ジストニアの原因は、医学的に特発性(原発性)ジストニアと症候性(二次性)ジストニアに大きく分類されています。特発性ジストニアは、病理学的に脳の構造的異常が認められないものです。症候性ジストニアは、別の疾患や事故などが元にあって二次的に生じたものです。その場合、MRIやCTの検査によって、大脳基底核(特に淡蒼球)などに病理学的な病変が存在することがあります。また、薬剤投与による薬剤性ジストニアも症候性ジストニアに含まれます。
当院のような代替医療の治療院に来院されるジストニアの患者さんの多くは、来院前に神経内科などの専門の病院で、障害の筋肉を司る脳や神経系に病理的な異常がないかどうか検査を行います。もしも、器質的な異常がなければ、「特発性ジストニア」となるわけですが、「器質的ジストニア」以外は脳や神経系に関連する「機能的ジストニア」として分類することもできます。では、何が脳や神経系の働きを乱す原因になるのかということになりますが、その多くは心理的な要因が関係しています。心と身体は密接に関係し合っているという観点で考えるとごく当たり前のことです。しかし、西洋医学の思想の影響でそこを切り離して考える医療者は多いようです。
西洋医学の論文で心因性ジストニアは稀とされる記述もありますが、西洋医学の診断の多くが機械論的な思想に基づいた目に見える「器質因説」に基づいており、心と身体の関係性による誤作動記憶という目には見えない心身相関に関連する「心因説」の存在の多くは検査対象外となりやすい傾向があります。そして、明らかな「心理-社会的要因」が見当たらない場合は「特発性ジストニア」として、対症療法的にボトックス注射や薬が処方されます。一時的な症状の緩和が見られる方もいるようですが、副作用があったり、本質的な治療法でないために症状が振り返されたりする傾向もあるようです。
現代医学における心因性ジストニアに関する症例報告を検索すると、あまり、報告されていないという印象を受けます。数少ない症例報告の内容は、心理テストでも示されるような明らかにメンタル的な問題が存在する患者の症例がほとんどで、私はそこに現代医学の盲点があるように感じます。当院に来院するジストニアの患者さんの多くが、神経内科などの専門医を受診されて、ボトックス注射などの対症療法を避けて来院されるケースで、また、病院で通常の問診を受けてもメンタル的には問題があるとは思えないような患者さんがほとんどです。
しかしながら、PCRTのプロトコルに沿って検査を進めると、心理-社会的な心因性の誤作動の記憶が検出されます。そして、その誤作動記憶が消去されるごとに、条件付けされた不随運動が徐々に改善されます。原因パターンの複雑さや広さにもよりますが、患者さんが早期に施術を受けるほど改善も早まる傾向にあります。PCRTで改善される心因性ジストニアの患者さんのほとんどが、無意識的レベルの感情や信念の記憶に関係しています。それは誰にでもある誤作動の記憶です。多くの患者さんはそのことがいわゆるトラウマとして原因になっていたということを認識されます。
代替医療を利用する患者さんの多くが「機能説」に基づくジストニアですが、当院に来院される患者さんも病院以外に鍼治療やカイロプラクティック、整体などの治療を受けて改善されずに来院されます。そのような患者さんにはどのような治療を受けたのかをできるだけ尋ねるようにしています。多くの患者さんは具体的な施術目的までは分からずに治療を受けている方がほとんどですが、多くの代替医療の治療院では「機能説」に基づいて、筋肉の緊張緩和や神経系の機能回復の目的で治療を受けているようです。
「機能説」に基づく治療法もいろいろありますが、神経学的なアプローチをする治療者は、ジストニアに関係する神経学的な機能異常の部位や神経経路を特定し、その機能回復を目的に神経学的な刺激を加えるリハビリを患者さんに指導します。脳の可塑性を活用したリハビリ療法ですが、患者さんはよほどの覚悟をしてリハビリを長期に継続する必要が求められます。もしも、長期的なリハビリが継続され、脳の機能異常部位への適切な刺激が行われれば、脳の可塑性が促進されて効果が現れる可能性があります。
しかしながら、神経学的な機能異常にはそれを引き起こす原因があります。繰り返しますが器質的な原因でない限り、機能異常の多くは心因的な原因が関係しています。脳や身体に記憶された誤作動は、単純な神経学的な機能低下という観点ではなく、無意識的に条件付けされた誤作動の記憶という関係性から考えることで、さらに早く改善が促されます。
スポーツの分野で知られているイップスの症状も程度や部位などの違いはあるにせよ、脳の誤作動記憶に関係して無意識的に筋肉の不随意運動が生じるという点においては心因性ジストニアと同じメカニズムです。意識と無意識とが離れすぎて脳と身体が調和できていないという点においても同じであり、どちらも意識と無意識の関係性、脳と身体の関係性、脳と環境との関係性など、「関係性」に基づく誤作動の記憶を書き換えることで本質的な治療につながります。
「器質説」に基づく原因療法は西洋医学、「機能説」に基づく療法は代替医療となりますが、神経系の機能異常にメンタル面が関係していることを忘れないでください。心と身体は切っても切れない密接な関係性があります。その「関係性」を含めて患者さんを診ることでホリスティックな本質的な治療が実現するのだと思います。
8月5日は、ジストニアとイップスに関するPCRT研究会をOneDayセミナーとして開催します。参加資格はPCRTの認定者に限定しておりますが、資格のある方はぜひご参加ください。ご一緒に治療の質を高めていきましょう。PCRTを利用したジストニアとイップスの症例報告はHPに掲載されていますので、下記をご覧ください。よろしくお願い致します。
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