患者(クライエント)への「質問力」その1【隠れたニーズを読み解く洞察力】
私たち医療従事者の多くは、身体的にもメンタル的にも何らかの問題を抱えている患者を対象に医療サービスを行っている。患者のニーズに応じて的確な質問をして、患者のニーズに応える使命がある。「患者」といっても幅が広い。「患者」とは健康上の問題のため、医師や専門の医療関係者の治療や助言を受け、医療サービスの対価を払う立場にある人である。心理療法やカウンセリングなどでは、患者ではなく「クライエント」という場合が多い。どちらも問題を抱えた人であるが、肉体面の問題を抱えた人は「患者」、メンタル面の問題を抱えた患者を「クライエント」と表現する場合が多い。
さらに、特に身体的にもメンタル的にも問題はないが、さらに理想の目標を達成したい、あるいはスポーツなどで、さらに自分のパフォーマンスを向上したいという意識レベルの高いクライエントのニーズも最近では増えてきているようだ。患者やクライエントのニーズ別に大きく分類すると、「身体的問題」、「心身相関的問題」、「メンタル的問題」、「ゴール達成のためのコーチング」というように分類されるだろう。そして、それぞれのニーズに応じて質問の幅や質が異なる。
治療者にとって肝心なのは、患者が本当に求めているのは何かという深い「洞察力」である。単に「腰が痛い」、「肩コリが治らない」という患者の愁訴の背後には様々な問題が隠れていることが多い。それは慢性的であればあるほど複雑に関係している。何が関係しているかというと、単に身体的な関係性ではない。例えば腰痛の問題であれば、主に構造面、関節・筋肉面、そして、神経系の機能面に分類されると考えるだろう。
もしも、椎間板ヘルニアや変形などの構造的な問題が見つかると、そこを痛みの原因にしてしまう傾向にある。構造的な問題があるのであれば、構造を修復させる外科的手術が必要だろう。しかし、多くの場合、構造的な問題が慢性痛の原因であることは少ない。むしろ神経学的な働きやメンタル面が関係していることが多い。メンタル面といっても、表には現れない潜在的な心の影響で、痛みの背後に隠れている。そのような痛みの背後にある隠れたニーズに対する質問は単純ではない。それは患者自身も気づいていない無意識の領域なので、様々な角度からの質問によって、だんだんとその背後にある患者のニーズが浮き彫りにされてくるのである。
例えば、同じような症状を半年から数年抱えている患者さんで、その症状を治すことが生きがいのようになってしまっている人もいる。症状を治すことがゴールになると、その症状が治ってしまうと、心に空白が生まれてしまう。では、別のゴールを提案して空白を満たせばいいのではと考えるかもしれない。しかし、患者さんに症状を治す以外の別のゴールを提案しても簡単にはいかない。そこには複雑な心理的な要因が絡んでおり、そこから抜け出すためにはさらに深いアプローチが必要で、その奥深いパターンを知るためには症状に背後にある隠れたニーズに応えることのできる質問が必要になる。
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