2018年11月30日金曜日

変形性膝関節症の原因療法

70代前半の女性が膝関節の痛みを訴えて来院。3年ほど前より膝関節痛を発症。歩き始めに左膝の内側に痛みを感じ、重いものを持って歩く時も痛む。特に階段を降りる時に痛む。痛み始めてからは徐々に悪くなっているとのこと。整形外科を受診され、レントゲン検査で、変形性膝関節症の診断を受ける。電気療法、投薬、貼り薬の治療、並びにリハビリ療法を受ける。

初回の施術

調整前の目安検査
膝関節の屈曲で約100度超えたところで膝関節内側部に疼痛(VAS8)。筋抵抗検査では、股関節の屈筋群、伸筋群、内転筋群、外転筋群、膝関節屈筋群で弱化反応が示された。

AM調整
骨盤、腰椎、胸椎部、膝関節部、股関節部を調整。

調整後の目安検査
調整前の膝関節屈曲時疼痛はほぼ消失(VAS2)。陽性反応が示された筋抵抗検査は、すべて陰性化。

感想
患者さんは、調整後の痛みが改善され、驚きと共に大変喜ばれていた。

2回目の施術(3日後に来院)

患者さん曰く、膝は大分良くなったとのこと。歩き始めの痛みは無くなったという。

調整前の目安検査
膝関節の屈曲で約130度超えたところで膝関節内側部に疼痛(VAS6)。筋抵抗検査では、股関節の内転筋群、伸筋群、膝関節屈筋群に弱化反応が示された。

AM調整
骨盤、腰椎、胸椎部、膝関節部、股関節部を調整。

調整後の目安検査
調整前の膝関節屈曲時疼痛はほぼ消失。陽性反応が示された筋抵抗検査は、すべて陰性化。

感想
患者さんは、調整後の痛みは、初回の施術と同様に改善され喜ばれていた。

3回目の施術(10日後に来院)

患者さん曰く、調子は良かったが、良好で歩き過ぎて元に戻ったとのこと。

調整前の目安検査
膝関節の屈曲で膝関節内側部に疼痛(VAS8)。筋抵抗検査では、股関節の屈筋群、伸筋群、内転筋群、外転筋群、膝関節屈筋群で弱化反応が示された。

AM調整
骨盤、腰椎、胸椎部、膝関節部、股関節部を調整。

調整後の目安検査
調整前の膝関節屈曲時疼痛はほぼ消失(VAS2)。陽性反応が示された筋抵抗検査は、すべて陰性化。

感想
施術後には症状も改善するが、ぶり返すことから不安定性を感じる

4回目の施術(4日後に来院)

患者さん曰く、前回ほど悪くはないが元に戻ったとのこと。

調整前の目安検査
前回とほぼ同様の反応が示された。

AM調整
前回と同様に調整

PCRT調整
今回は、症状のぶり返しが繰り返されていることからPCRTの調整を加えた。
PCRTではいくつかの潜在的な恐れが関係しており、それを調整した。

考察
約1ヶ月後、当院をご紹介して下さった息子さんが来院されたのでお母様の様子を伺った。すると、お母様の膝の調子は良いとのことで、お礼の言葉をいただいた。恐らく、前回の治療で原因となっていたメンタル系が調整できたのだろう。このようにハード面(肉体面)だけの調整でよくなる事例もあるが、ぶり返す場合はソフト面(メンタル面)の調整を行わないと根本的には改善されない方も少なくはない。

なぜ、病院で治療を受けているのに治らないのか?それは、原因療法ではなく対症療法だからだろう。対症療法とは症状に対する療法で、原因に対する療法ではない。原因にも多く分けて、ハード面とソフト面のレベルがある。今回の患者さんは、最初はハード面の神経のコントロール系の調整で、施術後はすぐに改善した。しかし、症状がぶり返すことから、ソフト面の調整を行い、そこからぶり返さなかったことから鑑みると、根本原因はソフト面レベルにあったことが推測できる。

ここでいっているハード面の異常とは、神経系の働き、筋肉系の働きの異常であり、ひっくるめて「働きのバランス異常」ということになる。神経の働きにバランス異常が生じると、筋肉が正常に働かなくなり、関節がうまく噛み合わずに痛みなどの症状を引き起こす。一般の人の多くは、筋肉が弱いから筋肉を鍛えればよくなる。あるいは体重を減らせば良くなると思い込んでいる傾向があるが、それは正しい理解ではない。

