2019年9月3日火曜日

期外収縮(脈が飛ぶ)の原因を知りたい・・・

「期外収縮の原因を知りたい・・・恐らく精神的なことだと思うのだけれども・・・」以前から腰痛や関節などの症状で当院を利用していただいている患者さんのご要望だった。患者さんは当院の治療のコンセプトをよく理解していただいていたので、時折起こる期外収縮の原因が無意識のメンタル面に関係しているということは薄々感じていた様子だった。

病院でも期外収縮の検査をしており、特に器質的な異常は見られなかったとのこと。でも、時折、期外収縮が起こることがあり、脈が飛んで不整脈を感じるという。来院時には期外収縮は生じていないので期外収縮が生じていた際の記憶を指標に検査を進めた。

謙虚な方であるが、能力も人間性も高く、責任のある立場で長年お仕事をされてきたように感じる。関係していたキーワードは「自尊心」、その方への質問として、「お仕事に関して密かに誇りや自信に思えることで、周りからも高く評価されている理由があるとしたら何でしょうか?」と質問した。

色々と考えながら、4つほどの項目が引き出されました。そして、それらの項目毎に調整をさせていただいた。思いついた項目の内容は、施術者には開示せずに患者さんだけがそれを認識された。そして、「恐らくご自身が誇りに思えることであるがゆえに、それに関連する事柄が周りに生じると、脳が過敏になっている可能性があります・・・・」と説明させていただいた。

調整後、「何となくつかめたと思います。多分、(原因は)そうだろうという気がします。」と、納得された様子だった。患者さん自身も「器質的な問題」ではなく「機能的な問題」であると認識されて相談していただいた様子。身体の機能、働きに影響を及ぼしている無意識的な心の動きが分かると調整が可能になる。

病気の予防には現代医学に基づく定期的な健康診断も大切だが、身体の機能に異常を生じさせている原因を特定して調整する原因療法は、本来必要とされる医療ではないかと思う。このように無意識的に条件付けされて、心臓の働きに誤作動が生じることがあるということを明確に検査し、その誤作動を調整できるという施術文化がもっと社会に当たり前に知られることを願う。


2019年9月1日日曜日

パフォーマンスを上げるための「心の持ち方」

本日、ナショナルチームに入っている選手が試合前に来院された。ナショナルチームに入って2年目、最近ではランキングも下がってきており、現在継続している練習と試合とのバランスなど、このままのやり方でいいのか少し迷いがあるとのこと。もしかすると、そのようなことがパフォーマンスにも影響を及ぼしているのではないかとのことで・・・

「身体に聞いてみた」

すると、以下の項目で「誤作動記憶」の反応が示された。
ここでいう「誤作動記憶」とは「心と身体」、「意識と無意識」の不一致からなる脳に誤作動を生じさせる記憶(パターン)のことである

l  所属チームとナショナルチームの練習の違い
l  海外遠征での環境の変化
l  休日の過ごし方や過酷なスケジュールなどOFFONの調整

上記の誤作動記憶の調整とともに、それぞれの項目で誤作動を打ち消す自分に合った肯定的な「心の持ち方」も身体の反応を検査しながら探索した。

【所属チームとナショナルチームの練習の違いについての心の持ち方】
ナショナルチームの練習メニューに関して違和感があるが、その中でも主体的に自分にプラスになる練習を工夫する

【海外遠征での環境の変化の捉え方】
東南アジア遠征での蒸し暑さや設備の古さなど劣悪な環境だが、未来の自分を鍛えてくれる練習・訓練だと思って臨む

【休日の過ごし方】
一般論的に「次の試合に備えて休む」というように「頭」で考えて無理に休むのではなく、「身体」で感じて必要な時は休み、必要でなければ適度に練習をする

【過酷なスケジュールの臨み方】
2日連続で試合がある時は心身ともに負担が掛かるが、自分を鍛えてくれる訓練、練習だと思って臨む

ナショナルチームの一員として、海外遠征などその場の環境に適応できる自分になれるように自分に合った心の持ち方が必要になるだろう。一流選手になるとメンタル面と身体との微妙なバランスがとても大切になる。そんな局面で「身体に聞く」検査は有効で、コーチング手法を織り交ぜた質問で、選手は自分に合った答えを自分で見つけていく。


