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2018年12月17日月曜日

卓球イップス 動画の影響を受ける

30代の男性が卓球イップスの症状で来院。今まで出会った卓球選手にしてはがっちりした体格だった。見るからにパワーが溢れている感じの一方で優しい顔立ちをしている。症状は5〜6年前から始まったらしい。その頃から自分の理想の卓球ができなくて、悩みが多いとのこと。以前はBランクだったのに現在はDランクに下がっているという。普段の日常生活には支障はないが、特に試合の時には症状が顕著で、経過としては良くなったり悪くなったりしているという。

イップスの症状を抱えている患者さんの場合、肉体的な機能異常に加えて、メンタル面との関係性を調整しなければならないので、時間の都合で二枠の予約を頂いて進めさせていただいている。本症例の患者さんも二枠の予約で初回を含めて、7回調整させていただいた。7回の間に、以前から抱えていた膝の問題も調整させていただき、順調に改善されている。いくつかの過去の誤作動記憶もうまく調整され、ご本人も改善を実感されていた様子。

まだ、調整途中ではあるが、7回目の誤作動記憶の原因が、これから遭遇する可能性のあるパターンだなと感じたのでご紹介したい。本症例では試合の際のパターンと、フォアサーブ、バックハンドが主なイップス症状だったが、ゆっくりとした球を打つ際に手が震えていると周りの選手に指摘されるという。その場面をイメージすると確かに誤作動の陽性反応が示される。

PCRTのプロトコルに沿って検査を進めていくと、大脳皮質系⇨意味記憶⇨情報と示されたので、「その症状の原因の一つで、何か外からの情報を入れることで、その情報を信じていることで影響を受けている可能性があるのですが、何か心当たりはありませんか・・」と質問させていただいた。患者さんはしばらく考えて、「・・・ん、もしかしてこれかな・・」と想像してもらいながら検査をすると、陽性反応が示された。

「それは影響しているようですけど、どんな情報ですか・・」と尋ねると、「卓球の動画です・・・」という。ある卓球の選手の動画のフォームを研究してそれに近づこうとして練習していたが、何か自分には合わないということを何となく気づいていたらしい。最近は動画を簡単に見ることができる時代なので、それを見ながら研究して自分のパフォーマンスを改善しようとしているスポーツ選手が増えてきているようだ。

イップスの原因に関して言えば、以前はコーチ指導による情報が多かったが、これからは動画映像、あるいは指導による情報の影響も増えるのではないかと予測される。コーチからの直接指導、あるいは動画による間接的な指導であれ、その情報が自分にあっているかどうかがとても重要である。「たとえ理想の選手がいいフォームでいい結果を出しているからといって、そのフォームが自分に合っているかどうかは分からない。」ということは理解しておいた方がいいだろう。理想の選手のフォームは参考にしても、そこから自分の合ったフォームを自分で体得することが大切である。

本症例の患者さんは、内面的な心の動きも分かりやすく話してくださり、心身相関の理屈やPCRTの治療理論もスマートに理解される方なので、施術がスムーズに進行している。西洋医学の診断や方法論が主流になっている現状において、このような新しい治療法の理論や意図を理解していただけるのは非常にありがたい。

2018年12月12日水曜日

送球イップスから腕の局所性ジストニア

はじめに

二十代女性、5年ほど前に、ソフトボール部に所属しており、そのころから送球が上手くできなくなっていた。その頃から送球イップスの症状を抱えていたが、引退後も腕をゆっくり上げようとすると、腕が勝手に早く動くようになり、自動販売機で腕を使うときなどには支障があるとのこと。特に意識して何かをしようとしたときに悪化する傾向にあり、だんだんと悪くなってきているような気がするらしい。

目安検査

最初にどのような症状なのか再現してもらう。片方だけ観察すると分かりにくいが、左右、同じスピードで腕を挙上してもらい比較すると、明らかに右腕が早く挙上してしまう。本人が言われるように、勝手に早く腕が動いてしまう症状がある。珍しい症例かもしれないが、局所性ジストニアで経過から予測すると心因性ジストニアの疑いがある。また、仰向けに寝た状態では症状が再現されないが、座位や立位姿勢では症状が再現されるのもジスニア症状の特徴の一つである。調整前の機能評価では現在の症状がPRTで9レベル、メンタル系がPRTで9レベルだった。

