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2019年7月13日土曜日

パフォーマンスを下げる興味深いパターン(誤作動記憶)

先日、バドミントン選手の施術をさせていただいて、とても興味深いパフォーマンスの問題が判明しました。患者さんもその気づきを得て、なるほどとすごく納得していました。以前から利用していただいている選手でカナダでの国際試合から帰国してすぐに来院していただきました。いつものように関節や筋肉の調整の後、患者さんから前回の試合で、得点をリードしていたのに追いつかれて逆転されて負けたので何かパフォーマンスに問題がなかったか検査をしてほしいとのことで、検査をすると誤作動記憶の陽性反応が示されました。

このパフォーマンスの誤作動記憶という意味は、本来の実力が引き出されていなかったという意味です。そこには無意識的な「心のクセ」が隠れていました。まず、ある程度点差が開いていたにも関わらず点差が縮まってきた場面を想像してもらいました。そこで生体反応検査法(PRT)を行うと陽性反応が示されました。無意識に関連するキーワードを検査すると「慈悲心」というキーワードが示されました。最初はそのキーワードにどのような関係性があるのか分かりませんでした。相手の選手に慈悲の心が生じたということなのですが、よくよく思い起こすと以前にもそのようなキーワードが示されていました。

それは、対戦相手が先輩のケースで示された「慈悲心」でした。勝負の世界なので相手を負かすということは当たり前のことと頭では理解していても、無意識の心は、先輩を負かしてしまうと悪い、先輩は尊重しなければ・・・というような錯覚に脳が陥っていたようです。その時は、先輩であろうが真剣勝負で全力で戦うことが相手を敬うことであり、先輩を尊重することだという気づきを得ました。そして、試合以外の活動では先輩として敬意を払い先輩を敬うことを大切にする・・・ということで整理がついていたようでした。

今回は、先輩でもない海外の相手なのにどうして?ということで、いろいろと考察されていました。すると、自分よりも格下の選手と練習する際、自分が本気で対戦すると相手の練習にならないので、相手にとって練習になるように少し手を抜くように練習しているとのこと。恐らく、本番の試合でも、ある程度点差をリードした際に、そのパターン(誤作動記憶)が出たのかもしれないと振り返っていました。そして、今後は、相手が格下の選手でも全力で対戦して練習することが相手のためにもなり、相手を尊重することでもあるのだという考え方を整理して、パフォーマンスを下げる「心のクセ」を切り替えていきたいというようなことを話されていました。

人を思いやる心の優しさから生じる無意識のパフォーマンスの低下でしたが、小学生3年生の頃から来院されている選手であるがゆえに、このパターンがもたらす影響はよくわかります。勝つために試合をしているはずなのですが、無意識の心のどこかで相手を負かすことにブレーキをかけてしまうのでしょう。「強くなければ生きていけない、優しくなければ生きる資格が無い」という何かのセリフを思い出しますが、勝負の世界では、真剣勝負で全力を尽くすことに純粋な美しさが育まれると思いますし、勝っても負けてもそこには「成長」という未来が待っているのだと私は感じました。

2018年10月11日木曜日

健全な記憶の神経回路に書き換えて慢性症状を改善させる

健全な記憶の神経回路に書き換えて慢性症状を改善させる

2000年に神経系の情報伝達に関する発見の功績によりノーベル生理学・医学賞を受賞したエリック・カンデル教授は、「記憶」をテーマに研究を進めてきた神経生理学領域の第一人者の一人です。彼は幼少期にホロコーストに遭遇した経験から最初は精神医学、精神分析に興味を持ちました。その後、精神分析の根幹は何かという問いに対して、「記憶」というテーマが浮かび上がって脳の生理学的研究へと進んでいきました。