今回はパフォーマンスに関係していたメンタル面のサポートが十分にできた感触があったので、恐らく本来の実力が発揮されてパフォーマンスが向上するのではないかと期待して陰ながら応援している。

2019年8月29日木曜日

疲労骨折のバランス調整

脛骨の疲労骨折の患者が、3回目の治療後に疲労骨折のある側の足でケンケンできるようになった。側で見ていたお母さんが、「痛くないの?」と尋ねると「うん・・」と嬉しそうに微笑んでいた。3回の施術で完治したわけではないが、患者さんが顕著な改善を自覚されたその背後にある「原因と結果」を考察してみたい。

高校1年性のサッカー部の男子が1ヶ月ほど前より両足(下腿部)に痛みを生じて、整骨院と整形外科を受診。病院では右脛骨の疲労骨折と左脛骨のシンスプリントと診断される。病院で診断された2日後に当院を受診。まだ、完治したわけではないが、3回目の治療後に患者自身が症状の改善を自覚され、治る方向へ自信を持たれた。通常であればケンケンするなんてありえない状態。なぜ、そのように改善したのか私なりの考察を述べてみたいと思う。

病院で疲労骨折の診断を受けると、数ヶ月は練習を中止、安静を指示される。通常、「骨折」したら安静が当たり前と思う方がほとんどだろう。骨折に関する医学知識があればなおさらその思いは強くなるかもしれない。私自身も本質的な治療に確信を得る前まではそのように考えていた。

しかし、いくつかの早期改善の施術経験を通してその考え方が一変した。「試合に出たいけれど、どうにかならないでしょか・・・病院では安静を指示されているので・・・」と大事な試合を控えている診断された子供の親御さんに相談を受けて疲労骨折の施術をさせてもらう機会がいくつかあった。どの症例も施術をしてみると、意外に回復が早く、試合に出場できるようになった。

おそらく通常の医学的知識の考えでは恐らく説明がつかないと思う。まず、考えなくてはならないのは外傷による骨折とは性質が異なるということである。外傷の骨折は明らかに「直接的外力」による影響だが。しかし、疲労骨折の場合は「間接的外力」による影響だろう。「間接的外力」とは、筋肉のバランスや関節のバランスがうまく調和できていないために間接的に骨に「ねじれ(捻転)」などの間接的外力が異常に繰り返し加わったことによる結果である。

つまり、身体の筋肉・関節のバランスが悪く違和感を感じながら無理をし続けたことが予測される。若い選手は一生懸命練習していると、多少の違和感を感じてもそれが当たり前になって、痛みに慣れて無理をすることも考えられる。疲労骨折の原因はバランス異常による間接的外力による結果なので、そのバランスを調整すれば回復は早いのだと推測できる。

そして、バランスが調整されれば、骨折部への異常なストレスは加わることなく、むしろ、骨癒合を助ける正常な刺激が骨芽細胞に加わることで治癒を早めるのではないかと考えられる。つまり、原因となるバランス異常を調整するから改善が早いのだと思う。ただし、ここでいうバランスとは単に筋肉・関節・骨だけのバランスのことではなく、無意識・脳・神経系などを含めた総合的なバランス調整の結果である。それは早期回復にとても重要なポイントだと私は経験的に確信している。

2019年8月12日月曜日

帯状疱疹後神経痛

70代後半の女性が口の周りの帯状疱疹後神経痛を訴えて来院。7週間ほど前に帯状疱疹で病院に入院。10日ほどで退院。来院時は病院に通院中で投薬や点滴の治療を受けているとのこと。帯状疱疹は無くなったが、その後の痛みが1ヶ月ほど継続しており、日常生活などにも支障をきたしているとのこと。特に朝の目覚めで痛みが最も強くなる。痛み止めを服用すると軽減するらしい。

当院を利用していただいたことがある息子さんからのご紹介で来院された。最初はハード面だけの施術を行った。患者さんの表情から察するとまだ痛みが強い感じが伺えた。ソフト面の調整は、初診時の患者さんには控えるようにしている。それは患者さんの理解度や信頼度を考慮してのことである。しかし、症状の改善度とあるキーワードが顕著に示されていたことを考慮して、そのキーワードに対して質問させていただいた。

すると、誤作動記憶が明確に反応を示していたので、二つのキーワードに関連するソフト面の調整を行った。施術後、患者さんはにっこり笑って痛みから解放された様子が伺えた。かなり痛みで苦しまれていたのだろう。

