患者(クライエント)への「質問力」その5【質問力を高める「寄り添う力」】
質問力とは、単に質問の幅が広いとか、奥深い質問をしているという一方向の技量だけでなく、クライエントの無意識の答えを読み解く能力も問われる。マニュアル的に質問のフレーズだけを暗記して、一方的に投げかけても、相手の様々な反応をどのように読み取るかの読解力、判断力がなければ意味がないだろう。また、質問で相手も気づいていない心の奥から湧き出た本心を引き出すためには、相手との信頼関係を保つ「寄り添う力」も必要になるだろう。相手が醸し出す波長に上手に合わせることで、相手は心地よく心を開いて本当の答えを導き出すことができる。
武道などにおいても、「彼を知り己を知れば百戦殆からず」という諺のように、相手の実力や現状をしっかりと把握し、自分自身のことをよくわきまえて戦えば、何度戦っても、勝つことができるというようにいわれている。それは武道のみならず、経営などにおいても問題を解決するときは、その内容を吟味し、自分自身の力量をしっかりと認識したうえで対処すれば、うまくいくものだといわれている。医療の現場でいえば、相手の心や身体の現状をしっかりと把握し、自分自身の心の状態や知識や経験による力量をしっかりとわきまえて対処すれば理想的な結果が得られるということになるだろう。
患者が求めているニーズに応えるためには、まずは自分自身をしっかり把握し、頭と心、心と身体が調和していることが大切である。そして、患者のニーズに応えるだけの能力や経験を持ち備えておかなくてはならない。特に心の側面に触れる医療従事者は、様々な角度から患者に質問を投げかけながら、言語では言い表すことのできない心の内面を読み取る力、洞察力が求められる。実際の患者が発する言葉にならない無意識のメッセージは幅が広く、深いものがある。そのような心の隠れた信号を読み解くためには、相手の心に「寄り添う力」が必要とされるだろう。
ただし、相手の言葉や身体に合わせるだけでは、単に相手のラインに沿っているだけなので何の変化も生じなくなる。相手の変化をサポートするためには、まずは相手に寄り添って、時折変化球的な質問をして、未知(盲点)の領域、可能性への領域へ踏み出すサポートが求められる。つまり、寄り添いながらも「ずらす技」が必要になる。例えば、相手を力でねじ伏せるというよりも、むしろ、合気道などのように攻撃してくる相手の身体の波長にうまく合わせてから、相手の力を一旦自分の身体に吸収し、二人の身体が一体となったところでずらして技を決める。患者への質問力でいえば、患者に添って対話をしながら、相手の心を一旦受け止めて、質問の角度を少しずつズラして「盲点領域」への質問を投げかける。
しかし、「盲点領域」への質問を投げかける前に、患者との深いレベルの信頼関係は必修条件であり、深い信頼関係がなければ、患者への「盲点領域」の質問を投げかけても、相手は答えようとしないだろう。そのような深い信頼関係のことをカウンセリングの用語では「ラポール」という。質問力を高めるためには患者とのラポールは必要不可欠であり、そのためにも寄り添う力が必要とされる。
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