カンデル教授は、単純な神経システムを持つアメフラシを用いて記憶の分子メカニズムを次々と明らかにしていきました。アメルフラシは単純な無脊椎動物です。その非陳述記憶のメカニズムは基本的なところでは人間とそれほど違いはないといわれています。非陳述記憶とは身体で覚える記憶で、自転車の乗り方を自然に覚えていくような記憶です。頭で覚える陳述記憶はアメフラシにはありませんが、アメフラシの非陳述記憶の研究成果が人間にも通じるということを考えると非常にワクワクします。

カンデル教授は画像診断技術の発展に伴って、長期記憶に関わる神経回路の生物学的構造変化をライブ映像で示すことに成功しました。ライブ映像では長期記憶に関係する神経の枝が伸びていく様子を目で確認することができます。私たちが慢性症状に対する誤作動記憶の調整を行う際、患者さんに「新しい健全な記憶に書き換える」という説明を行っています。慢性症状を創り出す記憶の神経回路から健全な記憶の神経回路に書き換えて症状改善を促します。慢性症状で治る自信を失った患者さんにとって、このような最新の研究成果は治ることへの勇気付けになるのではないでしょうか。

繰り返される身体的な慢性症状や人間関係の問題やパフォーマンスの低下などは、すべて私たちの「記憶」が関係します。つまり、脳が私たちの経験を記録し、また、その経験に上書きして保存するという能力に関係しているのです。記憶は私たちの生活を豊かにし、社会や他者とのつながり、自己成長にはなくてはならない機能です。今後もさらに研鑽を重ねながら、多くの患者さんの健康の貢献できるように、健全な記憶の神経回路を上書きして慢性症状の改善にお役に立てればと願います。

まだ未開拓の脳科学の分野において「記憶」の研究は一番進んでいるようで、慢性症状が脳の「誤作動記憶」に関係するということをテーマにしている治療家にとって、臨床の成果を裏付けしてくれる研究がさらに進められることに大きな期待を寄せています。

2017年5月9日火曜日

痛みの「記憶」で痛みが再現する患者さん シリーズ2

痛みの「記憶」で痛みが再現する患者さん シリーズ2

一週間後、2回目の施術に来院。

【問診】
術者「どうでしたか?」
「え〜まだ痛いですけど、いただいた資料を読んで、前回言われたことがわかるような気がします(笑)」
術者:「そうですか?それは良かった・・・」「今日も座って施術をした方がいいですか?」
患者:「いいえ、今日は大丈夫だと思います・・」
術者:「そうですか・・・それではベッドをゆっくり倒していきましょう。(内心、イタタターと、前回のように言われるのではないかと不安を感じながら・・・)
「大丈夫そうですね・・・」
患者:「はい、大丈夫ですね」
術者:前回「痛い時と痛くない時あるという話をしたと思いますが、改めてどんな時に痛みが強くなりますか」
この時、術者は患者の足元で、患者と会話をしながらPRT(生体反応検査法)を行う。
患者:「何もすることがない時(目的がない時)に痛いですね。さっきもこちらに来る時、バスの運転手さんと話しているときは何も痛くなかったですからね・・・」
術者:「なるほど・・」「では、何もすることがない時の記憶で身体が過敏反応を示しているようですので、そのときの記憶(目的がない時)を思い出してもらい施術をさせてもらいます。」
PCRT呼吸振動法を施す。
術者:「ほかにどん時に痛みを感じていますか」
患者:「そうですね。お稽古の時は痛くないのですよね・・・」
術者:「その話をしている時に検査(PRT)してみると、身体が反応していますね・・・」
患者:「そうですか?・・・同好会の役員をしているので、もしかするとそのことがストレスになっているかもしれませんね・・・」
術者:「同好会の役員の話をされている時は、身体が反応していませんね。そのときも同じようにお稽古されるのですか?」「先ほどのお稽古とどう違うのでしょうか?」
患者:「先ほどのお稽古(陽性反応)は、師匠に習うお稽古で、同好会のお稽古(陰性反応)は、習うというより、好きな人が集まって自分たちで行うお稽古です・・」
術者:「なるほど、それでは、師匠から習うお稽古でなぜ、身体が過敏反応を示しているのか調べてみましょうか・・・」
PCRT誤作動記憶チャートで検査
術者:「『自尊心』というキーワードで陽性反応が示されましたね。何かのプライドに関係することですが、何か思い当たることはありますか・・・」
患者:「・・・そうですね。お稽古はもう70年以上もやっていますから、そういう意味では他の人と比べて、経験者であるという自負はあると思います・・・また、周りからもそのような目でみられていますから・・・」
術者:なるほど、そのことで身体も反応を示しているようですので、その誤作動の記憶を思ってもらいながら調整しましょう。
PCRT呼吸振動法を施す。
その後のアクティベータ療法に切り替えて施術を始める。施術を終える途中から、
患者:「あ〜だんだんと痛みが楽になってきた。」
術者:「それは、良かった。普通、多くの患者さんで、治療するとすぐに痛みが消えたり軽減したりするので、このように、痛みが改善されるということをしっかりと覚えておいていください。そして、自分の身体が、このような治療で治るのだということを信じてもらえるといいですね・・・」