なぜなら、ボディービルダーのようなスポーツ選手でも神経、筋肉系のバランス異常が生じれば関節が痛くなるし、たとえ痩せている人でも関節痛はある。でも、一般の多く人は機械論的な分かりやすい理屈を信じる傾向にある。原因療法を志している治療者として、もっと分かりやすい言葉で伝える努力をしていかなくてはならないと常々思う。

2018年11月24日土曜日

首の痛みが教えてくれた「結婚の目的」

30代の女性が首の痛みを訴えて来院。最初の頚部痛の施術で肉体のみのハード面の施術を行ったが、深いところの緊張が改善されていない様子。そこでメンタル系のソフト面の施術を行う。検査では「意欲」に関係していたので、将来の意欲に関係することを意識してもらい調整。施術後に痛みは軽減したが、11日後に首の痛みが継続しているとのことで再来院。その日も将来の意欲で調整したが、同じ意欲のパターンなので、恐らく内容が不明瞭であると推測。詳しい内容をお聴きした方が調整も効果的になると思い、「話せる内容であれば内容を教えていただければ」と尋ねる。

前々回の副鼻腔炎の施術の際にも深い内容のことを伺っていたので、恐らくそのことに関連したことだろうと、内容をお聞きした。「もしも、意欲的になっているとすれば、仕事と家庭を両立させるとのことかな・・」という。そこから、生体反応検査を行いながら、質問させていただき、深いレベルの無意識を探索。

*コーチングのやり取りが厳密ではないが以下のように進めた。

何のために仕事と家庭を両立させるのですか?
「幸せのため・・・」
あなたにとって仕事と家庭の両立で得られる幸せとはなんですか?
「・・・良きパートナーと巡り会えて・・・子供を産んで幸せな家庭を築く・・・」
そもそも、結婚の目的は何ですか?何のために結婚をするのですか?
良きパートナーと巡り会えて、子供が生まれると幸せになれそうですか?
「いや・・・お互いに成長しながら家庭を築いていくこと・・・」

生体反応検査法ではさらに深い意欲の目的はないようなので、そのことを認識してもらい調整。その後、調整前にあった首の回旋時痛は消失した。また、将来への意欲に関係する目的が整理された様子で、喜んでいただいた。恐らく、ご本人は将来について深く考えていたのだろう。なぜなら過去に色々経験をされていたので、今度はそのようなことが繰り返されないようにと真剣に自分の将来について考えていたのが伝わってきた。恐らく、「何のために結婚するのですか」などと、誰からも質問されたことはないだろうし、一般的に「幸せになるため」としか答えようがないだろう。そこで、いきなり「あなたにとって幸せとはなんですか?」と尋ねられると、返答に困るのが普通だろう。

結婚して、子供を産んで、家庭を築いて、幸せになれるかもしれないし、なれないかもしれない。それはその人それぞれの価値観であるということは言うまでもない。ただ、あえていうならば、幸せとは「創り出すもの」で、単に「与えられるモノ」ではないだろう。むしろ、「与えることで得られるモノ」かもしれない。多くの人にとっての幸せは、良きパートナーを得ることや子供を授かることかもしれない。確かにそうかもしれないが、そこから何かを与え続け、創造していかなければ幸せは得られないだろう。「幸せ」は何かを得るということよりも何かに向かって前進し続けていく過程で遭遇するものではなかろうか?

今回ご紹介させていただいた患者さんも、恐らくそのようなことをどこかで考えており、施術の質問を通して気づかれ、モヤモヤした心の葛藤が整理されたようだ。そして、それに伴って首の痛みを生じさせた無意識の緊張がほぐれて症状改善につながったようだ。

首の痛みが人生にとって大切なことを教えてくれた一症例である。

2018年11月18日日曜日

2018年度PCRT上級研究会を終えて

お陰様で本年度最後となるPCRT上級研究会が終了しました。今回は初めてご紹介する内容ばかりでした。いつもご協力いただいているインストラクターの先生方も受講者としてご参加いただき、インターラクティブ(双方向)に質の高い学習ができたと思います。上級に相応しいレベルの学習内容で実りのある二日間でした。

最初は「記憶のしくみについての神経学的一考察」をプレゼンさせていただきました、ノーベル医学生理学賞を受賞したエリック・キャンデルの研究と長期記憶と短期記憶、ならびに陳述記憶と非陳述記憶を明確に示した心理学者ブレンダ・ミルナーの研究をPCRTの臨床と照らし合わせてご紹介させていただきました。