1回目の調整

最初はアクティベータ療法で、ハード面の検査調整を行う。脊柱と右肩関節関連に陽性反応。右小脳機能に陽性反応が示された。PCRTのソフト面調整では大脳辺縁系レベルで2つのキーワードが示され、それに関連する内容を質問して誤作動記憶を引き出し調整する。調整後は、現在の症状はPRTで5レベル。メンタル系では1レベルまで下がった。施術後に問題の動作を試してもらったが、顕著な変化は見られなかった。

2回目の調整

最初に1回目の施術からジストニアの症状がどのように変化しているのか試してもらった。1回目と同様に顕著な変化は見られなかった。症状の機能評価は9レベル。メンタル系が8レベル。アレルギー系が9レベル。アレルギー系は前回反応が示されなかったので、「なぜ?」と内心思った。

3層構造のチャートで検査を進めていくと「聴覚」→時系列→過去→8年前→お父さんの声で反応が示された。もしかすると、これがアレルギー系(五感適応系)の反応なのかなと思った。でも、なぜ、前回は示されなかったのだろうと考えると、前回はお父様が付き添いで一緒に来られていたので、無意識がその部分を解放せずにブロックしていたのだろうと納得した。お父さんに関係する声の内容は2つあり、過去の誤作動記憶が陽性反応として示されていたなので調整を行なった。

その後、検査を進めると、「執着心」に関係する内容が2つほど示されていたので、その誤作動記憶の調整も行なった。施術後の目安検査でメンタル系はレベル1まで下がった。調整後の腕の動作を確認すると、なんとほとんど左右の違いが分からないくらいに改善していた。「え、こんなに早く改善するの・・・」と内心、思った。なぜなら、その症状は5年ほど継続していたイップス、ジストニアである。ご本人も喜ぶというか、不思議に感じている様子だった。

ジストニアの患者さんから相談を受ける際、改善にどれくらいの治療が必要なのかと回数などを尋ねられるが、いつも個人差があるので明確な回答はしていない。当院の患者さんの平均的な改善率は出せるが、肉体の構造異常を修復させるような施術ではなく、あくまでも個人の無意識の誤作動記憶を調整する治療なので、そこに齟齬が生じないようにあえてお答えしていない。症状の程度や抱えてきた年数にも関係している傾向はあるが、このように早期に改善するジストニアもあれば、長期にわたって治療が必要な事例もある。

3回目の調整

目安検査で上腕を挙上してもらい、左右比較すると、初検時ほどではないが、若干、挙上スピードが早い感じがする。本人も挙上時に違和感を感じるという。ソフト面の検査をして見ると、8年前の誤作動記憶が示された。部活をしていた時の同級生に対する当時の記憶が影響を及ぼしていた。調整後、肩関節に手を当て、フィンガーテストを行いながら、挙上運動の動きを検査してみると、一定の角度で挙上運動に関係する手動筋なのか拮抗筋の共収縮なのか厳密には分からないが、筋肉の異常緊張が示された。その角度での異常緊張は患者も自覚しており、その感覚は術者と共有することができた。

その後、同じ8年前で、別の誤作動記憶が陽性反応として示された。それを調整すると挙上運動に関係する異常緊張は消失した。患者もその消失を自覚できた様子だったが、まだ違和感があるとのことでさらに検査を進めると、肩関節の内旋の動作での異常緊張を患者とともに確認した。それも内旋運動に関係する手動筋なのか拮抗筋の共収縮なのか定かではないが、調整を行うとその異常緊張も消失した。3回目の調整を終えた時点では、まだ、違和感があるとのことだが、最初よりは良いという。目視検査では初検時よりもかなり改善しているように見えた。

