2012年11月28日水曜日
コーチングスキルが臨床現場で活かされる
先日、不眠症で悩む患者さんが二日連続で通院され、約5年ぶりにまともな睡眠を取ることができたとのご報告をいただいた。その患者さんは、睡眠時間が毎日平均して2~3時間で、頭痛や気分の落ち込みが時々あるとのことで来院。休職中で早く復帰したいとのこと。大学の附属病院の心療内科や他の精神科も受診。
約6年前にうつ病と診断されて投薬治療を始めたが効果がないとのこと。最近受診した医師の診断では、「うつ病」ではなく「気持ちの持ちようだ」といわれ、漢方薬を処方されたが効果がなかったらしい。
最初はご本人よりも奥様の方が何とかしたいという印象を受けた。お住まいが遠方なので継続して治療を続けることが難しい状況。初めに2日間連続で来院された後、3か月後に再度2日間連続で来院していただき、今回の来院で改善への突破口が開かれたように感じた。
「不眠」の症状を改善させるために、単に身体的な機能を回復させるだけでなく、不眠に至った原因やプロセスを把握し、不眠という症状を創りだすプログラムの再構築が必要になる。不眠を引き起こすプログラムは患者さんによって様々である。「そのプラグラムはどこからどのようにして構築されたのか」その探索への道のりを患者さんと共に歩きながら改善へのカギを見つけ出すことがポイントになる。
そこで大切なのは、患者さん自身が主体的にその探索に関わるということ。そして、治療者が評価や判断をするのではなく、患者さん自身の経験に基づいた「気づき」を得るということ。その探索への道のりで治療者に求められるのは、患者さんへの「質問力」である。どのような質問を投げかけるかによって、今まで考えたことのない思考へのスイッチが入る。すると今まで考えてもいなかった領域に「スポットライト」が当てられる。
この新たな領域にスポットライトを当てることが、「負のサイクル」から抜け出す改善への第一歩を踏み出すきっかけとなることが多い。脳への大きな刺激となる「質問」は、患者さんとの関係性の中で瞬間、瞬間に創り出される。マニュアル的に用意された質問を投げかけるのではなく、それぞれの患者さんの経験に応じて、その場その場で直感的に質問を投げかけることが必要になる。その「質問力」や「直観力」を身に着けるためには、知識だけでなく「トレーニング」が必要である。
コーチングのトレーニングにおいては様々な経験を積みかさねて自分の血肉にしていくことが必要である。コーチングに関わる知識情報を知ることも大切だが、実践的なコーチングでは単に知識を持っているだけでは活かしきれない。人のメンタルや行動に関わる問題は、つかみどころがなく、答えは常に患者さん自身の中にある。
患者さんとの「より良い関係」を優先するが故に、患者さんと同じ思考ラインに入って、患者さんが考えているパターン領域しか見えない、見ようとしないということもあるだろう。患者さんを刺激しないように不快な感情を与えないように細心の注意を払うかもしれない。しかし、患者さんが求めている症状を改善させるためには、時には鋭い質問を投げかけることも必要になる。患者さんとの信頼関係にひびが入るかも知れないということも踏まえてのチャレンジ的な質問も必要になるだろう。
コーチングでは常にクライアントの「主体性」を引き出すことが基本となる。誰かにさせられている、誰かに責任を転嫁するというパターンでは、本質的な問題が解決されないことが多い。治療者は患者さんの肉体的、メンタル的な問題を解決するお手伝いをするうえで、時には指導や助言を行いながらより健康になれるようにサポートをしていく。その過程の中で、患者さんの「主体性」を引き出すことはとても重要な課題になるだろう。
本当に役立つコーチングを身に着けるためには知識だけでは限界がある。実践的なコーチングのトレーニング受講することで、コーチングの本質を肌で感じ、実戦で何度もチャレンジと失敗を繰り返し、さらに受講者間で信頼関係に基づいた深いフィードバックをし合いながらコーチとしての基礎を築き上げていく。
通常、コーチングの効果を測るためには、コーチングの前と後の数値的な比較が必要になる。その結果を見て初めてコーチングの成果が分かることが多い。しかし、施術の中で取り入れているコーチングの場合、いつコーチングをされ、どのようなコーチングをされたのか分かりにくいことが多い。特に複雑な症例の施術効果の背後には随所にコーチング手法が何気なく使われて自然に施術効果が引き出されていることが多い。
コーチングの学びの中で、「質問力」に加えて奥深さを感じさせるのは「フィードバック」である。コーチングのトレーニングを受けると、見方のバリエーションが幅広くなるため、自分自身の振り返りと同時に幅広い視点から物事をとらえ、様々な角度に「スポットライト」を当てる技能が身に付きやすくなる。コーチングは治療効果を最大限に引き出す「縁の下の力持ち」になってくれるだろう。
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