2018年4月23日月曜日

患者(クライエント)への「質問力」その11【チャレンジのスキル】

患者(クライエント)への「質問力」その11【チャレンジのスキル】

経験の長い治療者であれば、患者(クライエント)に対して「もっと、〜〜すれば早く良くなるのに・・・」、「〜〜の考え方を手放せば楽になるのに・・・」、あるいは「〇〇のように受け止めればもっと人生が楽になるのに・・・」などと心の中で感じたことはないだろうか。信頼関係が深ければ、治療者は率直にそのことを伝えてチャレンジすることもできるが、まだ、信頼関係が浅い段階で、そのようなチャレンジをしてしまうと、信頼関係が損なわれる可能性がある。「チャレンジ」とはこのように信頼関係を損ないかねない状況においても、患者のためになることを提案することである。患者の望む満足ラインでサービスを提供するのか、あるいは信頼関係が損なわれることを恐れず、患者の将来のためになることを提案してチャレンジするのかとても難しい判断である。

近江商人の商売十訓の中で「無理に売るな、客の好むものも売るな、客のためになるものを売れ」という言葉がある。客を治療現場の患者(クライエント)に置き換えると、「無理に治療するな、患者の好むものも提供するな、患者のためになるものを提供せよ」ということになるだろう。とりわけ慢性症状を抱えた患者さんの多くがメンタル面との関係性が原因で症状を長引かせている場合が多い。経験を積んでいる治療者は、直感的にそのことに気づいて、患者にメンタル系の施術を促すことがある。治療者の提案に従って、喜んでメンタル系の施術を受け入れる患者は、本質的な原因にアプローチするので治療効果も高く、理想的な治療結果が早期に得られることが多い。その一方で、時折、メンタル系の施術に抵抗を表す患者がいる。患者が早期に改善するようにと、患者の先々のことを考えての提案ではあるが、患者がそのような施術を好まなければ、患者が望む身体面だけの施術にとどめてしまうことになる。

患者のためを思っての提案だが、患者が好まなければ致し方ない。無理には治療できないので患者が望む施術法でベストを尽くさなければならない。だが、近江商人の「客の好むものを売るな、客のためになるものを売れ」というルールには反することになる。本質的な治療効果を提供したい治療者にとってはジレンマになるが、無理に押し売りはできない。このようなケースは珍しくはないが、この場合、治療者は施術の選択肢を提案しながら、時折、患者が次のステップへと進むためのタイミングを慎重に図って、チャレンジしていくことが大切だろう。

それにしても、本当に患者のためになるかの判断はとても難しい。患者のためになるからといってチャレンジして誤解を招くこともある。信頼関係を損なうようなチャレンジをして、ほんとうに患者の将来のためになるかどうかと問われると、実際には時が経たなければ分からないだろう。「チャレンジ」の背景にある考え方の多くは治療者の経験などに基づく信念から生じるが、その信念が本当に目の前の患者のためになるかどうかは分からない。「人間万事塞翁が馬」という諺がある。ある不幸な出来事が、将来は不幸なのか幸福なのか予想し難いように、患者のためになる予測される提案も、時が経たなければ本当のところは分からないということだろう。要するに、チャレンジする場合、患者のためになると考えることも大切だが、その提案が本当に患者のためになるかどうかは、時が経たなければ分からないということも心の隅に置いておくことが必要であるのだろう。

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