考察

4回目の予約を入れていただいたが、台風などの天候不良で2度キャンセルとなり、その後3ヶ月が経過し来院されていない。3回目の調整からその後の経過をみさせていただきたかったが、恐らく施術の必要がないと判断されたのかもしれない。ジストニアの症状もある程度改善され、ソフトボールの方もキャッチボールなど試したらどうですかと提案させていただいたところだったので、そこまでサポートさせていただきたかった。5年ほど前に発症し、イップスから局所ジストニアに移行した症例だったが、比較的に短期間で症状が改善されたのではないかと思う。どの症状も個人差があるのが当然だが、イップスやジストニアの症状は、程度や経過年数、さらには原因の深さや複雑さによって個人差がある。特にメンタル系が絡んだ症例は、施術者との信頼関係はもちろん、患者さんがその治療法に納得できるかが治療効果を引き出すために大切なポイントにもなるだろう。

2018年12月8日土曜日

卓球のイップス

 はじめに
40代男性が卓球のイップスを改善したいとのことで来院。具体的なイップスの症状は、打球した際に手首が上に向いてしまうという。専門用語では肘関節の回外の動きが生じる。この現象は以前からたまにあったが、ここ最近は常に生じてしまい、悪くなっている感じがするらしい。卓球歴は、中学、高校で6年間部活動をしていた。20年ぶりに再開して5年ほど子供達を指導しており、練習では主に球出しをしてあげているとのこと。

初回の施術
関節、筋肉関連の機能異常検査では右の肩関節、肘関節、手関節部、頸椎部に陽性反応が示された。機能異常部位をアクティベータ療法にて調整する。その後、イップスに関係する誤作動記憶検査、最初の検査では、時系列で2歳の時に関係する事柄が示され保留にした。その後、2項目の信念に関係する誤作動記憶を調整。エピソード記憶の陽性反応も調整。

2回目〜4回目
施術前に、施術後に何か変化があったかどうか問診するが、練習をする前から、「また、なりそうな予感がする・・」「意識すればするほど入らなくなる・・」「無意識だと入る」「最初の方だけ、意識したら出る・・」などのフィードバックをいただいた。2回目まではアクティベータ療法との併用で施術を行い。3回目と4回目はPCRTのみで施術を行なった。特に目安検査では、症状の場面を想像しながらの関節可動検査では、肩関節の筋群に異常緊張を認めたので、その異常緊張を目安に検査を行い、関連する誤作動記憶を調整した。

5回目の施術
前回から改善を感じたらしく、「思ったよりも(イップス症状が)起こらなかった・・・」とのフィードバックをいただいた。検査でも、「イップスが起きそうだな・・」という予期不安の想像をすると陽性反応が示されたので、そこから誤作動記憶の検査をして調整を行なった。

6回目の施術
約2ヶ月後に来院され、「大分良くなっている・・」とのこと。患者さん曰く、過去のコーチとして内面的な気づきの調整から良くなってきたような気がする・・・とのコメントをいただいた。しかしながら、原因となる記憶は卓球だけのことでなく、他の記憶も潜在的に関係していたので、そのような複合した記憶が調整された結果である可能性があるとのフィードバックをさせていただいた。

考察
イップスのような症状は、それぞれのスポーツに関係するメンタル面が関係していると思われることが多い。確かにそのスポーツに関係するプレッシャーや人間関係なども関係するが、案外、それ以外のメンタル面の記憶が関係していることがあり、その過去の誤作動記憶を調整すると改善に向かう方が多い。このことは、あらかじめ患者さんにも理解してもらっていないと、不信感につながり治療効果を引き出せないこともあるので、その都度、患者さんに合わせて伝えることが大切だと思う。イップスの症状が改善する過程において、常々思うことがある。それは、無意識的に記憶され、普段意識していないところで誤作動記憶が生じているということである。これは、イップスに限らず他の症状にも言えることだが、先入観を持たずに無意識に聞いていくことが効果を引き出す大切なポイントになる。

2018年10月24日水曜日

発声イップス(機能性発声障害)

自律神経系の他の症状で以前から通院していただいている患者さんで、順調に様々な症状が改善しており、今度は話すときに滑舌や発声がうまくできなくて伝わりにくいのでその症状を改善したいとのこと。以前から問診の際に少し話が聞き取りにくいということは感じていたが、それほど気にはなっていなかった。でも、施術を継続してその経過を振り返ると、「あ〜これは本人にとって随分困っていた症状だったのか・・・」ということが後で分かった。この症状はいくつかの記憶による条件付けで発声に関係する神経系の誤作動が生じるという点において、「発声イップス」(機能性発声障害)といってもいいだろう。