初回の施術から2ヶ月ほど経過している。遠方からの来院で、気軽に通院できる状況ではなかった。一回の施術で痛みがかなり改善されていたのは明らかだったが、その後も痛みがぶり返さずに維持されていることを願う。

帯状疱疹の原因はウイルスであると言われている。確かにウイルスは関係しているが、私の臨床経験では、その背後には潜在的なストレスが関係していることがほとんどで、そのストレスの調整後の症状が改善される。ストレスによって免疫力が低下してウイルスが暴れ出し、ストレスに条件付けされて痛みが記憶されるのだと考えている。

帯状疱疹に限らず、様々な「神経痛」には潜在的ストレスが関係していることが多い。このような施術が当たり前になる社会になると、もっと多くの方が痛みから解放されるだろう。私たちはそのような施術文化を社会に創造していきたい。

2019年8月2日金曜日

書痙(ジストニア)

問診情報

高校3年生の男子がお母様と共に書痙の改善を期待して来院。初診時は全く書くことができずに手も震えるとのこと。発症当時はペンを持つこともできず、初回来院時はペンを持つことはできるが、その後手が動かなくなる状態。

初回来院5ヶ月前に3つの病院を受診されたとのこと。一つ目の心療内科を受診、その約2週間後に二つ目の心療内科を受診、その1ヶ月後にメンタルクリニックを受診していずれも精神薬を処方される。

施術前後を評価するための初回の目安検査

身体機能検査(間接法)
陽性反応が示された動作
頚椎左回旋、肩甲帯後方、肘関節屈曲、拳を握る、母指と小指を近づける、書く動作
心身相関機能検査
書くイメージ

初回の施術

ハード面調整(AM)では、骨盤、脊柱、左肩甲骨、肘関節、手関節の機能異常を調整。
ソフト面調整(PCRT)では、大脳辺縁系の誤作動記憶、信念関連のキーワード3つ、価値観関連のキーワード1つ、大脳皮質系のエピーソ記憶を調整。

施術経過

2回目〜12回目まで2枠の予約(施術時間:2025分)をいただき継続治療を行う。ハード面調整とソフト面調整の施術を継続する過程で、5回目の来院時にはメンタル的に気分が改善され、全く書ける感覚がしなかった当初から10段階で4レベルまで上がった感じがするとのことだった。

そして、6回目の来院時には何とか書けるようになったとのこと。しかし、書くことに集中すれば何とか書けるが、他のことを考えながら記述することは難しいとのこと。つまり、以前のように自然には書けない状態。

7回目から書痙の症状が改善傾向に向かったので以前からあったアレルギー性鼻炎の施術も並行して行う。10回目の来院時には本調子ではないが調子がいいとのこと。鼻炎の症状も改善されているとの報告を受けた。11回目ではほぼ自然にかけるようになってきたという報告を得た。

12回目ではほとんどいいとのことで、メンテナンス的に脳のバランスを調整。書痙に関する書くイメージの検査でも陰性反応だった。

13回目では1枠(10分)の予約をいただき、主に脳バランスの誤作動記憶の調整を行う。

考察

大学受験を控えているにも関わらず約5ヶ月間も書痙の症状を患っており、人生の大切な節目に大変な思いをされたように感じた。身体(書痙)に影響を及ぼしている無意識的な誤作動記憶を調整していくうちにだんだんと症状が改善されていった。施術(PCRT)のコンセプトもある程度理解していただいていたので、段階的に改善方向へと向かったのだと思う。

原因となる過去の記憶から鑑みると様々な事柄が絡み合っていたようだ。もつれた糸の束を一本ずつほぐすように誤作動記憶を一つ一つ消去していった結果、完治へと導かれた。症状が改善していくプロセスを通じて、自分の心の奥にある思い(心の構造)を知り調整することで脳の柔軟性が増して症状が改善された。

このような本質的な心身相関の原因療法を体験することで、単に症状が改善したことだけではなく、メンタル的なコントロールも上手になっていると思う。大学生、社会人へと進む過程でこの経験を生かして健康を維持していただきたいと願う。

