワードで施術を行った。また、イップスの患者に陥りやすい、スローイングのフォームはこうあるべきといった、いわゆる「技術論」に意識を向け過ぎた誤作動記憶が示されたので、「技術論」に意識を向け過ぎる弊害を分かりやすく説明し、意味記憶と合わせて切り替えた。

3回目の施術(前回施術から4日後)

前回の施術から数日で試合があり、その試合にピッチャーとして先発で登板。しかし、一回で交代させられたらしい。「えっ先発したの・・・」という感じだったが、恐らく、ある程度イップスの症状も改善され、監督さんも先発で起用できると判断したのだろう。思うように投げることができずに、監督に交代させられ、後でひどく叱られたという。2週間前にほとんど投げられない状態から2回の治療で、いきなり先発投手を務めるのは早すぎたかな~と思ったが、その経験も誤作動記憶を引き出すうえでは必要だったかもしれない。その試合を振り返りながらピッチングを想像してもらうと誤作動記憶の反応が示されたので、PCRTのプロトコルに従って施術を行った。このとき印象的だったのは、自分の理想のピッチングのイメージができないことだった。自分のベストな投球をイメージしてみるように促すと多くの投手は想像できる。今まで理想の投球をイメージする訓練はしたことがなかったのだろう。そこで、「プロの選手でも先輩でもいいから、理想のピッチャーを想像してみて・・・」と質問すると、2つ年上の先輩のピッチャーが自分の理想としてでてきた。モデルとなるピッチャーを自分に置き換えて、あたかもその理想のモデルのように自分が投球している想像をするように促した。そして、生体反応検査法を行うと、不一致の反応が示されないので、そのイメージを使ってエピソード記憶の施術を施した。さらには自分の理想となる先輩のように投げている自分自身のイメージトレーニングもアドバイスした。

4回目の施術(前回施術から2日後)

初診時から反応が示されていた頭部全体の反応点の検査では、すべて陰性反応が示されていた。キャッチボールやピッチングでも陰性反応が示され、かなり誤作動記憶が改善されていた。他に違和感のある場面を本人に尋ねてみると、大分改善されているが、ノックでゴロがきてホーム(キャッチャー)に投げる際に違和感があるという。検査をしてみると「恐れ」というキーワードが示された。思い当たる「恐れ」を尋ねてみると、送球の際、ノッカーや後ろの人に当てるのではないか、さらには、もしも、暴投したり、人に当てたりすると、周りからどのように思われるかが恐れになっていた。PCRTのプロトコルに従って「恐れ」に関係する誤作動記憶を消去した。治療を終えて、付き添いのお父さんに聞いてみると、最初に比べると随分よくなっているとのこと。最初に電話で応対してくれたスタッフの言葉を信じてよかったと喜んでおられた。

考察

4回目の施術から2週間ほど来院がないので、恐らく改善されているのだろう。もしかすると、まだ、どこかに誤作動記憶が隠れているかもしれないが、改善した経験も踏まえて、問題があれば来院してくれるだろう。お父様によれば、監督さんがとても厳しい方で、その影響もあるのではないかと心配されていたが、生体反応検査法では、監督さん関係の誤作動記憶は示されなかった。イップスの症状を発症してしまうと、多くの選手が「技術論」に救いを求める傾向にある。イップスで治療に来られる選手には毎回のように説明する内容だが、イップスは「技術論」で治るものではない。治らないどころが、技術に目を向け過ぎると治りが悪くなる。イップスは「意識」と「無意識」の不調和によるもので、特に「意識」という「理性」による判断が「無意識」の「感性」、「本能」、「身体」をぎこちなくする。「意識」の部分が「無意識」に向かって、フォームや技術をああしろ、こうしろと命令すればするほど、「無意識」がいうことをきかなくなり悪循環に陥る。イップスを克服するためには、まずは、「無意識」の心の状態を知ることが第一で、そこに「判断」を入れずに、ありのままを受け入れるこが重要である。そして、「どのように投げる」よりも「何のために投げる」ということを念頭に整理して投げることが大切である。身体はその目的に応じて、必要なフォームで投げてくれるはずだ。特に周りの指導者は技術的な指導に注目しがちになる。それも選手にうまくなってほしいという純粋な気持ちからなのだが、技術論に走り過ぎて、成長の芽を摘む危険をはらむので注意が必要だ。技術論が大切な場合もあるかもしれない。でも、「どのように○○しなさい」というよりも、「なんのために○○するのか」という質問を相手に投げかけた方が、数倍上達が早まるだろう。それはなぜだろうか?言うまでもないが、本人が主体的にその行動の目的を考えることが大切だからであるまた、人それぞれに体型や性格も違うので、ベストの技術というのはそれぞれに様々である。結果的に本人自身が苦労して紡ぎ出した技術がベストであって、ベストな技術が最初からあるものではないだろう。
イップスを克服するために、「意識」的に技術(フォーム)を「外」から部分的に変えようする傾向にあるが、多くの場合、それはうまく改善されないどころか、不自然になり、本来の能力が引き出されなくなり、足かせにもなる。イップスを本質的に治すためには、「無意識」的な全体像にアプローチすることが大切である。つまり、「内」から全体的に変えていかなければならない。例えば、ピッチャーであれば、「どのように投げるか」よりも「どんな球を投げたいか」という質問の方が、「意識」から「無意識」へ、「部分」から「全体」へ意識が向きやすくなる。多くの投手は、「伸びるような球を投げたい」という答えが返ってくる。すると、脳(無意識)では、伸びる球を投げるために自然にフォームを創るので、イップスという誤作動が入る余地がなくなる。
「理屈でうまくなる」というよりも「自然にうまくなる」という経験を多くのスポーツ選手が体験しているだろう。「自然にうまくなる」選手の多くは、目的意識が明確にあるようだ。目的が明確になることで、身体は無意識に自然に働いてくれる。目的が不明瞭なのに、身体を部分的に意識でコントロールしようとしても、無意識の脳は全体的に不調和を示すだろう。いくら脳の記憶装置が優れていても、入ってくるデータが不明瞭では、脳の計算処理が混乱して「正しい答え」がでてこなくなる。すると全身の筋肉に伝えられる指令が混線してミスも多くなる。要するに身体の筋肉の一部は「意識」的にコントロールすることができるが、全体の筋肉を「意識」的にコントロールすることはできない。全体をコントロールしているのは「無意識」的な脳であって、指、肘、肩、腰のように部分を同時に「意識」でコントロールすることはできない。
イップスを改善するためには、「外」から「内」へ、「意識」から「無意識」へ、そして、「部分」から「全体」へという考え方が大切になる。また、イップスを治すためには単に肉体へのアプローチや技術的なアプローチ、あるいは精神論的なアプローチだけではなく、心身相関という肉体面と心理面との関係性でアプローチすることが大切で、その背後にはコーチングのコンセプトや技法が使われている。