発声イップスの施術後の約1ヶ月後、別の症状で来院された際に、そのことお聞きしながら患者さんの声が滑らかで聞き取りやすいのに気づいた。初診時からの声の印象しかなかったので、本来はこんなに聞き取りやすい滑らかな声の持ち主人だったのいかと内心驚いた。「あれから声の方はどうですか?」と尋ねると、「あ〜すごくいいです!」という。「そうでしょうね。声が滑らかですよね・・・」と伝えると、「ありがとうございます。嬉しいです!」と喜んでいただいた。

今回の成果は、改善するまでに2回の施術を行なった。この患者さんの場合、メンタル面が関係することが多いので、一回の施術に二枠のご予約をしていただき、通常の患者さんの2倍の施術時間(2025分)内で行う。最初の発声イップスの施術は滑舌の悪さも含めて調整を行なった。18年前の英語が上手く発音できない時の記憶や4年前の人間関係に関する記憶などが関係していたのが興味深かった。

その後の来院では発声イップスの症状ではなく、別の症状が強いのでその施術を行なった。そして、その後の来院で、滑舌は改善したが、音程の音感がつかめないという。他人には分かりにくいが、自分の声が理想の音程ではないとのこと。検査をすると陽性反応が示されたので、その誤作動の調整を行う。13年前の人間関係やカラオケの時の記憶などが関係していた。

本症例は、1回目の発声イップスの施術から別の施術を挟んで、二週間後の2回目の施術後に改善された。この患者さんは以前から別のメンタル的な症状で当院をご利用いただいており、当院のメンタル系の治療法に慣れているということも早期の改善につながったのだと思う。

2018年7月24日火曜日

ジストニアとイップスの本質的な原因

ジストニアの原因は、医学的に特発性(原発性)ジストニアと症候性(二次性)ジストニアに大きく分類されています。特発性ジストニアは、病理学的に脳の構造的異常が認められないものです。症候性ジストニアは、別の疾患や事故などが元にあって二次的に生じたものです。その場合、MRICTの検査によって、大脳基底核(特に淡蒼球)などに病理学的な病変が存在することがあります。また、薬剤投与による薬剤性ジストニアも症候性ジストニアに含まれます。

当院のような代替医療の治療院に来院されるジストニアの患者さんの多くは、来院前に神経内科などの専門の病院で、障害の筋肉を司る脳や神経系に病理的な異常がないかどうか検査を行います。もしも、器質的な異常がなければ、「特発性ジストニア」となるわけですが、「器質的ジストニア」以外は脳や神経系に関連する「機能的ジストニア」として分類することもできます。では、何が脳や神経系の働きを乱す原因になるのかということになりますが、その多くは心理的な要因が関係しています。心と身体は密接に関係し合っているという観点で考えるとごく当たり前のことです。しかし、西洋医学の思想の影響でそこを切り離して考える医療者は多いようです。

西洋医学の論文で心因性ジストニアは稀とされる記述もありますが、西洋医学の診断の多くが機械論的な思想に基づいた目に見える「器質因説」に基づいており、心と身体の関係性による誤作動記憶という目には見えない心身相関に関連する「心因説」の存在の多くは検査対象外となりやすい傾向があります。そして、明らかな「心理-社会的要因」が見当たらない場合は「特発性ジストニア」として、対症療法的にボトックス注射や薬が処方されます。一時的な症状の緩和が見られる方もいるようですが、副作用があったり、本質的な治療法でないために症状が振り返されたりする傾向もあるようです。

現代医学における心因性ジストニアに関する症例報告を検索すると、あまり、報告されていないという印象を受けます。数少ない症例報告の内容は、心理テストでも示されるような明らかにメンタル的な問題が存在する患者の症例がほとんどで、私はそこに現代医学の盲点があるように感じます。当院に来院するジストニアの患者さんの多くが、神経内科などの専門医を受診されて、ボトックス注射などの対症療法を避けて来院されるケースで、また、病院で通常の問診を受けてもメンタル的には問題があるとは思えないような患者さんがほとんどです。

