私たちは知らず知らずのうちに様々な医学的な健康情報をインプットして、自分の治癒力を信じるよりも、科学的情報の方を信じてしまっている人も少なくはありません。例えば、「椎間板ヘルニアだから手術をしなければ治らない。」「膝関節が変形しているから手術をしなければ治らない。」のような診断を病院で受けると多くの人はそれを信じ込んでしまいます。そのため「手術をしなくても治りますよ!」といっても簡単には変わりません。
ところが最近では、今まであまり語られることのなかった身体に及ぼす心理的影響が語られるようになりました。また、科学的研究の進歩にともなって、構造異常が直接的な痛みの原因とは限らないという真実が明らかになってきています。「変形=痛み」という考え方はとても時代遅れのように感じます。
2002年にニューイングランドの医学雑誌に興味深い研究報告が掲載されました。重度の膝痛の手術が研究対象になりました。研究を行った医科大学の外科医は、どの部分の手術が患者の苦痛を和らげるのかを明らかにしようと考えました。患者を三つのグループに分け、一つ目のグループでは、傷んだ膝の軟骨を削りました。二つ目グループでは、炎症反応を引き起こすと考えられる物質を除去しました。以上の二つはいずれも膝関節炎の標準的な手術法です。
三つ目のグループでは「偽の」手術を行ないました。患者に麻酔をかけ、標準的な手術と同じように三カ所で切聞を行ない、本物の手術のときとまったく同じようにふるまい、しゃべる内容も本物の場合と変わらないようにしました。食塩水を流して、膝を洗浄するときの音を再現することまでしました。40分後、切開した部分を縫合しました。これも本物の手術とまったく同じ手順でした。手術後は、どのグループの患者にも、運動プログラムなどの術後ケアを受けてもらいました。
結果は衝撃的でした。一つ目と二つ目の手術を受けた患者の症状は予想通りに改善しました。そして、三つ目の偽りの手術を施したグループも同じように治療効果が見られたのです!研究を行った外科医は、研究を行う前は「まともな外科医なら、手術にプラシーボ効果などあるはずがないとわかっています。」と言っていましが、その外科医はこの研究結果からはっきりと悟りました。「わたしの外科技術は、全然、これらの患者の役にたっていなかったのです。膝関節炎の手術の成功は、すべてがブラシーボ効果によるものだったのです。」
この研究はテレビのニュースでも紹介されました。プラシーボ・グループの患者が、歩いたりバスケットボールをしたりといった、「手術」前には不可能だったことをこなしている様子がビデオで紹介され、驚くべき結果を実際に目で確認することができました。この患者たちは、自分が偽手術を受けたことに、2年間まったく気がつきませんでした。
この研究成果から外科的手術にはある種の儀式によるプラシーボ効果(暗示効果)があるといえます。言い換えれば「肯定的な思い込み」です。この反対がノーシーボ効果といい「否定的な思い込み」で、椎間板ヘルニアや膝の変形のために関節が痛いと思い込むのはノーシーボ効果と云えます。
様々な健康情報、医学情報があふれている中で、その情報を信じる前に、自分の治癒力を信じましょう。誰にでもある思い込みですが、「肯定的な思い込み」をするかどうかは自分次第です。本当の健康は自分の治癒力を信じることから始まります。
引用文献:『「思考」のすごい力』 ブルース・リプトンN Engl J Med. 2002 Jul 11;347(2):81-8.A controlled trial of arthroscopic surgery for osteoarthritis of the knee.Moseley JB, O'Malley K, Petersen NJ, Menke TJ, Brody BA, Kuykendall DH, Hollingsworth JC, Ashton CM, Wray NP.
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