2019年7月24日水曜日

「機能性身体症状」を調整する


ファミリーカイロをご利用いただいている患者さんの多くが病院での検査や治療を受けて来院されます。時折、「この症状は病院で治療した方がいいのか」、「ファミリーカイロで治療した方がいいのか」、相談を受けることもあります。基本的には患者さんご自身で判断していただきますが、ファミリーカイロを利用する際に参考となる病気や健康に対する全体的な考え方をご紹介させていただきます。骨折などの外傷、脳梗塞、強い感染症などはすぐに病院を受診した方がいいのはもちろんですが、分かりにくいのは慢性症状や構造異常が関係していない痛みなどの症状です。

健康と病気を考える上で大切なことは、Body(身体)Mind(心)は密接につながっており関係しあっているということです。西洋医学の思想では、身体と心を分けて病気の原因を考える傾向があります。そのように「細分化」して考える医療も大切ですが、「木を見て森を見ず」ということわざのように「全体論」で健康と病気を考える必要があります。実際に人間の身体は機械仕掛けのロボットのように部品の集まりでできているわけではなく、それぞれの組織や臓器が強すぎず、弱すぎず、早すぎず、遅すぎることなく調和して働いています。さらには、「人間」という文字が表すように、身体の内界と外界との間の関係性を上手に調和させて適応して生かされています。

「平均寿命」と「健康寿命」という言葉があります。平成28年度の厚生労働省の調査によると女性の平均寿命は87.14歳、男性の平均寿命は80.98歳です。そして、女性の健康寿命は74.79歳、男性の健康寿命は72.14歳です。年々、平均寿命は伸びている傾向にありますが、大切なのは健康寿命を延ばして豊かな人生を送ることです。ではどのように健康を維持していけばいいのでしょうか?多くの人は何らかの病気で死を迎えるのですが、どのようにして健康状態から病気へと進行するのでしょうか?そのプロセスを考えてみましょう。

健康な人がいきなり病院の検査でも分かるような「器質的な病気」になることはありません。最初は、身体の「働き」が悪くなります。その結果、「機能的異常の症状」が現れます。身体の痛みや不快感は機能的異常のサインとして教えてくれます。その機能的異常が慢性化すると、今度は器質的異常を引き起こして病気になります。そして、最終的にそれが致命的になるとその病気で亡くなるというプロセスを経ます。では、そのような病気にならないためにはどのように予防すればよいのでしょうか?
 
病気の原因は何なのでしょうか?前述したように慢性症状の多くは、まずは機能的異常から引き起こされます。その機能的異常の原因は、体質(遺伝)、生活習慣、感染、環境問題という素因に、様々な要因のストレスが加わり、適応力が低下して身体の働きに異常(機能的異常)をきたします。そして、その機能的異常が誤作動記憶として脳にクセがついてしまい、慢性化へと移行してしまうのです。これが、健康から病気へと進行する大まかなプロセスです。

病院では主に「器質的な問題」や「精神的な問題」を対象にしますが、ファミリーカイロでは、身体面の機能異常と心(脳)と身体の関係性による機能異常を調整させていただきます。病院では見つけることが難しい微妙な神経や筋肉の「働き」の異常や脳の「誤作動記憶」を整えることが可能です。身体の不調を感じたら、まずは身体の「働き」に注目して調整をしてみましょう。

2019年7月18日木曜日

鳥肌が立つぐらい良くなった・・・(痙性斜頸の症例)

「前回の治療を終えてから帰るとき、本当に鳥肌がたつぐらいに良くなっていました・・・このまま治るのではないかと思うくらい・・・」50代前半の女性の患者さんからコメントをいただいた。症状は痙性斜頸(ジストニア)。まだ、完治したわけではないが、症状の改善に感動されてこのようなコメントをいただいた。20代後半から約25年間症状を抱えているが、5年前から症状悪化。そのため仕事を辞める。人を意識した時などに特に顔が左に回旋する。悪くなり始めの頃から整形外科、鍼灸院を数カ所、5ヶ月前からは別の整形外科に週1回で5回ほど通院した。その後、大学病院を受診して5回通院されたとのこと。大学病院ではナーブロック注射を受ける。

来院の5ヶ月ぐらい前から症状が悪化して病院での治療も受けているが、改善が見られず少しずつ悪化しているかも・・ということを問診票に記載されていた。初回の施術を終えた後に症状の改善を感じられた様子で継続的に通院していただいている。7回目の来院時には良くなってきていることを自覚されていたが、その後、症状がぶり返すこともあった。13回目の来院の際に、前述のように、「前回の治療を終えてから帰るとき、本当に鳥肌がたつぐらいに良くなっていました・・・」というコメントをいただいた。初回の来院時から比べると確かに症状の改善が見られる。25年も抱えていた症状なので、様々な誤作動記憶の反応がでる。だが、施術を行うたびに消去法のように着実に改善している経過が伺える。