EB(エネルギー・ブロック)の検査ルールとして、「EBは観察者が持っている情報(知識)の範囲内のフィルターを通して、診ようとする(検査する)から存在し、診ようとしなければ存在しない。EBは観察者(検査者)と共に存在する。」という説明を復習しました。これは、言い換えると検査者が異なり、診ようとするマインド設定が異なれば、検査結果も異なるわけです。だからといって、どんな陽性反応がでてもいいという訳ではありません。

特に、反射系の施術であるハード面の調整法では、一連の目安検査とその調整による結果が、患者も体感できるような理想の結果がでていなければなりません。もしも、毎回の施術において、その場で症状も改善するような理想の結果が出ていないのであれば、自分の検査法のスキルに疑いを持つべきであるということを分かりやすくお伝えしました。

視線によるPRT検査法では、陽性反応を特定した部位と直接法による検査結果が一致していなければなりません。もしも、一致していなければ、フィンガーテストや間接法による検査法などのPRTが不安定であるということになります。熟練された上級者の先生方は安定している様子が伺えました。このような検査法をマスターすることで、施術時間も短縮され、効果的な調整法ができるようになると思います。

『過去のプチトラウマの調整』、『「復讐心」の「べき」の調整』、『信念の出所を特定』、『気づきによる「体感変化」』なども上級ならでは深みのあるワークがそれぞれに体験できていた様子でした。特に「高い存在」に聞くワークも上級者でなければできないワークだったと思います。また、恐らくミラーニューロンに関係しているであろうダミー人形を使ったワークもそれぞれの参加者が体験されましたので、臨床でスムーズに活用されると思います。

「術者患者間のラポール技法」では、それぞれの患者のニーズや満足度に合わせてラポールを強化する期待の管理をご紹介しました。基本的にはオーダーメイド的に様々な患者さんのタイプに合わせて、どれだけ寄り添ってニーズにお応えできるかということ。また、それぞれの治療院のルールの中で、できることとできないことを明確にして患者さんの期待を管理することの重要性もお伝えさせていただきました。

来年もさらに患者さん目線で患者さんに分かりやすい施術、楽しめる施術を目指して進化していきたいと考えております。よろしくお願いいたします。

2018年10月24日水曜日

発声イップス(機能性発声障害)

自律神経系の他の症状で以前から通院していただいている患者さんで、順調に様々な症状が改善しており、今度は話すときに滑舌や発声がうまくできなくて伝わりにくいのでその症状を改善したいとのこと。以前から問診の際に少し話が聞き取りにくいということは感じていたが、それほど気にはなっていなかった。でも、施術を継続してその経過を振り返ると、「あ〜これは本人にとって随分困っていた症状だったのか・・・」ということが後で分かった。この症状はいくつかの記憶による条件付けで発声に関係する神経系の誤作動が生じるという点において、「発声イップス」(機能性発声障害)といってもいいだろう。

発声イップスの施術後の約1ヶ月後、別の症状で来院された際に、そのことお聞きしながら患者さんの声が滑らかで聞き取りやすいのに気づいた。初診時からの声の印象しかなかったので、本来はこんなに聞き取りやすい滑らかな声の持ち主人だったのいかと内心驚いた。「あれから声の方はどうですか?」と尋ねると、「あ〜すごくいいです!」という。「そうでしょうね。声が滑らかですよね・・・」と伝えると、「ありがとうございます。嬉しいです!」と喜んでいただいた。

今回の成果は、改善するまでに2回の施術を行なった。この患者さんの場合、メンタル面が関係することが多いので、一回の施術に二枠のご予約をしていただき、通常の患者さんの2倍の施術時間(2025分)内で行う。最初の発声イップスの施術は滑舌の悪さも含めて調整を行なった。18年前の英語が上手く発音できない時の記憶や4年前の人間関係に関する記憶などが関係していたのが興味深かった。

その後の来院では発声イップスの症状ではなく、別の症状が強いのでその施術を行なった。そして、その後の来院で、滑舌は改善したが、音程の音感がつかめないという。他人には分かりにくいが、自分の声が理想の音程ではないとのこと。検査をすると陽性反応が示されたので、その誤作動の調整を行う。13年前の人間関係やカラオケの時の記憶などが関係していた。