【考察】
本症例は2回目の施術を終えて、まだ途中経過だが、この調子で施術を継続してもらえると改善方向にむかうことが予測できる。通常は、アクティベータ療法から先に行なって、PCRTへと進むケースが多いが、本症例は、患者の痛みの記憶が強く、通常の施術ができる状態ではなかったので、PCRTを様々な角度から応用して、通常の施術で施術効果を感じていただいた。おそらく、次回からは通常通り、アクティベータ療法でハード面の調整を行い、PCRTのソフト面調整法へと進めていけるだろう。
初回で、「・・・痛くなってもらえますか?」という質問をして、拍子抜けした様子だったが、ユーモラスな会話も交えながら、患者さんの痛みに寄り添うことができたように感じられた。初回の検査や説明で、通常の時間をオーバーしてしまい、後の予約の患者さんたちにご迷惑をお掛けして申し訳なかったが、改めて、患者さんの痛みをしっかりと理解して問診し、わかりやすく説明することの大切さを感じさせられた。
特に病院で脊柱管狭窄症と診断されたということを気にされていた際に「レントゲン写真だけで痛みの原因が判断できるのですか?」という質問もした。すると患者さんは、「はっ・・」と何かを気づかれた様子で、そのことで不安が変わったと2回目の施術の際にもその時の「気づき」について話されていた。患者さんに「レントゲン写真は瞬間的撮影された骨格の写真なので、痛みを表している訳ではありません」と教えるというよりも、「気づき」を与えるコーチング的質問で患者さん自らが気づいていただく方が大切だと改めて振り返ることができた。
通常の病院とは異なり、我々のような施術者に対して、患者さんは様々な期待を抱く。時には、魔法のように瞬時に痛みをとってくれる人だと期待されている人もいるかもしれない。私たちはそのような幅広い期待をしっかりと管理し、そこに齟齬が生じないように努めなければならない。「何ができて何ができないのか」をわかりやすく説明して、「それぞれの患者さんのためにできることは何か」を常に考えながら臨機応変に対応することが大切だろう。


2017年5月8日月曜日

痛みの「記憶」で痛みが再現する患者さん シリーズ1

「記憶」で痛みが再現する患者さん シリーズ1

90歳、女性、趣味で能の舞台にでていて、長年お稽古をされているとのこと。今は痛みのために休んでいる。痛みは七週間前に発症。発症から三週間後に病院を受診。腰部脊柱管狭窄症ではないかということで、痛み止めの薬を処方される。当院を利用していただい方から紹介される。20年ほど前には右膝の手術で入院された経験があり、それ以来、カートを引いて歩いているとのこと。バスに乗っていて、突然痛くなり、思い当たる原因はわからないという。痛みは常に有り、軽減するときはない。症状の経過はだんだんと悪くなってきているとのこと。