しかしながら、PCRTのプロトコルに沿って検査を進めると、心理-社会的な心因性の誤作動の記憶が検出されます。そして、その誤作動記憶が消去されるごとに、条件付けされた不随運動が徐々に改善されます。原因パターンの複雑さや広さにもよりますが、患者さんが早期に施術を受けるほど改善も早まる傾向にあります。PCRTで改善される心因性ジストニアの患者さんのほとんどが、無意識的レベルの感情や信念の記憶に関係しています。それは誰にでもある誤作動の記憶です。多くの患者さんはそのことがいわゆるトラウマとして原因になっていたということを認識されます。

代替医療を利用する患者さんの多くが「機能説」に基づくジストニアですが、当院に来院される患者さんも病院以外に鍼治療やカイロプラクティック、整体などの治療を受けて改善されずに来院されます。そのような患者さんにはどのような治療を受けたのかをできるだけ尋ねるようにしています。多くの患者さんは具体的な施術目的までは分からずに治療を受けている方がほとんどですが、多くの代替医療の治療院では「機能説」に基づいて、筋肉の緊張緩和や神経系の機能回復の目的で治療を受けているようです。

「機能説」に基づく治療法もいろいろありますが、神経学的なアプローチをする治療者は、ジストニアに関係する神経学的な機能異常の部位や神経経路を特定し、その機能回復を目的に神経学的な刺激を加えるリハビリを患者さんに指導します。脳の可塑性を活用したリハビリ療法ですが、患者さんはよほどの覚悟をしてリハビリを長期に継続する必要が求められます。もしも、長期的なリハビリが継続され、脳の機能異常部位への適切な刺激が行われれば、脳の可塑性が促進されて効果が現れる可能性があります。

しかしながら、神経学的な機能異常にはそれを引き起こす原因があります。繰り返しますが器質的な原因でない限り、機能異常の多くは心因的な原因が関係しています。脳や身体に記憶された誤作動は、単純な神経学的な機能低下という観点ではなく、無意識的に条件付けされた誤作動の記憶という関係性から考えることで、さらに早く改善が促されます。

スポーツの分野で知られているイップスの症状も程度や部位などの違いはあるにせよ、脳の誤作動記憶に関係して無意識的に筋肉の不随意運動が生じるという点においては心因性ジストニアと同じメカニズムです。意識と無意識とが離れすぎて脳と身体が調和できていないという点においても同じであり、どちらも意識と無意識の関係性、脳と身体の関係性、脳と環境との関係性など、「関係性」に基づく誤作動の記憶を書き換えることで本質的な治療につながります。

「器質説」に基づく原因療法は西洋医学、「機能説」に基づく療法は代替医療となりますが、神経系の機能異常にメンタル面が関係していることを忘れないでください。心と身体は切っても切れない密接な関係性があります。その「関係性」を含めて患者さんを診ることでホリスティックな本質的な治療が実現するのだと思います。

85日は、ジストニアとイップスに関するPCRT研究会をOneDayセミナーとして開催します。参加資格はPCRTの認定者に限定しておりますが、資格のある方はぜひご参加ください。ご一緒に治療の質を高めていきましょう。PCRTを利用したジストニアとイップスの症例報告はHPに掲載されていますので、下記をご覧ください。よろしくお願い致します。





2018年5月1日火曜日

イップスの根本的な改善

先日、2年前に送球イップスで来院され、今春から大学3年生になる野球選手が春休みを利用して来院してくれた。現在は社会人のクラブチームでピッチャーを担当しているとのこと。イップスはかなり改善されているが、少し気になることがあるらしく、持参してくれたiPhoneの投球フォーム画像を見ながらPRT検査。ご本人も気になっているところで陽性反応を示す。いくつかの潜在意識が関係する誤作動記憶に加えて部分的な投球フォームに関する意識への誤作動記憶も関係していた。

ビデオ映像から導き出された陽性反応は、ピッチングのテイクバックの動作だった。本人に質問してみると、「後ろに腕が伸ばせていない・・・」とのことだった。原因となる誤作動記憶を検査すると、過去の肩や肘の痛みの記憶が関係していた。関節に痛みが生じたままで、動作を繰り返していると知らず知らずのうちに、かばう動作を身体が学習してしまい、腕が自然に後ろに伸びなくなったということが疑われる。痛みの誤作動記憶の調整を行なった。