本症例は、1回目の発声イップスの施術から別の施術を挟んで、二週間後の2回目の施術後に改善された。この患者さんは以前から別のメンタル的な症状で当院をご利用いただいており、当院のメンタル系の治療法に慣れているということも早期の改善につながったのだと思う。

2018年10月23日火曜日

痙性斜頸患者へ鏡療法(リバビリ)の可能性

先日、痙性斜頸で通院していただいている患者さんで、興味深い現象があったのでご報告させていただく。40代男性の患者さんで、最初の痙性斜頸の程度としては、首が左に向いてしまう傾向が強く、頸部や肩周辺にも痛みを伴って、かなり辛い症状がしばらく継続していた。遠方からだったがほぼ毎週通院していただき、ここ最近改善の兆しが見えてきている。今回の施術の際には、ご本人もだいぶん良くなってきた感じがしてきたとのコメントをいただいた。

良くなった一つのポイントとして、「良くなったら以前からの趣味であるバイクでのツーリングを始めたいという目標ができたことも一つの要因になっているかもしれない」とのことだった。施術途中で、左から右に向ける際に、引っかかりがあるので、「何か思い当たる原因はありますか?」と尋ねると、「左に向くと、そこから首が動かなくなるという恐れかな・・・」と話されていたので、その恐れで検査をすると陽性反応が示されたので誤作動記憶を調整。

その後、検査をすると、まだ引っかかりがあるので、患者の顔の前に鏡をおいて、鏡の中の自分の顔を見ながら、鏡を患者の首の動きに合わせて動かすと、首を左右にスムーズに動かすことができた。「ん???何がちがうのかな???」と自問自答して「あっ〜目標があるからかな・・・」と何かご自分で気づかれた様子。「改善したらバイクのツーリングで楽しめるという目標と関連があるのですかね・・・」とコメントすると、「あ〜そうかもしれない・・・」と言われていた。

痙性斜頸の原因は様々な誤作動記憶が関係していたが、原因の一つに症状を抱えることによる「肯定的な意図」も含まれていた。症状があることで、ある役職をしなくても良いという意味づけも関係していたようで、そのような意味記憶を超える目標ができたことで、治癒力も加速してきたように感じた。患者さんは治したい一心で遠方から通院していただいているが、治ることでさらに得られる目標があると治癒力も促進されるということは、度々遭遇する臨床現場だから分かるストーリーである。

今回の鏡を使った運動の検査は、鏡療法を応用したもので、以前から四肢麻痺の患者さんにリハビリ療法として使われ効果的であるとの論文も掲載されている。PCRTでは自分の症状のある姿が脳に記憶されて脳からの信号で症状を引き起こしている場合、客観的に自分を見てもらう訓練で鏡を使うことがある。今回、ジストニアの患者さんに試してみたら、効果的な現象が示された。他の痙性斜頸の患者さん達にも試してもらい痙性斜頸患者のリハビリ運動として使えるのか成果を確かめてみたい。

ただ、痙性斜頸のようなジストニアの患者さんは、特定のリハビリで改善するというわけではない。リハビリを無理に行うことで、できない動作をさらに記憶させて、逆効果が生じてしまう恐れもある。よって、ジストニアやイップスのリバビリ運動は、患者さんの状態に応じて慎重にアドバイスされた方が良いだろう。むしろ治そうと意識が向かなくなったときに、自然に良くなることもあるが、単純に意識を変えれば良くなるというものではない。似たような症状でも原因は一人一人異なるので、治り方も人それぞれに異なる。肝心なのは、原因となる誤作動記憶がどれだけ解放されるかにあるだろう。

2018年10月18日木曜日

結果が出せる検査法とは

健康維持や症状改善のための検査法を大きく分けると、自然治癒力や身体機能を引き出すための「機能学的検査法」と、身体構造を修正するための「構造的検査法」に分けることができます。先日開催されたアクティベータ・メソッドで使われている下肢長検査法は、「機能学的検査法」です。いつも下肢長検査法のレクチャーで強調しているのは、「機能的に診るのであって、構造的に診るのではない」ということです。経験のない受講者にとって、最初はこの概念を理解することは容易ではありません。

通常は機能=動き=働きというように考えますので、静止状態で下肢長を機能的に検査するとはどういうことなのか理解に苦しむところだと思います。静止状態では機能が分からないというのはもっともな理屈ですが、関節や筋肉を自動的に動かさなくても、生体は生きている限り神経系を通じて微妙に働いています。脳の細胞が寝ている間も活動しているように、筋肉を動かさなくても筋肉細胞やそれをコントロールしている神経細胞は常に動いているのです。そして、静止状態における筋肉細胞の微妙な働きは「筋肉のトーン」として現れます。

