2021年8月24日火曜日

歯科の噛み合わせ基準による意味づけ問題

30代後半の男性が、1ヶ月半ほど前に問題のなかった歯を大きく削られてから、歯の痛み、吐き気、耳鳴り、顎の痛み、左肩の痛み、左膝の痛み、左前腕の痺れ感が生じたという。常に違和感があり、食べることへの恐怖感、集中力の問題が生じており、食事をした後に症状が悪化する傾向があるという。現在、通院している歯科医院は最初に歯を削られた医院から数えて3医院目で、噛み合わせなどを専門に治療するという。そこで、噛み合わせの高さを調整してもらうと良くなるという。 初回の顎関節の検査で、歯を噛み合わせたり、口を開けたり、顎を左右ずらしたりして生体反応検査を行うと顎関節に、関係する全ての機能異常検査で陽性反応を示す。他にも症状を訴える膝や前腕部、さらには三半規管部においても明らかに生体エネルギーブロックの陽性反応が示される。

初回の施術から2回目の施術の時には、治療後は久しぶりに食事しても吐き気がなく、腹に力が入る感じがしたという。その後、3日おきに治療を継続。 5回目の施術日には、「昨日から急によくなった・・・」といわれ、最初に来院された時よりも表情も明らかに良くなっているのが伺えた。7回目の施術では、顎関節症に関係する誤作動反応も示されなくなっていた。その後、歯科医での咬合(噛み合わせ)の検査を受けるとのことで一旦施術を中断。当院に通院してから、5回目くらいから噛み合わせの反応は消失し続けて、他の症状以外は顎に関係する症状もしばらく訴えることはなかったが、3週間ぶりで10回目の治療に来院された際に噛み合わせが悪いとのこと。当院での噛み合わせの反応を見てみると、陽性反応が示されない。 

 通常、当院の検査で陽性反応が示されない場合、症状が消失しているが、このように検査反応と患者の訴えが一致しない場合、何らかの「意味づけ」が関係していることが多い。そこで、患者さんに「何を基準に噛み合わせが良くないと判断されていますか」と尋ねると、現在、通院している噛み合わせが専門の歯科医のところで噛み合わせが良くないという判断だったらしい。そこで、その歯科医の考えにかなり傾倒していることが伺えた。詳しく聞いてみると、「歯が万病の元」など、歯の噛み合わせが様々な症状に関係するという思想のもとで、治療をされている先生で、オーリング検査も使っているという。 

 この歯科医の先生に限らず、噛み合わせや歯が健康のすべてかのように語ることを聞くことがあるが、様々な施術法を長年研究してきた一人の治療家として、いささか危ない思想に思える。カイロプラクティックの業界においても第一頚椎のバランスが全てかのように語るカイロプラクターも少なくはない。あるいは、病気の原因は歯の金属の詰め物によると主張する歯科医もいる。しかしながら、そのような機械論的な思想には矛盾がたくさんある。 噛み合わせの問題の多くは、神経系を含む様々な生体エネルギーブロックや心身のバランス異常の結果であり、多くの場合は原因ではない。

歯を噛み合わせる、口を大きくあけるなどの動作で誤作動反応があれば、顎関節に何らかの機能異常の症状を生じていることがほとんどである。逆にいうとそれらの検査で誤作動反応がないにもかかわらず、何らかの問題があるのは、今回の事例のように「意味づけ」による問題と言える。 スマートな患者さんで、色々と理論的なことは理解されているが、肝心の自分の身体の治る力、柔軟性を信じられていないところがネックになっているように思う。人間の身体は本来、柔軟性、適応力があり、様々な環境に順応し適応させる力がある。人間はそもそも左右不対象な生き物で、左右の噛み合わせがミクロ単位で異なることは多少なりともあるだろう。

人間を機械構造論的に捉えて、左右の不対称が不健康だとしたら、パラリンピックで活躍されている選手の健康をどの様に捉えるのだろうか? 厳密に人間の身体を左右比較すると、不対称であるのが自然である。また、ストレスを受けたり、時と場合によってヒトの構造も多少なりとも変化するのが自然であり、正常だといえよう。例え歯の噛み合わせが正常でも不健康な人はいるだろうし、医学的に問題がなくても、本人にとっては辛い健康問題を抱えている場合もある。ヒトの健康をサポートする治療者にとって、患者さん自身が自分の身体の本来の健康、治る力を信じられる様にサポートすることが大切だと思う。もしも、噛み合わせに囚われている患者さんがいたら、それが全ての健康の基準ではないことをアドバイスしてほしい。 

 医学や様々な健康法の理論、理屈はあるが、基本的に人間の身体には目には見えない治癒力が備えられている。不健康な時にそれが信じられないから医療に藁をもすがる思いで利用されるのであるが、根底にあるのは自分自身の生命力であり、その本質があるが故に、私たち治療者も健康のお手伝いができるのである。巷では「神の手」「神の〇〇」などと、あたかも凄技の治療者を持ち上げるメディアもあるが、根底には患者自身の生命力をいかに引き出すことができるかどうかが肝心で、治療者が生命力を患者の与えることはできない。 今回の患者さんにはできるだけ、今までの治療効果も含めて、「意味づけ」による問題を丁寧に説明させていただいた。予約を二日続けて取られていたが、次の予約は必要ないと感じた様で、2回目は予約は治療後にキャンセルされた。「意味づけ」による問題から解放されて、もっと自分の身体の柔軟性、治癒力を信じてさらに健康的な自分を取り戻してほしいと願う。

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