PCRTでは誤作動記憶のパターンを瞬時に検査することができるので、根本的な調整が可能になる。もしも、このような検査と調整をしなければ、恐らく、投球フォームを改造しようとするだろう。表面的には投球フォームの改造で改善しそうだが、潜在的心理面が関係する無意識の記憶(クセ)による影響はそれほど簡単ではない。意識でコントロールできれば、そもそもイップスにはならない。意識と無意識が離れているからイップスの症状が生じるのであって、そこの関係性にアプローチしなければ、根本的なイップスの改善が遅れるだろう。

2008年度の北京オリンピックで、米国の陸上女子100メートルハードル代表のロロ・ジョーンズは、トップで走っていたにも関わらず、最後から2番目のハードルに引っかかって金メダルを逃してしまった。この時彼女は、「足をしっかり伸ばそう」と意識してしまったと、後で語っていたという。これは、全体的なゴールへの目的意識から、部分的な意識へと変化したために、いわゆる誤作動が生じたのだと考えられる。最近ではビデオ映像を見ながらフォームの修正に意識を向ける傾向にあるが、部分に意識が集中しすぎてしまうと、体全体の調和が乱れて、イップスのような誤作動を生じやすくなる。

さらにパフォーマンスを上げるためのフィームの改造は効果的なるかもしれないが、イップスを改善するっためのフォームの改善はむしろ治りが悪くなる傾向がある。なぜなら、多くの選手は小学生の頃からその競技を継続しており、そのフォームで活躍されている。イップスの原因はフォームを変えたから悪くなったわけではない。問題の矛先を間違えないようにしないと改善は難しくなる。

「部分と全体との関係性」、「意識と無意識との関係性」、「心と身体との関係性」はイップスの改善には必要不可欠な概念であり、単に部分的なフォームの改造、あるいは、神経学的機能の改善だけでは本質的な改善は困難になるだろう。

2017年12月18日月曜日

ヴァイオリン・イップスの改善 「人前での緊張やプレッシャーについて」

施術者:「その後、どうでしたか?」
患者:「前回いただいたアドバイスで、随分調子が良くなったように感じています・・・・」
イップスの症状程度も最悪を10とすると、3レベルまで改善していた。それは5回目の来院時のことだった。

患者情報:

四十代男性、音楽講師、20年以上前からイップスの症状を自覚していたとのこと。当時はそれがイップスだとは知らなかったが、最近になってイップスであったことに気づき、治る症状であるという情報を得てから来院。特に本番の楽器(ヴァイオリン)演奏で、ゆっくりとした右腕の動き(ボーイング)の際にイップスの症状を感じるという。個人練習の折にはその症状は感じない。症状の経過として改善は見られないとのこと。

初回の施術:

筋骨格系のハード面の目安検査では、両肩の動作、頸椎部の動作、右肘の動作で陽性反応。ソフト面の目安検査では、人前での演奏のイメージで陽性反応。ソフト面の検査の中で過去の「恐れ」の記憶が示された。当時、オーケストラの前で演奏するヴァイオリニストのトップ奏者だったとのこと。指揮者の前で納得のいく音が出せず、指揮者から叱責を受けた経験が引き金になったらしい。それ以来、指揮者や他のメンバーからの信頼を失う恐怖が心の奥に潜んでいるとのことだった。

2回目から5回目の施術:

2回目は2週間後に来院された。その間、身体に変化を感じたらしい。2週間ごとに来院していただきイップスに関係する誤作動記憶が徐々に改善されていく様子が伺えた。様々な誤作動記憶が消去されていく一方で、実際に人前で演奏する自信のレベルはかなり低い状態だった。20年以上も前からの症状なので、緊張するのが当たり前かのような学習もしっかりしている様子だった。

