ゴルフのドライバーイップスの患者さんで、しばらく通院されて、一時改善されていたが、また、ぶり返していた。その原因の一つに「技術論」へのこだわりがあった。通院過程でフォームなどのテクニックなどに囚われすぎると、イップスの改善に影響を及ぼすということは頭では理解しても、ついついテクニック論の方へ傾いて症状の改善を遅らせていた。
なぜそこから抜け出せないのか?それを調べてみることにした。するとゴルフの技術論を追求すること自体が大好きで、そこが「快」になっているということが分かった。「ゴルフプレー」→「問題を引き出す」→「技術論で答えを模索」→「快」→「ゴルフプレー」→「問題を引き出す」→「技術論で答えを模索」→「快」→「ゴルフプレー」というような潜在的な負の習慣(パターン)が「快」にリンクしており、そのサイクルから抜け出せていないとうことが分かった。
好きだからゴルフをやっている。それはごく当たり前のことなのだが、具体的にゴルフの何が好きなのかを質問してみると、人それぞれに微妙に違うものである。だんだんと上達するという「自己成長」が「快」になっている人もいるだろう。勝ち負けに関係なく、友人とゲームを楽しむことが「快」になっている人もいるだろう。ゴルフプレーを継続する動機は人それぞれであるが、今回は隠れた動機(快)が条件付けされて、イップスの改善にブレーキをかけていたという事例である。
患者さんはそのことが心の底から理解できた様子で、撮りためていたゴルフ指導に関するビデオを見るのを辞めると宣言された。以前から技術論がイップスに影響しているのが分かっていたので、技術論から卒業したのかなと安心していたものの、心の底では抜け出せていなかったということがその時に分かった。
誤解のないように言えば、「技術」を意識することが全てイップスにつながるという訳ではない。スイングのフォームを改良して、成績が向上した人もいる。どのようなスポーツでも最初は基本のフォーム(型)を指導者から学んで、何度も練習を繰り返し、身体に覚えさせて上達していくものである。
要するに技術(テクニック)は必要だがその捉え方が大事なポイントになる。「どのような技術論がイップスになりにくいのか」、多くのイップスの患者さんたちをサポートしてきた経験からイップスになりにくい「コツ」をご紹介させていただく。これは、ゴルフのイップスに限らず、あらゆるスポーツやハフォーマンスなどのスランプにも影響を及ぼすので、参考にしていただけばと思う。
イップスにならないための「コツ」
機械論
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有機論
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機械論的な理論のメカニズム
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より
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有機論的な自然のメカニズム
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細かい技術理論の指導を受ける
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より
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全体を見てマネして身体で覚える
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部分的なテクニカル指導
例:テイクバック(ゴルフ)では決して頭を動かさない
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より
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全体的で抽象的な指導
例:足から手への連動が重要
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腕や足の部分を意識する
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より
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軸や下半身など全体を意識する
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部分的な身体の動かし方
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より
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目的に応じた自然な身体の動かし方
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力やスピード
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より
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バランスやリズム
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この「機械論」と「有機論」を比較してどのように感じるだろうか?一見すると「機械論」の方が、何か理論的で信頼できるような感じがしないだろうか?その一方で「有機論」は、抽象的で答えがないような曖昧な感じがするだろう。それは、多くの人が機械論的、あるいは科学的な教育を受けているからであるといえよう。その思考ラインで考えると、分析的、還元論的になり、身体をロボットのように考えて、部分的な理屈で問題を改善しようと考えてしまう。
しかしながら、人間は部品を取り替えれば修理できる単純なロボットではない。部分的で機械論的な理論で答えがでないことばかりの連続である。人間はむしろ全体的で有機論的な「関係性」や「つながり」で統合された生き物であることを忘れてはならない。
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