患者(クライエント)への「質問力」その10【フィードバックのスキル】
コーチングのスキルの中で、フィードバックというスキルがある。治療者(コーチ)が相手の鏡になったように、相手の表情や使った言動を客観的に伝えたり、治療者が直感的に感じたことを自分のメーセージとして、評価や判断を入れずにありのままに伝えるスキルである。例えば、相手が「〜された」とか「〜と言われた」というような被害者用語を繰り返し使っている場合、治療者は「あなたは、以前から『〜された』という言葉を多く使われているようですが、自覚はされていますか・・・」というようにフィードバックすると、患者(クライエント)は、「はっ」と気づいて、変化が促されることも少なくはない。このようなフィードバックは、相手を批判しているかのように受け止められる危険もはらんでいるが、あくまでもクライエントの鏡になって無意識的な心の癖をフードバックすることで、クライエントが気づかない盲点の視野を広げる手助けになる。
フィードバックの中には、相手の話す内容を整理して一つのキーワードで表現したり、相手の話した内容をまとめて表現する「要約のスキル」もある。対話の中で、相手が話している内容にまとまりがなく、話している本人も話の内容を整理できない場合がある。その場合、治療者が「それは、〇〇ということでしょうか?」と話の内容の要点を整理して言い換えることがある。もしも、その要約が相手の話したい内容にぴったりであれば、よく理解してくれていると相手は感じる。対話の中では、できるだけ相手が使っている言葉を大事にして「おうむ返し」をした方が、信頼関係を得やすいが、話の内容がまとまりがなく整理が必要な場合は、あえて、異なる言葉で言い換えたり、要約することで信頼関係を深めることができる。だが、相手が慣れない言葉で表現をしてしまうと相手との距離が離れてしまうこともあるし、相手が伝えたい内容の意図とは反する言葉で言い換えてしまうと、信頼関係を損なう要因にもなるので注意が必要だ。
相手の話をまとめたり、整理をする要約のスキルを使った以外に、相手の気持ちを察して先取りして共感するスキルもある。例えば、子育てのストレスを抱えて体調不良を生じさせているようなクライエントであれば、お母さんに、「お子さんは何歳ですか?」と尋ねて、お母さんが、「2歳です」と答えたとする。治療者が「その年頃は大変ですよね・・・」と共感のフィードバックをすると、相手は「私の置かれた立場をよく理解してくれている」と受け止められがちになり相手との距離が縮まる。けれども、やみくもに共感すれば効果が得られるというわけではない。子育ての経験もないのに共感をしても、不自然になるだろうし、相手の痛みや苦しみは本人でしか分からないことも多々あるので、相手の立場にたって正直に感じたままをフィードバックするのが信頼関係を気づくコツになるだろう。
また、クライエントの苦しみや悩みを共感しながらも、治療者は第三者的な立場で、クライアントがその負のサイクルから抜け出すことのできる視野を広げ、幅広くフィードバックすることが大切で、共感して患者の立場に入り込んだり、第三者の立場で引いたりしてバランスよくフィードバックしながらクライエントをサポートしていくことが大切だろう。
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