そして、5回目に来院された際にその後の経過を尋ねたところ、イップスがかなり改善されているとのこと。患者さん曰く、前回の施術の時、「人前では緊張するのが当たり前」ということが、「暗示効果」であったということは大きな気づきだったとのことで、他者との練習の際にも違和感はなく演奏できたとのコメントを頂いた。「人前で緊張すること」は、指導者からも聞いていたし、自分でもそのように思い込んでいたという。とても真面目で誠実な方なので、「人前で緊張する」ということに対して疑う余地もなかったのだろう。施術の過程で『それは「暗示効果」による影響で、脳が緊張するように学習されているだけなので、その暗示を「人前でも演奏に集中でき、喜びや楽しみを味わえる」などの肯定的な自己暗示に書き換えてはどうですか』というような内容で提案させていただいた。

患者さん曰く、そのような考え方はとても新鮮だったとのことで、「えっ、人前での演奏で緊張しない???・・・」、恐らくそのような考え方は有り得ないぐらいの思い込みだったのだろう。それまでの通院による施術のプロセスを通じて、それが「暗示効果」であったことが腑に落ちた様子だった。無意識の脳が、人前では緊張するのが当たり前という思い込み=信念を持っていると、自動的に心も身体も緊張する。もしも、緊張しないということは、脳にとって「ルール違反」になるので、そんなことは有り得えないとなる。人によっては『誰でも本番でプレッシャーを感じるのが当たり前だから・・・』とアドバイスを受けると、緊張がほぐれる人もいる。

人前での緊張やプレッシャーに対する捉え方、受け止め方は人それぞれである。人前で緊張するという思い込みから、緊張しないという思い込みに換えれば良いという単純なものではない。まずは、「多くの人に見られるという場面で、何がその人を緊張させるのか?」「どのように人に評価、判断されることを恐れているのか?」「ネガティブな評価で失うものは何なのか?」などを明確にする必要があるだろう。緊張はその人にしかない経験などに基づく信念や価値観が背後に関係している。

本症例のクライアントさんは、4回目の施術の際の気づきの前に、通院過程で、イップスの背後に隠れていた信念や価値観をすでに探索しており、それに関係する誤作動記憶は調整していた。だから、本番で緊張するのが当たり前という考え方が「暗示効果」によるものだったということが腑に落ちたのだと思う。通院過程でイップスに関係する誤作動記憶の点と点が線と線になり、さらに面と面になって、イップスを引き起こさせる犯人の立体像が見えてきた感じだろう。

大きな気づきを得た後の5回目の施術の際、誤作動記憶を検査していると、脳幹脊髄系(五感適応系)→身体感覚→接触→顎とバイオリンという反応が出た。クライアントさんに心当たりを尋ねてみると、正面のお客さんから顔を遠ざけるように、斜に構えて演奏しているらしい。恐らく、お客さんから見られる→プレッシャー→避ける→顎とバイオリンの接触という一連の緊張の条件付けが脳に学習されていたのだろう。そのような身体感覚とメンタル面に関係する誤作動記憶の状態を認識された上で、「次回はどのように演奏されますか?」と尋ねたところ、『「見られる」から「見てもらう」という感覚で自由に楽しんで演奏しているような・・・』と言われていたので、その理想の状態で検査をすると誤作動の反応は示されなかった。

考察:

本症例の発症当時は、「イップス」という言葉自体が知られておらず、また、そのような症状が治るものだということも知られていなかった。最近ではインターネットなどを通じて、心と身体の関係性が徐々に一般の人にも知れ渡り、少しずつではあるが、改善の可能性を求めて、私たちのような治療者に期待を寄せていただいている。「イップス」の症状を改善するにあたって一番大事なことは、「無意識」の脳の誤作動記憶が引き起こしているという理解だろう。身体の動作のほとんどは「無意識」によってコントロールされているのであって、「意識」のコントロールはほんの一部である。


本症例では、通院過程における治療体験を通じてだんだんと理解が深まっていることを肌で感じる。心と身体の関係性がもたらす「無意識」に対する理解は、個人差があって当然だが、理解が深まるほど治療効果も高くなるというのは共通しているように感じる。このような治療法を提供する側の責務として、もっと一般の人が理解しやすいような説明の仕方をさらに工夫する必要があるだろう。このような治療法は、機械構造論の思想による影響が根強く、まだまだ「不思議な治療」として受け止められがちである。既存の固定観念を崩していくことは並大抵のことではないが、将来、このような治療法が当たり前になる社会を創るためにコツコツと研究を継続しながら、成果を書き残していきたいと思う。