早く痛みから解放されたいという思いは伝わってくるが、その手助けをさせてもらう施術者にとって、本当の原因はどこにあるのかを患者さんとともに考えていく必要がある。問診でのやり取りの中で、腰部脊柱管狭窄症の診断は、レントゲン検査だけなので、まだ確定している訳ではなく、MRIなどの検査もした方が良いと言われたらしい。患者さんが「腰部脊柱管狭窄症でなければいいのだけれども・・」と繰り返し訴えるのが気にかかった。

施術テーブルに横になってもらい、常に痛いと訴える痛みの状態を聞いてみると、今はそんなに痛くないという。最も痛い状態が10としたら4ぐらいだという。左股関節の可動域を検査しながら、どんな時に痛みが強くなるのですかと痛みの状態を具体的に尋ねてみると、「・・・アイタタタタ・・・」と急に痛みが強くなった様子。この痛みは通常の性質ではないと感じ、椅子に座ってもらうことを提案。患者さんは我慢できるといわれたが施術テーブルを起こして、椅子に座ってもらった。「痛みが強くなる時は、いつもこんな感じですか・・・」と尋ねると、「そうです・・・」という。では、「どんなときに痛みが軽減するのですか?」と尋ねると、「何か楽しいことをしているときには痛みを忘れている」という。「例えば・・・・のときです。」、患者さんが話をされている途中から「あら、いま痛くなくなった」という。

痛くなくなるときのことを患者さんがしばらく話され、私が「この痛みは患部(痛みの部位)から痛み信号がでるのではなく、脳で痛みを感じている可能性がありますね。もしも、身体の構造的な異常が原因であれば、痛くない時を意識しただけでは痛みが軽減しないですよね・・・」と話すと、患者さんも半信半疑ながらもそのことを理解された様子。それでは、「もう一度、痛みの部位を意識して痛くなってもらえますか?・・・」と痛みの根源を探るためにあえて質問した。すると、「え〜、ちょっと難しいですね(笑)・・・」と言いながらも、「・・・あ、また、痛くなった・・・」と顔をしかめた。

「身体を動かしていないのに痛みがでたり、軽減したりするのは、身体の構造の問題ではないということをある程度理解していただいたでしょうか・・・」と尋ねると、患者さんはしきりに「腰部脊柱管狭窄症でなければいいのだけれども・・」と心配そうにいう。病院の診断に執われているのだと感じ、「高齢であれば、だんだんと骨が変形して、病院で脊柱管狭窄症と診断される人も多いのですが、その骨の変形と痛みとが無関係であることがたくさんの研究で分かっているから心配ないですよ・・」などと、できるだけわかりやすく説明すると、ようやく納得された様子だった。

このようなストーリーを聞くと、意識を変えれば治るのではないかと思われがちだが、そんな単純なことではない。いわゆる「暗示」も関係している可能性もある訳だが「痛いの痛いの飛んでいけ!」とおまじないのように意識を変えるだけでこの痛みが消える訳ではない。この痛みの発生の仕方から明らかなのは、痛みを引き起こすプログラム(神経回路)が脳に記憶されていて、何らかの条件付けで痛み信号が発生するということである。そして、この痛みを引き起こすプログラムには、無意識的な心理面が条件付けされているということ。このようなプログラムをPCRTでは「誤作動記憶」として施術を行う。

どのような条件付けが背後にあるのかを検査するためには、患者さんがその意図を理解し信頼してくださるかが大きなカギとなるだろう。まずは、通常の医療とは異なる「脳の記憶を上書きする治療法」の考え方を理解してもらうことが必要である。患者さんにどの程度理解してもらえるかは定かではないが、今回初めての施術で、痛みの原因の一つが、脳の「記憶」によって引き出されているということは理解していただいた様子だった。


(次号に続く)