AMの下肢長検査は静止状態で相対的な下肢長差を判断します。筋肉や靭帯などを無視して骨の長さで診るのか、「関節のあそび」に関連する人体や筋肉のトーンで診るのかで、下肢長差の判断に大きな違いがでてきます。「構造的」に診ると左が短く見えるが、「機能的」に診ると右が短く見えるという場合もあります。初心者の多くはこの判断に苦労します。機能的に下肢長を診るスキルをマスターするのは、適切な指導の元で、繰り返し訓練することが大切です。数多くの患者さんの「機能的下肢長検査」を繰り返すことで、脳が自然にそのコツを覚えていきます。

恐らく教科書や文章を読んだだけでマスターしようとうしても難しいかもしれません。公認AMセミナーでしっかりと基本を繰り返し学び、それを臨床現場で何度も繰り返して自分の身体に覚えさせていく必要があります。私たちの施術は生体の機能を回復させる施術ですので、構造的な検査をしてもあまり価値はありませんし、構造的な検査を指標にしても結果がでないでしょう。機能の問題は機能的な検査に基づいて機能障害を判断し施術を行うので結果が伴うのです。もしも、構造の問題であれば、画像診断などの構造的検査に基づいて施術を行うのは言うまでもないでしょう。

AMは関節筋肉系の機能異常を調整するにはとても効果的な治療法です。適切な機能的下肢長検査ができれば、控えめに言っても9割は機能改善の結果が得られるはずです。もしも、結果が得られないのであれば、まずは、ご自分の下肢長検査法の精度を疑ってみましょう。機能的に検査しているのか?構造的に検査しているのか?そこに大きな上達のヒントが隠されているはずです。

2018年10月11日木曜日

健全な記憶の神経回路に書き換えて慢性症状を改善させる

健全な記憶の神経回路に書き換えて慢性症状を改善させる

2000年に神経系の情報伝達に関する発見の功績によりノーベル生理学・医学賞を受賞したエリック・カンデル教授は、「記憶」をテーマに研究を進めてきた神経生理学領域の第一人者の一人です。彼は幼少期にホロコーストに遭遇した経験から最初は精神医学、精神分析に興味を持ちました。その後、精神分析の根幹は何かという問いに対して、「記憶」というテーマが浮かび上がって脳の生理学的研究へと進んでいきました。

カンデル教授は、単純な神経システムを持つアメフラシを用いて記憶の分子メカニズムを次々と明らかにしていきました。アメルフラシは単純な無脊椎動物です。その非陳述記憶のメカニズムは基本的なところでは人間とそれほど違いはないといわれています。非陳述記憶とは身体で覚える記憶で、自転車の乗り方を自然に覚えていくような記憶です。頭で覚える陳述記憶はアメフラシにはありませんが、アメフラシの非陳述記憶の研究成果が人間にも通じるということを考えると非常にワクワクします。

カンデル教授は画像診断技術の発展に伴って、長期記憶に関わる神経回路の生物学的構造変化をライブ映像で示すことに成功しました。ライブ映像では長期記憶に関係する神経の枝が伸びていく様子を目で確認することができます。私たちが慢性症状に対する誤作動記憶の調整を行う際、患者さんに「新しい健全な記憶に書き換える」という説明を行っています。慢性症状を創り出す記憶の神経回路から健全な記憶の神経回路に書き換えて症状改善を促します。慢性症状で治る自信を失った患者さんにとって、このような最新の研究成果は治ることへの勇気付けになるのではないでしょうか。

繰り返される身体的な慢性症状や人間関係の問題やパフォーマンスの低下などは、すべて私たちの「記憶」が関係します。つまり、脳が私たちの経験を記録し、また、その経験に上書きして保存するという能力に関係しているのです。記憶は私たちの生活を豊かにし、社会や他者とのつながり、自己成長にはなくてはならない機能です。今後もさらに研鑽を重ねながら、多くの患者さんの健康の貢献できるように、健全な記憶の神経回路を上書きして慢性症状の改善にお役に立てればと願います。

まだ未開拓の脳科学の分野において「記憶」の研究は一番進んでいるようで、慢性症状が脳の「誤作動記憶」に関係するということをテーマにしている治療家にとって、臨床の成果を裏付けしてくれる研究がさらに進められることに大きな期待を寄せています。