2017年10月19日木曜日

送球(投球)イップス

送球(投球)イップス

はじめに
2週間ほど前からブルペンでの投球は問題がないのに、試合での投球が上手くいかない状態になる。周りの人から、「イップス」ではないか?と言われ、当院を受診。3回ほどの施術で早期に改善したので報告させていただく。

患者情報
14歳、男子、主にピッチャー、キャッチャーを担当することもある。小学1年生の時から野球を始める。リトルリーグ(硬式野球)の野球クラブに所属。ピッチャーは本人以外に三人。経過としては段々と悪くなっているとのこと。そのような悪い状態をなんとかしてあげたくて、お祖父様がインターネットで検索して当院に連れてこられた。

初回の施術
最初は、骨盤、脊柱の調整をAMで行うが、特に身体の機能面には問題は見られなかった。本人に思い当たる原因を尋ねたところ、試合でのデットボールを監督さんに叱責されたという。PCRTの検査に入り、大脳辺縁系で「恐れ」のキーワードが示された。前述した監督さんに怒られたことではないかと尋ねたところ、本人も納得。検査をするとやはり陽性反応が示された。そこから検査を深めると、交代させられる先発の立場やチームの雰囲気を壊してしまうなどの恐れへとつながっていたので、その恐れを引き出して調整。他にバッターが立っている時の投球やデットボールでの記憶でも誤作動記憶の陽性反応が示された。大脳辺縁系では「虚栄心」のキーワードも示され、内容を質問して誤作動記憶を引き出して調整。さらに検査を進めると、大脳皮質系でエピソード記憶に関する誤作動記憶の陽性反応が示され調整を行なった。普通に投球できる自信の度合い(最高が10)は、最初は5レベルだったが施術後には8レベルまで上がる。

2回目の施術
前回に示された陽性反応を再検査すると全て陰性反応が示された。PCRTのソフト面の検査を行うと「恐れ」の反応が示された。具体的な内容を尋ねると、特に先発で起用され、先頭バッターに対する四球やデットボールを恐れているという。それは完全にピッチャーの責任でランナーを塁に出すことになるし、監督さんからの叱責につながるとのことだった。

3回目の施術
前回の陽性反応は全て陰性反応に転じていたが、前回と同様に「恐れ」に関するキーワードが示された。前回とは少しニュアンスが異なり、初回にランナーを出したらどう思われるかという恐れの気持ちと、チームメートに申し訳ないなどの気持やピッチャーとしての周りからの期待も絡んでいた。投手としての自信の度合いを尋ねてみると来院時は7レベルで施術後は8レベルに上昇。明日試合があるとのことで、先発で登板するイメージをしてもらいPCRTの検査を行う。陰性反応だった。

4回目の施術
先日の試合後に来院。試合では一回で交代することが多かったが、調子が良かったので4回まで投げたとのこと。試合を観戦していた人からいいピッチングだったと褒められたとのことだった。本人に投手としての自信の度合いを尋ねると9レベル。イップスに関してはほぼ完治した様子だった。

考察
イップスの症状を発症してから比較的早期に来院していただいたので、経過も良好で早期の改善につながったようだ。イップスを改善するために投球フォームなど「技術論」で解決しようとする指導者もいるが、今回のケースは明らかにメンタル面が関係していると保護者も感じていた様子で、その保護者の献身的なサポートも好結果につながった。もしも、周りの指導者が、投球フォームなどの技術論でイップスを改善しようとしていたら、悪循環になり改善は難しかったかもしれない。また、本人がメンタル面と身体的誤作動の関係を素直に理解してくれたのも良かった。一般論的に自分はメンタル面に自信があるのでメンタルは関係ないと誤解している人もいるが、心と身体は切ってもきれない関係性で結ばれており、多かれ少なかれ誰もが影響を受ける。大切なのは「己を知る」こと。自分の心の状態がどのような状態なのかを理解することで、心と身体の調和がとれ、症状も改善し、さらにパフォーマンスのアップにつながるだろう。