この頃では何よりも患者さんの顔の表情に変化があり、スタッフの間では「だいぶん変わってきたよね・・・」と話していた。50代前半の女性には失礼かもしれないが、あどけない自然の顔の表情が垣間見られるようになった感じで、受付では「最初は目をそらしていることが多かったけれども、しっかりと目を見て話されるようになっている・・・」らしい。恐らく症状の背後に隠れているメンタル的な側面が楽になっている様子で、そのことと連動して顔の表情や仕草に変化が現れているのだと思われる。

「鳥肌が立つぐらい良くなった」というコメントをいただく前の施術では、色々なメンタル系のキーワードが関係していたが、その中でも「猜疑心」というワードが大きな影響を与えていたのではないかと感じている。患者さんは治したい一心で通院されているのだが、心の奥には、長年患ってきた症状なので、「簡単に治るはずはない・・・」と自分の治る力に疑いを持つ思い込みをしていたことが分かった。患者さんは、「本当に治ることが奇跡・・・」とも仰っていた。

そこで、私は、「患者さん自身が治ることを心の底から信じられないと、その信念が足かせになって、本来は治る症状も治りにくくなる傾向がありますよ・・・」「症状を創ったのは患者さん自身の脳であり、脳が誤作動の記憶をしているだけなので、その症状を引き起こしている誤作動の記憶を施術することで治ると私は信じていますよ・・・」というようなお話をさせていただいた。また、意識と無意識の奥深い関係性も患者さんに理解してもらえるかどうか半信半疑ではあったが、あえてこのタイミングで説明させていただいた。

「治ることが奇跡・・」という患者さんの何気ない言葉ではあるが、その言葉の裏には「治るはずがない・・」という信念が隠れている可能性がある。ある意味それは「治らない」という「予言」でもある。もしも、治る方向へ行くと、その予言は崩されてしまうのである。そのような信念を無意識的に思い込んでいると、それは強いブレーキとして治癒力を制限する。また、信念とは自分が正しいと信じていることなので、もしも、治る方向へと進むと、自分が長年信じてきた信念や予言が崩される感覚になる。そして、無意識はその信念が壊れないように症状を呼び戻してしまうというような自己矛盾が生じてしまうことが推測される。

心理学的にとても深い話なので少しためらいはあったが、チャレンジして話してみた。すると、患者さんはそのことを理解してくれた様子で、そのような無意識の自分がいてもおかしくはないようなことを言われていた。そして、その説明も含めて「猜疑心」に関係する誤作動記憶の調整をした。他にも調整したキーワードがあったが、もしかすると、今回の改善はその説明とそのキーワードの調整が大きな作用を及ぼしたかもしれないと思う。

単純に信じれば良くなるということではないが、患者さんが無意識に抱いている自分への治癒力に対する不信感は、施術効果に多大な影響を及ぼしている。長年症状を抱えていると、「治したい・・」「いやいや治るはずがない・・・」などの心の葛藤があっても不思議ではない。治療者はこのような心の奥に隠れた葛藤や自己矛盾に対しても働きかけて整理するサポートをしなくてはならない。このような症状は、複雑な脳が関係しているがゆえにハウツウ的な治療法で治る症状ではないと言っても過言ではないだろう。

ジストニアの症状のほとんどが大脳基底核、大脳辺縁系、小脳など様々な脳の領域に関係しているが、知覚神経や運動神経を通じて、神経学的機能低下領域を刺激すれば治るという単純な症状ではない。意識と無意識の関係性や過去のトラウマなど脳の無意識的な関係性が誤作動として記憶されている。脳の機能そのもの自体が複雑に関係しあっており、無意識的な記憶が複雑に絡み合っている。ジストニアの調整はその複雑に絡み合った記憶の糸を解きほどいて整理していかなくてはならない。神経科学の研究が進むにつれて、未知の領域である脳の「複雑性」が徐々に解明されている。脳の機能は教科書に描かれているような線形の世界ではなく非線形の世界であることをジストニアの治療に関わる治療者は理解する必要があるだろう。